ただの「完全菜食」ではない可能性
もっとも、ティラノロテール・ヘベルティが完全な草食動物だったと断定することはできません。
現代の草食動物の多くも、昆虫などを摂取することがあります。研究者は、この動物も植物に加えて小型の無脊椎動物を食べていた可能性を指摘しています。重要なのは、「植物を本格的に処理する能力」をすでに進化させていた点です。
さらに研究では、約3億1800万年前の関連化石にも似た歯の特徴が見つかっており、草食への適応がこの時期に広がり始めていた可能性が示唆されています。
これは、陸上の食物網が想定よりも早い段階で複雑化していたことを意味します。植物を食べる動物の出現は、生態系の構造そのものを変える出来事だったのです。
また、ティラノロテール・ヘベルティが生きていた石炭紀末期は、地球規模の環境変動が進行していた時代でもありました。熱帯雨林生態系の崩壊や、寒冷な氷室状態から温暖な温室状態への移行など、大規模な気候変化が起きていたことが知られています。
ティラノロテール・ヘベルティが属する系統は、その後の時代に絶滅しました。研究者は、この事実が、急激な環境変化が草食動物にどのような影響を与えるのかを考える上での重要な手がかりになると述べています。
草食のはじまりが、進化の流れを変えた?
約3億年前、恐竜もまだ存在しない時代に、小さな四足動物が硬い植物をすり潰して栄養に変えていた──今回の発見は、陸上生態系の歴史のはじまりを、私たちが思っていたよりもずっと早い時代へと押し戻しました。
この一歩がなければ、後の巨大な草食恐竜も、私たち哺乳類の祖先も、違った進化をたどっていたかもしれません。フットボール大の小さな動物が残した頭蓋骨は、陸上生命の歴史が思いのほか早い段階から複雑に分岐していたことを、いま私たちに教えてくれているのです。

