
部屋で探しものをしているとき、そばにいる「家族」はどう振る舞うでしょうか。
子どもや愛犬であれば、一緒に探したり場所を教えようとしたりしてくれるかもしれません。
しかし、もしそれが猫だったら、知らんぷりをして毛づくろいを続けているかもしれません。
なんとなく犬は困っていると子どもと同じ様に助けようとしてくれるけれど、猫は手伝ってくれない印象があります。
この違いは、私たちの思い込みなのでしょうか。それとも、人と暮らす動物は種族によって困っている人への関わり方に違いがあるのでしょうか。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(Eötvös Loránd Tudományegyetem:ELTE)のメリッタ・セプレギ(Melitta Csepregi)氏らの研究チームは、16〜24カ月の人間の子ども、そして家庭で飼われている犬と猫を対象に、飼い主や親が困っているときに自発的に助けようとするかを直接比較する実験を行いました。
実験の結果、犬は人間の子どもと似た傾向の「お助け行動」を見せましたが、猫は自分の好きなものが絡まない限り、積極的な手助けはしない傾向があることが示されました。
なぜこのような違いが生まれるのか、その謎を解き明かす鍵は、彼らが辿ってきた進化の歴史に隠されているかもしれません。
この研究の詳細は、2026年2月27日付で動物行動学の科学雑誌『Animal Behaviour』に掲載されています。
目次
- 協力的な犬、気ままな猫
- なぜ猫は「手伝わない」のか?進化と家畜化の歴史が分けた反応の違い
協力的な犬、気ままな猫
誰かが困っているとき、そっと手を差し伸べる行動を、専門用語では「向社会的行動(prosocial behaviour)」と呼びます。
これは、相手のために何かをするという自発的な意志に基づく行動のことで、人間社会を支える大切な基盤の一つです。
人間の子どもは、言葉を十分に話せるようになる前の14〜18カ月頃から、大人が落としたものを拾うなどの「お手伝い」を始めることが知られています。
研究者たちは長年、この温かな振る舞いが人間に特有のものなのか、それとも人間と一緒に暮らす動物たちにも備わっているのかを議論してきました。
特に注目されたのが、私たちと最も身近に暮らすパートナーである犬と猫です。
犬は長い歴史の中で、羊を追ったり狩りを手伝ったりと、人間と協力するように選別されてきました。
一方で猫は、ネズミを捕ることで人間と利害が一致し、緩やかな関係を築いてきたという異なる背景を持っています。
研究チームは、同じ「人間の家」という環境で育ちながらも、進化の道のりが異なる子ども、犬、猫を同じ土俵で比較することで、協力する心の正体を探ろうとしました。
実験の方法は、日常の何気ない「探しもの」の場面を再現したものです。
まず、研究者が被験者(子ども、犬、猫)の目の前で、彼らにとってあまり興味のない「スポンジ」を棚の上などの届かない場所に隠します。
その後、隠し場所を知らない親や飼い主が登場し、「あれ、どこにいったかな?」と困った様子で探し始めます。
このとき、言葉によるお願いは一切しません。
果たして、彼らは自発的に場所を教えたり、手助けをしたりするのでしょうか。
実験の結果、犬と人間の子どもは非常に似た反応を見せることがわかりました。
飼い主が困っている様子を見ると、犬や子どもは隠された場所をじっと見つめたり、飼い主と場所を交互に見たり(交互凝視)して、場所を伝えようとする仕草を頻繁に見せました。
これに対し、猫がこのような「場所を教える行動」を見せる割合は、犬や子どもに比べて明らかに低くかったのです。
しかし、隠したものがスポンジではなく「自分の大好きなオモチャや食べ物」に変わると、猫も犬や子どもと同じくらい積極的に場所を示すようになりました。
この結果は、猫には状況を把握する能力があるものの、自分にメリットがない場面では「助けよう」という意欲が起きにくい可能性を示唆しています。
なぜ猫は「手伝わない」のか?進化と家畜化の歴史が分けた反応の違い
なぜ、同じように愛情を注がれて暮らしていても、犬と猫ではこれほどまでに反応が分かれたのでしょうか。
その答えの一つとして考えられるのが、それぞれの祖先が持っていた「生き残るための戦略」の違いです。
犬の祖先であるオオカミは、群れで協力して獲物を仕留めるチームプレーヤーです。
そのため犬は、相手の行動に合わせて動く傾向が強く、人間との協力が起こりやすい土台を持っていると考えられます。
家畜化の過程でも、人間と協力できる個体が選ばれてきたため、見返りがなくても「飼い主の役に立ちたい」という動機が働きやすいと考えられます。
対して、猫の祖先であるリビアヤマネコは、単独で狩りを行う孤高のハンターです。
誰かと協力して生き抜く必要がなかったため、猫では犬ほど人に合わせて自発的に動く行動が表れにくかったのかもしれません。
今回の研究では、行動のプロセスを「注目(Attention)」「理解(Understanding)」「意欲(Motivation)」の3つのステップで分析するモデルが提示されました。
データによれば、猫も飼い主の行動にはしっかりと「注目」していました。
それにもかかわらず助けなかったのは、状況を「理解」できなかったのか、あるいは理解していても「意欲」が湧かなかったのか、そのいずれかである可能性が高いと議論されています。
ただし、この結果から「猫には愛がない」と断定するのは早計かもしれません。
今回の実験では、動物や子どもができるだけ普段に近い状態で参加できるよう、テストは保護者や飼い主の自宅で行われました。
しかし、この実験に参加したのは、家庭犬40匹、家庭猫27匹、そして生後16〜24か月の幼児20人のため、サンプル数が少ないという問題があります。
猫は「自分の好きなタイミングで動く」という独立心の強い動物のため、人間基準の「協力」という枠組みには収まらないコミュニケーションの形を持っているのかもしれません。
また、今回の実験で犬が「飼い主が場所を知らない」という心理状態まで完全に把握していたのか、それとも単に困っている様子に反応しただけなのかは、まだはっきりとはわかっていません。
今回の研究は、私たちが当たり前のように受け取っている愛犬の「お助け行動」が、実は非常に特殊な進化の産物である可能性を教えてくれます。
そして同時に、猫のそっけない振る舞いもまた、彼らが歩んできた進化の歴史を映しているのかもしれません。
私たちの隣に座る小さなパートナーたちが、本当は何を考え、何を感じているのか。
その全容を解明するためには、それぞれの動物の個性を尊重した、さらなる研究が必要です。
元論文
Dogs’ behaviour is more similar to that of children than to that of cats in a prosocial problem situation
https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2026.123488
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部

