
■デビュー作『37セカンズ』に続いて「TOKYO VICE」「BEEF/ビーフ ~逆上~」に参加
アメリカを拠点に活躍する日本人監督のHIKARIは大阪で生まれ育ち、高校在学中にアメリカのユタ州に留学、南カリフォルニア大学(USC)大学院で映画・テレビ制作を学んだ。2019年、脳性麻痺を抱える少女が自分の力で人生を切り拓こうとする姿を描いた『37セカンズ』で長編デビュー。同作はベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞、国際アートシネマ連盟賞のW受賞の快挙を果たし、最優秀新人監督賞にもノミネートされる。

新進気鋭の監督ながら、一気にハリウッドからのオファーが。アンセル・エルゴートと渡辺謙が共演し、マイケル・マンがエグゼクティブ・プロデューサーを務めたHBO Maxのドラマ「TOKYO VICE」で2エピソードを監督。次いで、A24が製作したNetflixドラマ「BEEF/ビーフ ~逆上~」でもパイロット版監督として参加している。同シリーズはアジア系アメリカ人が溜め込んできた怒りを、ユーモアを交えつつもリアルに描写し、見事エミー賞に輝いている。
■自身の留学体験を投影した『レンタル・ファミリー』
そんなHIKARI監督の長編2作目となる『レンタル・ファミリー』は、かつて自身が10代で留学した際の経験から、外国で暮らすアメリカ人俳優の物語を描いている。いわく、「東京で暮らす外国人なら誰でも感じる“漂流感”――国や文化に真につながれない、圧倒されるような感覚――を反映させたかった」とのこと。

そのキャラクターを体現する主人公フィリップを演じているのが、『ザ・ホエール』(22)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したフレイザー。オスカー俳優となった彼が80本も殺到したオファーのなかから本作を選んだという。これはHIKARI監督の強運、いやいや才能のなせるワザ、かつ彼女の魅力なのだろう。

■東京で暮らす俳優役がとにかくハマっているブレンダン・フレイザー
そして役自体にフレイザーがハマっている。かつて一世を風靡した「ハムナプトラ」シリーズの時とは違い、すっかり巨漢となった身体で葬儀の弔問客や結婚式の花婿、中学受験のために母子家庭の父親役も務めるレンタル家族業に足を踏み入れたフィリップの戸惑いを表現する。

日本ならではの摩訶不思議な事情に困惑し、人を騙していることに良心の呵責を感じて身を縮めるようにしていた彼が、たとえ偽者であっても他人の人生の一部に関わり、相手に心底寄り添っていく。仕事の意義を感じていくにつれ、居心地の悪そうだった大きな体躯が伸び、頼もしく見える。フレイザーのチャーミングな表情が温もりを感じさせてくれる。

■平岳大、山本真理ら実力派の日本人俳優も集結
オスカー俳優のすばらしい演技力を得たHIKARI監督のもとに集結した日本人俳優たちも粒ぞろいだ。特に注目したいのが、フィリップが働くことになるレンタルファミリー社のメンバー。社長を演じる平岳大は、Netflixドラマ「Giri / Haji」で英国アカデミー賞テレビ部門の主演男優賞にノミネート、「SHOGUN 将軍」ではエミー賞助演男優賞にノミネートされている。気弱なフィリップを叱咤激励するスタッフの愛子役を演じた山本真理もまた、俳優としてApple TV+の「Pachinko パチンコ」などで活躍するほか、「TOKYO VICE」では脚本家として参加し、シーズン2からはプロデューサーも務めている。

世界を舞台にその才能が高く認められている日本人俳優たちの力も加わった、日本を舞台にしたハートウォーミングな『レンタル・ファミリー』。HIKARI監督は昨年のトロント国際映画祭のトリビュートアワードで、映画製作において優れた功績を称える「TIFFエマージング・タレント・アワード」を受賞した。今後ますます存在感を増していくに違いない日本人監督から目が離せそうにない。
文/前田かおり
