
【W杯回顧録】第4回大会(1950年)|20万人が凍りついた日――王国ブラジルを襲った“7月16日の悲劇”。スタジアム内で死者も…
北中米ワールドカップが6月11日に開幕を迎える。4年に一度、これまでも世界中のサッカーファンを魅了してきた祭典は、常に時代を映す鏡だった。本稿では順位や記録の先にある物語に光を当て、その大会を彩ったスター、名勝負、そして時代背景などをひも解いていく。今回は第4回大会(1950年)だ。
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●第4回大会(1950年)/ブラジル開催
優勝:ウルグアイ
準優勝:ブラジル
【得点王】アデミール(ブラジル):8得点
第4回大会は開催国が未曾有の悲劇に見舞われ、歴史を俯瞰すれば、それが王国への転換点となった。
第二次世界大戦を終えた翌1946年、ルクセンブルクでFIFA総会が開かれ、12年間の空白を経たワールドカップをブラジルで再開することに決定した。
唯一の立候補国だったブラジルは、従来のノックアウト方式ではなくリーグ戦の導入を提案する。リオデジャネイロに20万人収容のマラカナン、サンパウロにも15万人収容のパカエンブーと2つの巨大スタジアムを新設したので、試合数を増やしてその収益で参加国の渡航、滞在費を相殺しようと考えたのだった。
だが一部目論見は外れた。予選を経て出場16か国が決まるが、大会直前になって欠場する国が続出。1、2組は4か国が揃ったのに、3組は3か国、4組は2か国のみで争う歪な形式になってしまった。
3連覇を目ざすイタリアサッカー界は悲嘆にくれていた。第二次大戦を挟み5シーズン連続して国内制覇を続けていたトリノのメンバーを乗せた航空機が、リスボンからの帰途トリノ郊外にあるスペルガの丘に激突。名手バレンティーノ・マッツォーラを初め10人もの代表選手たちが命を落とした。
なんとか代表チームを再編したイタリアは、航空機を使わず長時間をかけて船でブラジルに向かうが、初戦でスウェーデンに敗れてグループリーグ(GL)で姿を消してしまった。
大きなトピックとしては、サッカーの母国イングランドがFIFAに加盟し、初出場した。イングランドは第二次大戦後に国際試合を29戦して22勝4敗3分。優勝候補として2組でシードされた。
ところが2戦目でまさかの事態に直面した。対戦相手は大半がアマチュア選手のアメリカだった。イングランドはワンサイドで攻めまくり、4度もシュートが枠を叩き、ジミー・マレンのヘディングはゴールラインを越えたかに見えた。一方アメリカは、スローインを受けたウォルター・バーがミドルシュート。威力はなくGKが難なく処理するものと思われたが、ハイチ出身のジョー・ゲージェンスが頭でコースを変えるとボールはゴールに転がり込んだ。
「USA 1-0 イングランド」
この報を受けた通信社は、1-10の間違いだと思ったという。結局初出場のイングランドは、次のスペイン戦も0-1で落とし、1勝2敗で大会を去ることになった。
逆に第一回大会以来の参加となったウルグアイは、最も楽に決勝リーグへの進出を決めていた。4組はトルコとスコットランドが棄権したため、ボリビアに8-0で大勝しただけで1週間の休養を経て決勝リーグへ進むことになった。
さて開催国のブラジルは、GLで思わぬ苦戦を強いられた。2戦目でスイスと引き分けたため、ユーゴスラビアに勝点でリードを許したまま最終戦を迎える。決勝リーグ進出をかけた重要な一戦には、14万人を超える観衆が集まり大合唱で後押しした。
ユーゴスラビアのライコ・ミティッチ主将は、入場の際に観客が投げた鉄の欠片を頭にぶつけられた。ユーゴスラビア側は治療から戻るまで開始を遅らせるように主張したが、ウェールズのベンジャミン・グリフィス主審は笛を吹いてしまう。ブラジルは、この混乱に乗じて開始4分にアデミールが先制。ミティッチが頭にバンデージを巻いて試合に戻ったのは後半からで、69分にもジジーニョが加点したブラジルが幸運も手伝ってGLを辛くも突破した。
ただしGLでの苦戦が良薬になったのか、決勝リーグでのブラジルは見違えるような強さを見せた。イタリアを下したスウェーデンには7-1、さらにイングランドをGL敗戦に追い込んだスペインにも5人の選手が次々にゴールを奪い6-1(ひとつはオウンゴール)と大勝した。
それに対し休養十分のウルグアイは、スペインとは激闘の末に2-2で引き分け。スウェーデンには3-2と土壇場での逆転勝利を収めたが、2度目の優勝のためには最終戦で直接ブラジルを倒すしかなくなった。
7月16日、マラカナン・スタジアムの公式入場者は17万3850人と記録されている。もちろんそれでも歴代最多なのだが、実際にはさらに3万人以上の観客が押し寄せ「ブラジル、勝つんだ」と連呼した。
勝利が必要なウルグアイは、オブドゥリオ・ヴァレーラ主将が中央にポジションを取り、ビクトル・アンドラーデと連係して、テクニカルで奔放なブラジルの攻撃陣に厳しいマークを施す。ボールを支配し、攻撃的に試合を進めたのはブラジルだったが、ウルグアイの守護神ロケ・マスポリの好守もあり前半はスコアレスで折り返した。
しかし、後半開始早々の47分、ついにブラジルに歓喜の瞬間が訪れる。左からの展開でフリアサが低い弾道のシュートで均衡を破った。ウルグアイのヴァレーラは「オフサイドではないか」とレフェリーに抗議をするが、それはチームを落ち着かせ再び鼓舞するためだったという。
もう攻めるしかなくなったウルグアイの反撃が始まる。66分、アルシデス・ギッジャのパスを受けたファン・アルベルト・スキアフィーノのシュートはミスキックだったそうだが、ゴールネットを揺する。同点に追いつき、マラカナンは完全な静寂に包まれた。
それでも、引き分けでも優勝できるブラジル優位は動かなかった。いよいよ終了が近づきFIFA会長のジュール・リメは、自らの名前が冠されたトロフィーを渡すためにスタンドから降りた。ところがピッチに到着すると、どちらの選手たちも泣き崩れていた。
呆気に取られていると、ウルグアイのヴァレーラ主将が握手をしてトロフィーを受け取っていく。結局、ワンツーから抜け出したギッジャが決着をつけ、ウルグアイを逆転勝利に導いていた。
この日、スタジアム内だけでも心臓麻痺と自殺で4人が命を落とし、国内では失神者、負傷者などが相次いだ。ブラジルでは、これを機に代表チームのユニホームを白基調から現在のカナリア色へと変更するのだった。
文●加部究(スポーツライター)
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