そんな映画の鍵を握る“仇討ち”のシーンを、華麗&大迫力で演じきった菊之助役の長尾謙杜(なにわ男子)と作兵衛役の北村一輝を直撃!貴重な撮影秘話から“仇討ち”の裏側まで赤裸々に語ってもらった。
※本記事は、『木挽町のあだ討ち』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください
■「どんどん立派になっていく菊之助を見守るような気持ちで臨みました」(北村)
――お2人は『室町無頼』(25)に続く時代劇での共演ですが、前作では民を虐げる有力大名の名和好臣に扮した北村さんは板神輿に乗っていて、没落した武士の子・才蔵を演じた長尾さんは地面を這いつくばっているような役回りでした。その立場が本作では逆転したわけですけど、どんな気分でした?

長尾「今回は美しい衣装を着させていただきましたし、『室町無頼』のような汚れたメイクもしなくてよかったから、自分でも“綺麗だな”って思うことがありました。それこそ、北村さんが演じられた作兵衛が菊之助の父でもある主君・清左衛門(山口馬木也)の乱心を止めようとするシーンでは、お2人は雨でビショビショに濡れてるけど、僕は一滴も濡れてなくて。『濡れたら衣装がダメになるから、2人のそばには絶対寄るな!』って感じでした(笑)」
北村「あの撮影では何回やっても血のり(の表現)がうまくいかなくて。何時間も濡れながら撮って、濡れながら撮ってを繰り返していたので、馬木也なんて『人生で初めて死ぬかと思いました』と言っていました。僕の経験上、このやり方だとうまくいかないと思い、『血のりを濃くしたほうがいい、原液じゃないと!』と意見を伝えて、なんとか撮りきることができたんですよ」
長尾「それを僕は座敷でずっと見てました(笑)」
北村「ストーブの前でね(笑)」
長尾「ものすごい雨の音が聞こえるなか、僕はストーブに当たりながら力を温存していて。カメラが北村さんたちのほうを向いていて『3時間ぐらい(出番が)空きます』って言われた時などは現場から離れて休ませていただいていました」
北村「あっ、寝ていた時だね(笑)。でも、ずっと待っているのも大変なんですよ。ワンカット撮ったあとに何時間も空いて、次のカットを撮ったあともまた何時間も空いたりする。その間ずっと、衣装を着た状態で待っていなきゃいけないわけだから」
――『室町無頼』の時はひと言も交わさなかったお2人ですけど、今回は冒頭に刀を交える大きな仇討ちのシーンがあります。しかも、裏では仇討ち劇を通じて2人を助けようとする、「森田座」の一味による活躍がありますね。物語の構造上、普通の殺陣とは組み立て方が違うかと思います。そのあたりも難しかったんじゃないですか?
北村「今回の仇討ちのシーンは確かに推理サスペンスの仕掛けのようなものだし、主君の清左衛門と彼に仕える家臣の作兵衛の関係性の対極にあるもの。原作を読んだ時も、ものすごく悪いやつとものすごく誠実な人間をイメージしていたから、この“悪と善を極端にやれば勝ちだな!”と思っていたんです」
――なるほど。たしかに脚本だけを読むとそういうイメージになりそうです。
北村「でも、脚本を読んで、自分のなかに役を入れた状態で、菊之助の父親でもある清左衛門との関係を振り返った時に、考えが変わりました。表面的におもしろく見せるのではなく、先ほども話した雨のシーンで、命を懸けて『菊之助を頼む!』と懇願し、自決した主君に対する忠義だけが、作兵衛を突き動かしているという見え方にしたほうがいいことに気づいて。お客さんを欺く表面上の“悪”の表現は『博徒の作兵衛だ!ウォ~!』っていうあの登場シーンだけで十分だと思ったし、あとはどんどん立派になっていく菊之助を見守るような気持ちで臨みました」

――作兵衛の忠誠心は胸を打つものがありましたね。長尾さんはいかがでしたか?
長尾「あの一連は、最初は殺し合っている、本当に仇討ちをしているように見せなければいけないけど、最終的には観ている人たちに“芝居をしていたんだ!”と思ってもらわないといけなかったので、確かにそのバランスがすごく難しくて。でも、殺陣師の清家(一斗)さんが決めるポイントを作ってくださったし、演じていたことをわかってもらう芝居はそれなりにやれると思ったので、僕は菊之助の見た目からは伝わりにくい迫力を、“本当に殺してやる!”という気持ちを込めた強い眼差しで表現してみました。そうやって晴れの舞台で輝いている姿も見せたけれど、後から見ると、あれは“別れのシーン”みたいなもの。小屋に入ってからその儚さがより際立っていたように思います」
■「北村さんの年齢であれだけ動けるのはスゴい」(長尾)
――あの殺陣を通して関係を築いていかれたのでしょうか?
北村「うん。そこで話しながら練習して、徐々に距離が縮まっていったけれど、2人とも大阪の人間ですからね。例えば、僕が家族でよく行っているご飯屋さんの話をしたら、『僕も親と行きます』って。そういう話ができたし、もともとの距離が近いから、それだけでも楽だった」

長尾「やっぱり大阪人同士だと、一気に距離が縮まるんですよね」
北村「すぐにキュッてなる。大阪の子はなにをしても大丈夫や!みたいなところがあるからね(笑)」
――殺陣の練習はどれぐらいしたんですか?
北村「けっこうやったんじゃない?」
長尾「けっこうやりました。京都に入ってから、毎日じゃないけど、1か月間ぐらいやっていて。仇討ちのシーンは全体のなかの中盤ぐらいの撮影でしたが、クランクインしてからそのシーンの本番まで、撮影が終わってから練習をしていました」
北村「俺よりだいぶやってるよね。俺は2回ぐらいしか(稽古に)行ってないから(笑)」
――仇討ちのシーンの撮影自体はどれぐらいかかったんですか?

北村「3、4日かけて、菊之助と作兵衛が小屋のなかに雪崩込む前までの一連を撮ったんじゃないかな?」
長尾「本当に、北村さんの年齢であれだけ動けるのはスゴいです。僕がその歳になった時に同じように動けるのか?っていったらちょっと疑問ですから」
北村「いや、何気に僕も歳を重ねているんですよ。だけど、立ち回りとかではない普通の芝居の時に、正名僕蔵さんには椅子が用意されるのに、僕には出ない。『ちょっと待ってください。この人、僕より年下なんですよ』って言って、スタッフがあたふたすることも多い。だから、殺陣もやらされるんです(笑)」
長尾「でも、実年齢より若く見えるし、オシャレでどの作品でもカッコいいから」
北村「いやいや、まあ、いまでも体は動くけど、やりたくはないよね(笑)。もう十分やってきたし、しかも、あの仇討ちのシーンの撮影の時は、肉離れしていたのか身体を全然動かせなくて。一番強い痛み止めを数時間おきに飲みながら『あっ、もう無理だ!こんなに楽しい役なのに降板しなきゃダメかな?』と気力と戦いながらやっていたから、撮り終わった時は我ながら『よくやりきったな』と思ったよ。ああ、それに思い出した!あの一連は雪に見立てた発泡スチロールみたいなものが地面に敷き詰められていて。動くと、口の中に入ってくるんですよ」
長尾「入ってきましたね…」
北村「だから、スタッフさんはみんなマスクをしているんだけど、それでも咳込むぐらい演じる側にとっては大変で。でも、そんなの気にしていられないじゃないですか?だから全力で這い回ったんだけど、途中で白いものが着物や顔についているのを見て雪があんな塊でついているのはおかしいから、“ああ、もうワンテイクいくんだろうな”と思って。で、次もまた吸い込んでしまうという。永遠にその繰り返しが続いて大変だった」

――全然そんなふうには見えないほどの完成具合でしたけど、そんなに大変な状態だったんですね。
北村「いや、『なにをやらせるんだ?』というぐらい大変でした。殺陣師の清家さんに『今回はすぐに終わる?』って聞いたらニヤニヤしていて。殺陣師という人種は台本では2、3行の殺陣のシーンを(両腕を広げて)このぐらいの長さに作り上げてしまうから、正直“そんなにやらなくても…”って思うんだけど、長尾くんはパッパッパッて簡単にこなしちゃうから、“おいおいおい!”みたいな(笑)」
長尾「いやいや、そんなパッパッパッて感じじゃなかったですよ(笑)。でも、僕も何カットあるのか気になって清家さんの持っている(カット割りの)紙を覗こうとしたんですけど、“長い!”って思われるのがイヤなのか、見せてくれなかった(笑)」
北村「とはいえ、おもしろかったけどね」
長尾「はい、楽しかったです!」
※記事初出時、一部スタッフ名に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。

取材・文/イソガイマサト
