
湯船にゆっくり浸かる、銭湯や温泉が好きな人は少なくありません。
一方で「やはりサウナも欠かせない」というサウナーもいます。
どちらも体を温めてリラックスできる方法ですが、実は人体への影響は同じではないかもしれません。
アメリカ・オレゴン大学(University of Oregon)の研究チームは、日常でよく使われる温水浴と2種類のサウナを同じ条件で比べ、体温や血圧、心臓の働き、免疫反応にどんな違いが出るのかを調べました。
その結果、今回の条件では温水浴が最も深部体温を上げ、心血管系や免疫系により強い一時的な反応を引き起こすことが示されました。
この研究は2025年5月7日に『American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology』で公開されました。
目次
- サウナと入浴は人体にどんな影響を与えるのか?
- なぜ「お風呂」のほうが強い反応を引き起こしたのか?
サウナと入浴は人体にどんな影響を与えるのか?
体を温める習慣が健康に良い影響を与える可能性は、以前から多くの研究で示されてきました。
ただし、ここで一つ大事な疑問があります。
同じように温まって気持ちが良くても、体の中では同じ反応が起きているのでしょうか。
サウナと入浴は熱の伝わり方が大きく違いますし、遠赤外線サウナはまた別の仕組みで体を温めます。
にもかかわらず、温水浴、伝統サウナ、遠赤外線サウナを日常に近い使い方でそろえて比べた研究はほとんどありませんでした。
そこで研究チームは、次の3つを比較しました。
- 温水浴(Hot Water Immersion):40.5℃の湯に45分浸かる
- 伝統的サウナ(Traditional Sauna):80℃で10分を3回(間に休憩)
- 遠赤外線サウナ(Far Infrared Sauna):45〜65℃で45分
参加したのは健康な若年成人20人で、男性10人、女性10人、年齢は20〜28歳でした。
喫煙せず、定期的に運動しており、薬の影響などが入り込みにくい集団が選ばれています。
実験では、各条件の前後や途中で、深部体温、血圧、心拍数、心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液量)を測定しました。
さらに血液検査を行い、炎症に関わる分子や免疫細胞の変化も調べました。
その結果、今回の条件では温水浴が最も深部体温を上げ、心拍数や血流の増加も大きく、加熱中の血圧低下も目立ちました。
免疫や炎症に関する血液の変化も、はっきり確認できたのは温水浴だけでした。
どうしてこうのような結果になったのでしょうか。
なぜ「お風呂」のほうが強い反応を引き起こしたのか?
この研究の鍵は「深部体温」です。
体の中心の温度が上がると、体は熱を逃がすために血管を広げ、皮膚に向かう血流を増やします。
すると心臓はより多くの血液を送り出そうとして拍動が速くなります。
座っているだけでも、体の中では軽い運動に似た調整が起きるわけです。
では、なぜ温水浴は深部体温を大きく上げたのでしょうか。
理由は、単純に「水のほうが空気より熱を体に伝えやすい」からです。
さらに、熱を逃がす大きな手段である「汗の蒸発」も関係します。
サウナでは汗が蒸発することで皮膚表面の熱が奪われ、体温上昇にブレーキがかかります。
ところが湯に浸かっていると汗は蒸発しにくく、体は熱をため込みやすくなるのです。
実測でもそれが表れました。
今回の条件では、深部体温の上昇は温水浴で約1.1℃、伝統サウナで約0.4℃、遠赤外線サウナではほとんど変化がありませんでした。
深部体温がより上がった温水浴では、心拍数と心拍出量の増加も大きく、体が強い熱ストレスを受けたことが分かります。
血圧についても特徴があります。論文で目立っていたのは「加熱中」の変化で、温水浴では平均動脈圧がより下がりました。
血管が広がることで血管の抵抗が下がり、血圧が押し下げられる方向に働くためです。
一方で、加熱が終わった後まで血圧低下が続くかどうかは、この研究の範囲では分かりません。
免疫と炎症の反応も、温水浴だけがはっきりしていました。
温水浴の後には、炎症に関わる分子の一つであるIL-6が増え、ウイルスなどを攻撃する免疫細胞や、感染した細胞を破壊するタイプのT細胞にも変化が見られました。
逆に、伝統的サウナと遠赤外線サウナでは、同じような明確な変化は確認されませんでした。
ここで大切なのは、これは病気の炎症というより、運動後にも起こり得る一時的な反応だという点です。
体が刺激を受け、それに対応しようとしているサインと考えると理解しやすいでしょう。
そして、もう一つ意外なのが遠赤外線サウナです。
多くの人が「遠赤外線なら体の芯まで温まりそう」と感じますが、今回の条件では深部体温がほとんど上がりませんでした。
論文では、その理由として、参加者が赤外線パネルに均一に囲まれていなかった可能性や、実測の温度がそれほど高くならなかった点が挙げられています。
つまり、「今回の使い方と装置条件では、深部体温を上げる刺激が弱かった」と捉えるのが正確です。
この研究の意義は、受動的加熱を健康に応用する研究にとって「どの方法がどれだけ体のスイッチを入れるのか」を明確にした点にあります。
運動が難しい人にとって、熱療法は魅力的な選択肢になり得ますが、運動の代わりになると結論するのは早すぎます。
また、熱への長時間曝露は心臓や血圧に不安のある人には危険になり得るため、習慣化するなら医療者の判断も重要です。
今後は、高齢者や持病のある人でも同じ傾向が見られるのか、そして単回の反応が長期的な健康指標の改善につながるのかを、より長い期間で検証する必要があります。
さらに、遠赤外線サウナについては装置の形状や温度管理を変えた条件で再比較することも重要になるでしょう。
同じ「温まる」でも、体の中で起きることは想像以上に異なります。
次に湯船やサウナに入るときは、自分の体がどんなスイッチを入れているのかを少しだけ意識してみると面白いかもしれません。
参考文献
Not All Heat Is Equal: Sauna and Hot Tub Affect Human Body in Different Ways
https://www.zmescience.com/science/news-science/not-all-heat-is-equal-sauna-and-hot-tub-affect-human-body-in-different-ways/
A good soak in a hot tub might beat a sauna for health benefits
https://www.eurekalert.org/news-releases/1088986
元論文
Comparison of thermoregulatory, cardiovascular, and immune responses to different passive heat therapy modalities
https://doi.org/10.1152/ajpregu.00012.2025
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

