2026年シーズンのF1は、レギュレーション大変更により新たな時代を迎える。この新レギュレーションは、シャシーとパワーユニット(PU)の両方に変更が加えられたため、F1の歴史上最大規模の変化と言える。
いくつか例を挙げる。シャシーの面では、最低重量が約32kg軽量化され、幅も若干狭くなった。これにより、昨年までのマシンよりも幾分機敏に動けるようになったとされる。また、昨年までのグラウンド・エフェクトカーではなく、フラットフロアに回帰したことにより、ダウンフォース量が削減された。その上、アクティブエアロが導入され、前後ウイングの角度がストレート走行中とコーナー走行中で変わることになった。
PUの面では、MGU-Hが排除されたものの、電気エネルギーへの依存度が上昇。総出力におけるエンジンと電気モーターの比率が均等になった。さらに燃料も、持続可能燃料を使うことが義務付けられる。
そしてその新シーズンは、今週末のオーストラリアGPで開幕する。そこでは、昨年まではなかった新しい用語が複数登場する。本稿では、今押さえておきたいF1の新用語を紹介する。
■アクティブエアロ
F1マシンには2011年以降、ドラッグ・リダクション・システム(DRS)が搭載されていた。これは前を行くマシンとの距離が1秒以内になった時にリヤウイングのフラップが開き、オーバーテイクを補助するためのシステムだ。
しかしこのDRSは今季排除。代わりにアクティブエアロが採用される。
このアクティブエアロは、フロントウイングとリヤウイングの両方が動く形となり、ストレートモードとコーナーモードのふたつに切り替わることになる。
ストレートモードでは、前後のウイングの角度が浅く(水平に近い方向に動くこと)なり、空気抵抗が減ることになる。つまり、進行するために必要なエネルギーが小さくて済むことになる。しかしコーナーに向けてアクセルを緩めると、ウイングの角度が深く(垂直に近い方向に動くことに)なり、空気抵抗が回復。コーナリング中にはウイングがストレートモードになることはない。
アクティブエアロは、あくまでストレートで空気抵抗を削減し、PUで使うエネルギーを減らすことが目的であり、この部分はDRSとは異なる。またDRSは前述の通り前を行くマシンとの差が1秒以内になった時のみに使用できたが、このアクティブエアロは、いつでも動かすことができる。ただ各サーキットでストレートモードが使える区間は指定されることになる。
■フラットフロア
2022年から2025年のF1マシンは、グラウンド・エフェクト・カーであった。これはマシンのフロアに気流の流路(ヴェンチュリトンネル)を設け、そこに大量の空気を流すことで負圧を生み出し(ヴェンチュリ効果)、それをダウンフォースとして利用していた。
しかし2026年マシンでは、このヴェンチュリトンネルが禁止となり、2021年まで使われていたフラットフロアに戻ることになる。ヴェンチュリ効果がゼロになるわけではないものの、フロアで生み出されるダウンフォース量は大きく減ることになる。
■オーバーテイクモード
DRSが無くなったことの代替手段が、このオーバーテイクモードである。これはDRS同様、前を走るマシンとの差が1秒以内に迫った時に使うことができる。
具体的には、このオーバーテイクモードが有効になると、使うことができる電動パワーの値が引き上げられ、これが前をいくマシンをオーバーテイクする手助けとなる。また追加で0.5MJの電力をバッテリーに蓄えることができる。バッテリーの実質的容量は4.0MJ、1周で使うことができるのは8.5MJとなっているため、0.5MJという電力はどれほど重要かが分かるだろう。
■ブーストモード
ステアリングには、ドライバーがON/OFFを操作するブーストボタンが備えられる。これによりドライバーは、任意の時に電気エネルギーを最大値(もしくはチームが設定した値)まで使うことができるようになる。これは当然オーバーテイクモードと併用することもできるが、いつでも使うことができるため、防御に活かすという場面も出てくるだろう。
しかし、これを使い過ぎてしまうと、当然電気エネルギーが枯渇してしまう可能性が高まるため、注意が必要だ。
■リチャージ
2026年のレギュレーションで、最も議論を呼んでいる部分である。これは、速く走るためにはしっかりとバッテリーに充電をする必要があるからである。
今のF1マシンはハイブリッド車である。エンジンと電気モーターがマシンを駆動させるわけだが、エネルギー源としてマシンに注入するのはエンジンで使う燃料のみ。電気モーターで使う電気は、走行中に生み出さねばならない。
基本的には減速時の運動エネルギーを、MGU-Kを使って電気に変換し、バッテリーに蓄えることになる。これが回生エネルギーである。また、エンジンを走行に非常用な出力を超えて運転することで、余ったエネルギーを電気に変換することも行なわれている。
ただ今季のF1は昨年までと比べて電気エネルギーへの依存度が高まったため、従来以上に積極的に電力を生み出さねばならず、つまりはブレーキングポイントを早める必要があったりするわけだ。場合によっては、ストレート走行中に減速する必要すら生じる可能性があるとも言われる。
このドライビングスタイルについては多くのドライバーが不満を訴えており、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は「ステロイドを投与したフォーミュラEみたいだ」と語った。
ブレーキングポイントが多いサーキットならば、回生ブレーキを多用することができ、十分な電気エネルギーを確保することができるかもしれない。しかし全開率が高く、ブレーキングポイントが少ないサーキットでは、回生電力が足りず、ドライバーたちは苦労することになるかもしれない。
なお電気エネルギーを生み出す行動は”ハーベスト”と呼ばれることもあるかもしれない。
■スーパークリッピング
このスーパークリッピングという言葉は、バーレーンでのテストで頻繁に登場した。これは前述したエネルギー回生のひとつで、ストレートエンドや高速コーナー走行中にもエネルギーを回生するという方法のことである。これは通常ならば後輪に送られるはずのパワーをMGU-Kを使って回収し、電気エネルギーに変換する形だ。ただ当然、スピードは落ちる。
レギュレーションでは、このスーパークリッピングで回生できるエネルギー量は250kWが上限とされている。しかしマクラーレンのアンドレア・ステラ代表曰く、バーレーンテスト最終日には、各チームが350kW回生することを試したという。
■圧縮比
2026年シーズンの開幕に向けて頻繁に話題に上がっている用語のひとつが「圧縮比」である。これは、ピストンが最上部にある時と最下部にある時のシリンダーの容積の比率で、2025年までは18:1だったものが、今年からは16:1に引き下げられる。
しかしメルセデスが、レギュレーションの抜け穴を発見したことが発覚。エンジンが稼働し高温になった時に、圧縮比を16:1よりも引き上げる方法を発見したとされる。レギュレーションには、圧縮比の計測は常温で行なわれると記載されていたからだ。
しかしこれは当然ながら激しい反発を招き、メルセデスを除く4メーカーは、不当なアドバンテージを与えるとして訴えた。
結局レギュレーションが一部改訂されることとなり、開幕から数戦は常温時にのみ圧縮比が計測されるものの、6月1日以降は常温時に加えてエンジンが130度になった時にも測定されることになった。
■ターボラグ
2026年のレギュレーションにおけるもうひとつの論点は、レースのスタートである。前述の通り今季からはMGU-H(熱エネルギー回生システム)が廃止されたことで、従来よりもマシンを始動させるのが難しくなっている。
MGU-Hは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換しようというもの。しかし内実はターボチャージャーの軸にシャフトが繋がれ、その回転運動で発電をしていた。
ただMGU-Hは発電するだけでなく、モーターとしてターボを回転させるサポートをすることもできた。これにより、ターボの稼働を安定させていたわけだが、MGU-Hが無くなったことで、予想以上にターボを効かせるのが難しくなった。
これに対処するためには、各ドライバーはスタート前に以前よりもはるかに高い回転数でエンジンを回し、その状態を約10秒保たねばならない。それを行なわなければ、ターボが効き始めるタイミングが遅れる……ターボラグが生じてしまうことになる。
その手順を間違えると、スタートで出遅れるどころか、まったく動き出せないという可能性もある。そうなってしまうと、後方のマシンに追突されてしまう可能性も懸念される。
スタートを完璧にこなすことは、これまで以上に重要になり、序盤戦の勝敗を分ける要素になりかねない。
■死んだふり作戦
2026年の序盤戦でもうひとつ注目すべきことは、プレシーズンテストで最もパフォーマンスを隠していたのはどのチームかということだ。
テストの時点でポテンシャルを全て明かしてしまうと、ライバルが特定のコンポーネントを真似してくる可能性がある。そうなると、せっかく築き上げてきたアドバンテージを、実戦で活かすことができないのは明らかだ。そのためテストで目立たなかったチームが、開幕戦で目覚ましい走りを見せる……なんていうことがあるかもしれない。
真のパフォーマンスを隠すために、各チームは燃料を多めに搭載したり、より硬いタイヤを使うなどする。またドライバーが意図的にアクセルを緩める……というようなことをする場合もある。

