
サーチライト・ピクチャーズ製作のSF実写映画「一瞬の出来事」が、2月27日に配信された。メガホンを取ったのは「トイ・ストーリー」シリーズの脚本家の1人としても知られ、2026年夏公開予定「トイ・ストーリー5」も手掛けるアンドリュー・スタントン監督。「誰かと、そして世界とつながっていたい」という人間の根源的な願望を、古代・現代・未来と3つの時代の物語で壮大に描き出す。(以下、ネタバレを含みます)
■「トイ・ストーリー5」スタントン監督の最新作
本作の監督を務めたスタントン監督は、1990年にピクサー・アニメーション・スタジオに入社。同社にとって2人目のアニメーターであり、9人目の従業員として、コンピューターアニメーションをけん引してきた。
そのキャリアは輝かしく、人気シリーズとなった「トイ・ストーリー」の原案・脚本のほか、「モンスターズ・インク」の製作総指揮・脚本、「ファインディング・ニモ」の監督・脚本・原案&声の出演、「ウォーリー」の監督・脚本など、世界中の子どもたちを楽しませる作品を生み出してきた。
その多大な貢献が称えられ、2009年開催のヴェネツィア国際映画祭では、「トイ・ストーリー」の監督であるジョン・ラセター氏らと一緒に名誉金獅子賞を受賞。同賞は日本ではスタジオジブリの宮崎駿監督も受賞しており、世界的に評価される賞である。
2026年7月3日(金)に公開が予定されている「トイ・ストーリー5」では、脚本と共にシリーズで初めて監督を務めることが明らかになっている。公開が待ち遠しい中、一足先にスタントン監督の世界を実写映画で堪能できるのが、この「一瞬の出来事」だ。
スタントン監督は2012年のSF映画「ジョン・カーター」で実写監督デビューしており、本作も3つの時代を交錯させていくという、スケール感たっぷりなSF作。ただ、物語は人類の本質的なテーマに迫るというもので、戦いなどの派手なシーンはないが、胸に沁み入る作品となっている。
■古代、現代、未来で繰り広げられる人々の物語
主軸となる3つの時代は、紀元前4万5000年のネアンデルタール人時代の終わり頃と、2025年の現代、そして2417年の未来。
ネアンデルタール人のトルン(ホルヘ・バルガス)とヘラン(タナヤ・ビーティ)は故郷を追われ、2人の子どもたちを守りながら懸命に生きている。
現代では、古代の人類の骨を研究する大学院生クレア(ラシダ・ジョーンズ)が、同窓生のグレッグ(ダヴィード・ディグス)と慎重に関係性を築き始める。
それから約2世紀後の世界では、コークリー(ケイト・マッキノン)が宇宙船で遠い惑星へと向かっていた。副キャプテンを務めるのは、AIのロスコだ。ある日、酸素を作り出す植物が病気となり、コークリーとロスコは対策を考えることに。
■3つの時代の生と死、その物語で映し出される「つながる」ということ
それぞれの時代で映し出されるのは、生と死。トルンたちの時代は、医学なんていうものはなく、それまでの経験から薬効のある植物を煎じたり、傷口に塗ったり。お産は今の時代でもそうだが、より命懸けだ。そんな中で、トルンは悲劇に見舞われながら、新しい命の喜びとともに生き抜いていく。
現代のクレアは、グレッグとの関係について「これは人生計画になかった。私の本分は研究よ」と戸惑う。トルンたちの時代から何百年も経て、複雑さを増した時代背景がよぎる。そうして心が揺れ動いているとき、カナダで暮らす母の病に直面する。
コークリーの場合、かなり近未来的なものとなる。だが、そこにも別れがあり、新たな命が育まれる。
命だけではない。トルンたちは、英語などの現代語はもちろんない。でも意思疎通できる言語らしきものを持っていて、その内容の字幕はないが、彼らの表情やしぐさを見れば伝わってくる。また、生活を豊かにしたり、便利にしたりする道具は自分たちで作り出すものである時代に、トルンが工夫を凝らして“笛”を作るというのも興味深い。そうして古代で生み出されたものが、クレアがいる今の世の礎となり、さらに発展して、コークリーの未来に託されていくということが感じられる。
描かれるのは、とてつもなく長い年月の物語だ。文化の継承や未来の発展が含まれつつ、人間として途切れることなく続いてきた命の循環という大きな枠。そこで変わらなかったのは「誰かと、そして世界とつながっていたい」という願い。“今”という時で見れば、“一瞬”のようでもあるが、ここに映し出されていることからは、確かに人々が「つながりたい」と思って歩んできたから“今”があるということ。そしてそれが未来へつながるということ。
本作は、2016年にハリウッドで最も評価の高い“映画化されていない脚本”を選出する「The Black List(ブラックリスト)」に選ばれたコルビー・デイによる脚本が基になっている。また、サーチライト・ピクチャーズが、クリエイターファーストの姿勢で、作り手の才能を存分に発揮させることをモットーにしているのも知られるところ。スタントン監督の手腕で、静かだけれど、人類の大切なことが詰めこまれた、余韻に満ちた物語に浸ってみては。
映画「一瞬の出来事」は、ディズニープラス スターで見放題独占配信中。
◆文=ザテレビジョンシネマ部

