F1は2026年シーズンの開幕を前に、スタート手順の一部を変更することが決まった。安全上の懸念への対処が理由だが、フェラーリのフレデリック・バスール代表はFIAとの折衝の経緯もあり、この対応に戸惑いがあると明かした。
2026年の新レギュレーションではパワーユニットのMGU-Hが廃止された。このMGU-Hは低回転域でターボを駆動させる役割を負っていたが、今年からはそれができなくなったということだ。
その結果、今年のF1マシンはスタート時に適切なパワーを得るためにこれまで以上にエンジンを回して排気によって過給圧を上げる必要が出ていた。そして新しいスタート風景に安全上の懸念の声が挙がるようになった。
この手順のタイミングを少しでも間違えると、発進が遅れたり、マシンがアンチストールの状態に陥ったりする可能性がある。さらにグリッド後方のマシンは、グリッド位置に停止してからスタートが切られるまでに10秒も確保できない可能性も高いため、状況はさらに悪化してしまうかもしれない……そういった内容だ。
そして開幕も間近に迫った2月下旬、F1委員会での議論の結果、スタートライトの点灯前に5秒の待機時間(青いライト)が与えられることが決まった。つまりターボを回すための猶予時間が増えた格好だ。
この対処に複雑な心境を抱いているのは、この問題への対策を進めていたフェラーリだ。
フェラーリは今季、小型ターボチャージャーを採用したとみられている。これはターボラグを低減し、スタート時の加速を改善する狙いによるものだ。これはレギュレーション策定段階で懸念が示されていたものの、FIAはスタート手順を変更しないという理解に基づいての判断だった。
「MGU-Hがなくなれば、ドライバビリティからレーススタートに至るまで、ターボラグが管理すべき要素になることは明らかだった。これは最初から分かっていたことだ」
「パワーユニットの設計指針を決める際には、単純な出力だけでなく他の要素も重要になっていて、そのひとつがスタートなんだ」
フェラーリのバスール代表は、motorsport.comの独占取材に対しスタート手順変更への驚きを語った。
「だからこそ我々はある特定の設計判断を下した。そしてFIAは当初からスタート手順を変更しない姿勢を明確にしていたため、この話題がバーレーンで再び持ち上がったことには驚いた」
バスール代表は、フェラーリが手順変更前の、従来の形式を前提としていたことで、PUを設計する中で「妥協」を強いられたことも明かした。
ただ新手順で5秒間が加わった中でも、フェラーリ製PUを搭載するマシンは良好なスタートを示していた。それは手順変更を訴えたライバルが持っていたパフォーマンス面に関する思惑を多少なりとも挫くモノだったかもしれない。
「ドライバーに安全上の懸念を訴えさせるのは簡単だが、実際にはこの問題は長い間知られていた」と、バスール代表は言う。
「エンジンを設計する際には常に妥協が伴ってくる。最大出力を追求する一方で、ドライバビリティも考慮しなければならない。最終的にはどこかで決断を下す必要があるんだ」
なおフェラーリ製PUを使用するハースF1の小松礼雄代表は、スタートに5秒間の待機時間が加わったことで、安全リスクは全く見当たらなくなったと話している。
「スタート練習を見る限り、5秒のブルーライト導入は非常にうまく機能しています」
「実際に参加したドライバーたちは問題なくスタートできていました。だから大きな問題にはならないと思います」
「当初は、この5秒がなければ安全リスクがあった可能性には同意します。しかし現在のスタート準備フェーズがある限り、安全上の問題はまったく見当たらないと思います」

