
荒廃した近未来を舞台にしたハードアクションの金字塔「マッドマックス」シリーズ。1979年に公開された第1作目は、無名俳優だったメル・ギブソンの名を一躍人気者へと押し上げた。日本の伝説的漫画「北斗の拳」にも絶大な影響を与えたこの映画は、なぜ理屈を超えて面白いのか。BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料)では3月7日(土)より、「土曜洋画劇場」(毎週土曜夜7:00~)にてシリーズ4作品を放送。これを機に、映画史に刻まれた「マッドマックス」の原点を振り返る。
■伝説の始まりはギネスにも記録された低予算映画
1979年にオーストラリアの小劇場で公開された第1作目「マッドマックス」。この映画が驚くほど低予算で作られたというのはあまりにも有名な話だ。今でこそ巨匠と言われるジョージ・ミラー監督だが、当時は無名。長編処女作である本作のために用意できたのは、わずか35万ドル程度だった。しかし、この制作費に対して全世界興行収入は1億ドルを突破。「予算と興行収入の差がもっとも大きい映画」としてギネスブックにも掲載されたほどだ。
ジョージ・ミラーが描いた舞台は、かろうじて社会の秩序は保たれながらも治安の悪化が止まらない、荒廃した近未来のオーストラリア。主人公マックスは治安を守る警官として、無法者集団である暴走族ナイトライダーの暴力に立ち向かうが、その代償に親友や最愛の妻子を無残に奪われてしまう。絶望の淵に立たされた彼は、V8エンジン搭載の漆黒の改造車インターセプターを駆り、復讐者へと変貌を遂げる。
■予算がないからこそ生まれた第1作目の異様なエネルギー
70年代のオーストラリアは暴走族による非行や犯罪が社会問題化しており、「マッドマックス」はそうした時勢を崩壊しゆく社会として取り込んだ作品だ。その詳細は割愛するとして、未視聴の方に何より伝えたいのは、この映画が放つ異様な迫力と熱量だ。
はっきり言って、映画そのものが暴走している感覚がある。それもこれも低予算という足枷を逆手にとった結果で、画面に映るのは荒涼とした大地や地平線まで続く公道、そこを爆走する警察のトンデモ改造車とナイトライダーの改造バイク。警察署は古い水道局の建物を使い、衣装も革ジャンにプロテクターといった手作り感あふれるスタイルだが、これが逆に豪華なセット映画にはない、荒廃した世界の生々しさを生んでいる。
そして、時速150キロを超えるスピードで文字通り激突し、大破していくマシンたち。想像してみてほしい。CGなど影も形もない時代に、改造車がひしゃげ、ライダーが吹っ飛んでいく。「これ、ホントに死んでんじゃね?」と息を呑むシーンもあり、あまりの過激さに「危険な撮影の末にスタントマンが2人亡くなった」という噂が広まったほどだ。結局これはデマであったが、当時の観客がスクリーンの映像にそれだけの狂気を感じたのは事実だ。
さらに、地面スレスレを這うカーチェイスのカメラワーク。今でこそ王道の手法だが、当時はまさに映像革命だった。アスファルトが猛烈な勢いで後ろへ飛び去っていく視界は斬新で、スピードの体感そのもの。「マッドマックス」はカーチェイスを“見る”から“体感する”に変えた映画だとも言われている。
緻密な設定や舞台背景の現代作品を見慣れていると、正直、初見ではワケが分からないと感じるかもしれない。しかし、その粗さも含めてが「マッドマックス」の面白さだ。低予算ゆえの剥き出しの映像とジョージ・ミラーの熱量が、今観ても色褪せない迫力を生んでいる。シリーズの出発点として、そして後のカルチャーに影響を与えた一本として、改めて観直す価値のある作品だ。
■世界観が一変! 荒廃した終末世界を定義した「マッドマックス2」の革命
第1作目の大ヒットを受け、2年後の1981年に登場した続編「マッドマックス2」。かろうじて残っていた法と秩序は世界大戦により完全に崩壊し、文明が失われた世界は見渡す限りの荒野へと変貌を遂げていた。そして、貴重な水とガソリンを奪い合うこの世紀末世界で、主人公マックスはV8のインターセプターを駆り、あてのない孤独な旅を続けていた。
じつは今イメージされる「核戦争後のヒャッハーな世界」というビジュアルのルーツは、全てこの映画にあると言っても過言ではない。予算が十倍増となったことで、ジョージ・ミラーのイマジネーションは一気に爆発。モヒカン頭に革ジャン、プロテクターを継ぎ接ぎした悪党たちの風貌、そして、彼らが乗るトゲだらけの改造車。セリフは最小限に抑えられ、物語は「貴重なガソリンを守る者たちと、それを狙う暴走集団。そこに現れた一匹狼のマックス」という、まるで西部劇のようなストレートな構図で突き進んでいく。

■ケンシロウのルーツはここにあり! 武論尊が受けた衝撃と「北斗の拳」への遺伝子
「マッドマックス2」のこのビジュアル設定に、漫画「北斗の拳」を思い浮かべる人も多いだろう。前作でも漂っていたその雰囲気は、今作で完全に確立されている。断っておくが、「北斗の拳」の連載が始まったのは1983年であり、「マッドマックス2」の公開後だ。「北斗の拳」原作者の武論尊は、当時この映画を観て凄まじい衝撃を受けたと公言しており、その世界観の構築において多大なるインスピレーションを得ている。
「お前はもう死んでいる」の決め台詞で知られるケンシロウが歩む、あの乾いた荒野。肩パッドを装着したワイルドな革ジャン。一方、ボウガンを装備し、改造バイクやマシンで暴れまわる悪党たち。そして、秩序が失われ暴力が支配する世紀末という設定。これらはまさに、「マッドマックス2」が提示したビジュアルと精神性から生まれたものなのだ。
登場キャラクターなどあまりにも似すぎていて、顔をホッケーマスクで隠した暴走族のリーダー、ヒューマンガスの姿はケンシロウの兄・ジャギを思わせる。マックスに懐く野生児フェラル・キッドはリンのポジション(いや、バットか?)。他にも様々なキャラクターが「北斗の拳」の原点となっているようだ。
もし「マッドマックス」という作品が存在しなければ、ケンシロウにも、ラオウにも、あの「ひでぶ!」と叫んで散っていくハート様にも出会えていなかったかもしれない。緊迫したストーリー、前作譲りの危険なアクションに声を上げながら、「これ北斗の拳で見たやつ!」と指をさす楽しさは格別だ。ルーツを知ることで、どちらの作品もより深く、より熱く楽しめるようになるのは間違いない。
BS12 トゥエルビの「土曜洋画劇場」では、3月7日(土)夜7時より、「マッドマックス」を放送。以降、「マッドマックス2」「マッドマックス/サンダードーム」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を3週連続で放送する。
◆文=鈴木康道

