犬の写真2枚という、とあるX投稿に添えられた文章は、なんとも不穏な疑惑を喚起させるものだった。
〈飛行機を怖がっていたBoとPookie(Japan/dogs)の移動プランBとして、友人が飛行機を操縦して日本からアメリカまで送ってくれました〉
千葉工業大学の伊藤穰一学長が3月4日に残したものだ。一見、微笑ましいペット話に見えるが…。
コトの発端は、アメリカ司法省が今年1月に公開した「エプスタイン文書」。未成年者への性的虐待と人身売買で二度も起訴され、2019年に拘置所で自殺した富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する約350万ページに及ぶ捜査資料に、伊藤氏とされる「Joi Ito」の名前が8000回以上も登場していたことが判明。2013年から2019年にかけて、両者が数千通のメールを交わしていた事実も明らかになっている。
2013年9月25日付の、伊藤氏がエプスタイン宛に送ったメールの件名は「Japan/dogs」。本文には「もし今年は日本が難しいなら教えてください。犬の件でプランBを始めます」とある。未成年の少女を性的に虐待・売買していたエプスタイン氏とのやり取りだけに、「dogs」は女性や少女を指す隠語ではないかとの憶測がSNS上で広がり、「Japan/dogs」の一語が激しい議論を引き起こした。
伊藤氏は3月3日に声明を発表し、エプスタイン氏からの資金提供はMIT上級管理職の承認を得たものだと説明。「恐ろしい行為を目撃したことは一度もなかった」と潔白を主張したが、「Japan/dogs」の説明にはいっさい触れなかった。
併せて、デジタル庁「デジタル社会構想会議」および内閣府のグローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)構想運営委員を、いずれも3月末で退任する意向を表明。理由は「任期満了」と「学長職への専念」としている。
その翌日に飛び出したのが、件の「犬の投稿」だ。「Japan/dogs」=愛犬BoとPookieの渡米手配のことだったと、写真付きで暗に示した形だが、これが逆効果となったのである。すなわち、自分の犬のことを「Japan/dogs」と呼ぶ人間はいない、普通はmy dogsと書く、プランBという表現がメールと一致しているのは仕込みすぎ、という指摘が出たからだ。
潔白を証明したいならば、犬の検疫証明や輸送記録を示せば済む話だ。それをせず、写真と曖昧な文章だけで切り抜けようとしたことが、かえって疑惑を深める結果となったのである。
政界でも火は燻り続けている。伊藤氏が深く関与してきたGSC構想は、世界のトップ研究者と起業家を日本に招く計画だが、636億円の基金を投じながら、進捗は停滞したまま。MITやハーバード大学など有力大学が、伊藤氏の関与を理由に距離を置いてきたことが背景にあるとされる。
3月5日の衆院予算委員会で野党が追及したが、政府側は「退任の意向が示されたので、それ以上の対応は予定していない」と事実上の幕引きを図っている。
「Japan/dogs」の謎は、愛犬の写真2枚で本当に解けたのか。件の投稿は3月4日現在、186.2万件もの表示を記録しているが、返信できるアカウントに制限がかけられており、疑問の声は直接本人に届かない仕組みになっている。
政府が「退任するなら問題なし」と幕引きを急ぐ中、説明責任だけが宙に浮いたままだ。
(ケン高田)

