
私たちの脳は「鳥」を見ることで鍛えられるようです。
カナダ・ベイクレスト研究教育アカデミー(Baycrest Academy for Research and Education)が、熟練したバードウォッチャーの脳を調べたところ、注意力や知覚に関わる脳の領域がより密で効率的な構造になっていることを発見しました。
つまり、鳥を見分ける経験を積むことで、脳の構造そのものが変化する可能性があるというのです。
研究の詳細は2026年2月23日付で科学雑誌『Journal of Neuroscience』に掲載されています。
目次
- 鳥を見分ける達人の脳は「より密」だった
- 鳥を見る趣味は「注意・記憶・知覚」を同時に使う
鳥を見分ける達人の脳は「より密」だった
研究チームは今回、成人58人を対象に、脳の構造と活動を調べました。
参加者は2つのグループに分けられました。
・熟練したバードウォッチャー:29人
・初心者:29人
両グループは年齢や性別をできるだけ一致させたうえで比較されています。
MRIによる脳スキャンの結果、熟練したバードウォッチャーでは「注意」「知覚」「視覚認識」「記憶」などに関わる脳領域の組織がより密で複雑な構造になっていました。
研究では「平均拡散率(Mean Diffusivity)」という指標が使われています。
これは脳内で水分子がどの程度自由に動けるかを示すもので、値が低いほど神経組織が密で複雑であることを意味します。
その結果、熟練者の脳ではこの値が低く、神経回路がより効率的に組織化されている可能性が示されました。
さらに興味深いことに、この構造の違いは実際の能力とも関係していました。
脳の構造がより密な人ほど、鳥の種類をより正確に識別できたのです。
つまり、脳の変化は単なる偶然ではなく、鳥の識別能力と密接に関係している可能性があります。
鳥を見る趣味は「注意・記憶・知覚」を同時に使う
なぜ鳥を見る行為が脳をこれほど刺激するのでしょうか。
理由は、バードウォッチングが単純な観察ではなく、複数の認知能力を同時に使う活動だからです。
鳥を見分けるには
・小さな色や模様の違いを識別する視覚能力
・動きを追う注意力
・鳴き声や姿を記憶する能力
・図鑑の知識と照合する判断力
などが必要になります。
研究者たちは、こうした複雑な能力の組み合わせが、脳のネットワークを再編成する可能性があると考えています。
実際、バードウォッチャーは見慣れない鳥の識別課題を行っているとき、注意や認識に関わる脳領域が強く活動していました。
さらに興味深いことに、この脳の特徴は若者だけではなく高齢の熟練者にも維持されていたのです。
研究者たちは、この結果について
「バードウォッチングで培われた技能は、加齢後の認知機能にも役立つ可能性がある」
と述べています。
また別の分析では、熟練したバードウォッチャーは鳥と関連づけることで顔などの情報を覚えやすい傾向も見られました。
専門知識が「記憶の足場」となり、他の情報の記憶にも役立っている可能性があるのです。
バードウォッチングが脳を鍛える
もちろん、この研究だけで「鳥を見ると認知症が防げる」と結論づけることはできません。
研究は横断研究であり、もともと認知能力の高い人がバードウォッチングに惹かれている可能性もゼロではありません。
それでも、今回の研究は一つの興味深い可能性を示しています。
私たちの脳は、長年続けてきた興味や経験によって形を変えるということです。
鳥を見分けるという行為は、「観察」「記憶」「判断」「注意」といった能力を同時に使います。
そのため、長く続けることで脳のネットワークを強化する可能性があります。
もし公園や森で双眼鏡を持って鳥を観察している人を見かけたら、それは単なる趣味には留まらないかもしれません。
その人の脳は静かな自然の中で、パワーアップしている最中なのです。
参考文献
Bird watching may build better brains, study says
https://www.cbc.ca/radio/quirks/bird-watching-brain-9.7108469
‘Birdbrain’ benefits: How being an expert birdwatcher may boost cognition
https://www.nbcnews.com/health/health-news/birdwatching-birding-brain-boost-cognition-research-rcna259945
元論文
The tuned cortex: Convergent expertise-related structural and functional remodeling across the adult lifespan
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1307-25.2026
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

