
2026年冬アニメの中でも、静かな熱量で注目を集めているのが、朱夏制作のアニメ「違国日記」(毎週日曜深夜12:00、TOKYO MX・ABCテレビほか/毎週日曜深夜1:00よりPrime Videoにて見放題最速配信、毎週金曜深夜1:00より各配信プラットフォームでも順次配信)だ。原作はヤマシタトモコによる同名漫画。人見知りの小説家・高代槙生(CV・沢城みゆき)と、両親を亡くした姪の田汲朝(CV・森風子)が、手探りで共同生活を営んでいく“年の差同居譚”だ。
“孤独”と向き合い、“普通”に飲まれず、自分なりの人生を歩もうとする登場人物たちの物語も中盤。企画初期から携わる上田智輝プロデューサーに、本作の制作背景を聞いた。
■「そういう考え方だけじゃなくても、いいよね」
――放送もクール中盤になりますが、手応えはいかがですか?
好意的なコメントをいただけていて、非常にありがたいです。たくさんの方に大事にされている作品ですから、ご期待に応えられているのかなと安心しています。同時に、このアニメ化で初めて原作に触れたという方も多くいらっしゃるようで、それもうれしいですね。
――本作のアニメ化は、大城美幸監督のご提案から始まったと伺いました。
私も含めたアニメチームから原作サイドにアニメ化のお話をしたのが、確か2020年の末か、2021年の始め頃。大城(美幸)監督からのご提案があったのは、その少し前でした。
――ということは、企画の立ち上げからは実に5年。
そうですね。最初は大城監督と、制作会社・朱夏の佐藤由美プロデューサーと、僕の3人で始まって。そこから脚本の喜安浩平さんにお声掛けをして、本読み(シナリオ会議)はかなり時間をかけさせていただきました。
――かなり前になりますが、最初に原作をお読みになったときの印象は覚えてらっしゃいますか?
大城監督から教えてもらって読んだのですが、僕自身もすごく惹かれる部分があったことを覚えてます。世の中に“こうあるべき”とされている価値観や考え方があるとして、それを強いられていると感じる人たちもいますよね。その人たちに向けて「そういう考え方だけじゃなくてもいいよね」と、“強いられている”と感じることを肯定してくれる度量がある作品だなと。キャラクター一人ひとりが優しさに満ちているというより、作品としてそういう考え方を提示する姿勢に優しさがあると感じましたし、この原作が多くの方に親しまれている理由はそれなのかなと思いました。僕自身としても、なんとなくモヤっとした気持ちや感覚を作中で言語化して、「こういうことじゃないか」と輪郭をつけてもらえた感覚があって。アニメ化することで、こういった感覚を多くの方と共有できるようになったらいいなと思った記憶があります。
――上田プロデューサーご自身が「言語化してもらえた」と感じたのは、例えばどんなことでしょう。
アニメのキャッチコピーでも“孤独”というワードを使っていますが、“孤独”という言葉はネガティブに取られがちですよね。でもこの作品は、極端にネガティブに思わなくてもいいんだなと、軽い気持ちにさせてくれる。親を失ったことを悲しいと思えずにいる朝に、槙生が「あなたの感じ方はあなただけのもので誰にも責める権利はない」と言うくだりにも惹かれました。あと、アニメでは現状の放送話数内では描かれていませんが、原作の漫画の中で、男子同士は“チキンレース”が行われがちという話にも触れていて、どうしてそこまでわかるのだろうと驚きました。自分は男性なので、学生時代などを振り返って「そういうものから振り落とされないように、無理をしていた部分もあったのかもしれないな」と、作品を通して教えてもらった感じがあります。
――原作も行間を読ませるタイプの作品ですが、アニメ版ではさらにモノローグが減っていたり、映像での心理描写が増えていたりと、視聴者を信頼して作られていると感じます。
確かにシナリオ会議の序盤で、「モノローグは漫画ほどは入らないかも」という話はありました。というのも当時、「漫画を読んだあとの読後感に近い映像を目指したい」という話をよくしていたんですね。そこを目指したとき、モノローグやセリフをそのまま起こすことが同じ感覚に直結するかというと、おそらく難しいのではないだろうかと。漫画は漫画という媒体で最大の出力になるように作られていて、アニメーションとは時間の経過が違うので、そのまま移し替えても同じ読後感に持っていくのは難しい。なので「アニメとして新しいものを作ろう」ということではなく、そのシーンで大事にしているエピソードやセリフを一番活かすために、モノローグを減らしたりさせていただいた部分もあります。「このセリフを聞きたかった」という原作ファンの方には申し訳なく思いますが、そういう理由で泣く泣く入れられなかった部分もありました。
■受け取る側に余地を残す沢城みゆきの芝居
――第1話の「あなたは、もっと美しいものを受けるに値する!」という槙生の声には、激しく心を揺さぶられました。上田プロデューサーは、沢城みゆきさんのお芝居の魅力をどんなところに感じますか?
この作品は、文脈から切り離したセリフの字面だけを読むと結構シビアで、強制力があるようにも受け取れるセリフがありますよね。槙生というキャラクターはそういう台詞も多いと思うのですが、沢城さんは「こうしなさい」ではなくて、「こういうことでもいいんじゃないか」「こういう考え方もあるんじゃないか」という温度感で演じてくださっていると感じました。そういう、受け取る側にも余地を残すキャラクター像を演じられているのかなと思います。
――冷たく響きかねない言葉なのに、あくまで「私はこう思っている」という範囲に収めていて、相手に押し付けない響きですよね。
槙生と朝は、メンター的な部分はありますが、先生と生徒のような関係ではないので。あくまで別の生き方をしている人が、自分の考えを伝えている。そのような絶妙な温度感の演技をしてくださっているのではないかと。

――お芝居の方向性については、何かお話しされましたか?
序盤の収録には、原作のヤマシタ先生や編集部の皆さんもご参加くださったので、キャラクターの細かなところまで見ていただきました。「もし角度が違う部分があったら、おっしゃってください」と。さらにヤマシタ先生は、キャラクターの性格や話し方についてのメモを事前にご用意してくださっていたんです。そこで原作とのキャラ合わせをできたことは大きかったですし、先生方がいてくださることで安心感もあって、アニメチームとしてもキャストの皆さんとしても「この方向で大きく外れてはいないんだな」と思えました。
――ヤマシタ先生もお忙しい方なのに、そこまでしてくださったなんて、すごいことですね。
とてもありがたかったですね。例えば槙生のメモには「基本的に低い声、平板でボソボソ話す」など、おそらく先生が原作を描かれていた際にイメージされていたことが書かれていて。「この通りに演じてください」ということではなく、そのキャラクターの行動理念や考え方、どんな姿勢で行動しているかといった、キャラ解釈をより深められるようなメモだったので、序盤でキャラクターの角度を共有できました。
――ちなみにそのメモには、朝の声についても?
朝は、基本的に他者に対してあまり声色やトーンが変わらなくて、社交的で外交的で…といったイメージで書かれていますね。あと、いわゆる“かわいらしい女の子”ではない。アニメ的なかわいい女の子ではなく、もう少しサッパリした印象だということは、初期のキャラクターデザインからお話をいただいていた記憶があります。
――朝役の森風子さんもオーディションだったそうですが、印象に残っていることはありますか?
森さんからは、オーディション当時から朝のストレートさが感じられたことを覚えてます。収録は、沢城さんをはじめキャリアのある皆さんに囲まれていたのですが、制作陣がいるブースから見ても堂々と演じられていました。ただ後々お聞きしたら、実は少し不安もあったそうで、そこは申し訳なかったなと。あまりにすんなり入られていたので、スタッフ陣から「すごくいいです」ときちんとお伝えできてなかったかもしれないなと反省しました。
[PAGE]時代を超えて響く原作の強さ[/PAGE][/EXCLUDE]
■時代を超えて響く原作の強さ
――大城美幸監督は本作が初監督だそうですね。上田プロデューサーからご覧になって、どのような方でしょうか?
作品に対してとても真摯な方です。ご本人から提案された作品というのもあるでしょうが、初期に見せていただいたイメージカットからも、絵の方向性や質感に明確なビジョンがあり、迷いがないのだと感じました。打ち合わせでも、質問に対してわからなそうにする姿はほとんどありませんでした。ご本人の中では迷う部分もあったかもしれませんが、僕や他のメンバーの前でそういう不安を見せることはなかったので、頼もしかったです。
――原作の連載開始から10年弱が経ち、人々の考え方や風潮に時代の変化を感じます。今のタイミングで放送されていることに、どんな意味を感じられますか?
まず前提として、アニメーション制作は数年単位で時間がかかってしまうので、特定の時代を狙って描くのはどうしても難しい媒体です。結果的に今放送されていますが、こういう時代を目掛けて作ったわけではなかったというのが正直なところです。ただ、普遍的なところをしっかりと捉えて描けたらとは思っていたので、今たくさんの方々にそういった部分への共感をもって観ていただけていることはありがたいですし、原作を含めたこの作品の強さをあらためて感じますね。あとアニメーションとしては、こういうドラマを描けていることがひとつのチャレンジになっていたらいいなと思います。純粋なヒューマンドラマとして楽しんでいただけるアニメはあまり多くはないと思うので、そこで一石を投じられていたら嬉しいなと思います。
――本作は邦画的な魅力がありますよね。
“日常の、地に足がついたものを、丁寧に作っていこう”とみんなで頑張ってチャレンジしている作品なので、そこを受け止めていただけているなら嬉しいです。それは、きっとどのセクションも共通して意識していることですね。
――食べ物などの描写も細やかですし、この空気感を生み出している音楽も素敵です。
SNS上で朱夏さんが、実際に料理を作ってみた写真を「ごはん日記」としてアップしていますが、料理や食べ物の映像はすごくこだわっていますよね。お芝居的にも、ちょっとした手の動きや立ち上がりの所作など、日常のお芝居を非常に丁寧に作られていて、生活感を大事にされていると感じます。牛尾憲輔さんに作っていただいた音楽もすごく素敵で、日常生活でずっと鳴っていても違和感がないくらい、暮らしに寄り添ってくれる音楽です。個人的に、オープニングテーマもエンディングテーマもすごく好きなので、ぜひたくさん聴いていただきたいですね。
――これからいよいよ終盤に入っていきますが、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
まずは、今まで観てくださっている皆さん、ありがとうございます。スタッフ一同、心を込めて作っておりますので、ぜひ最後までご覧いただけるとうれしいです。原作をお読みになっている皆さんも、アニメから入られた皆さんも、どちらの方々にも楽しんでいただけるように作っていますので。そして第8話で大きなドラマがありましたが、ここからキャラクターたちがどうなっていくのかを楽しみに観ていただけたらと思いますので、よろしくお願いいたします。
取材・文=熊倉久枝

