
自分率100%の英雄物語を作りましょう。
米国のノースカロライナ大学(UNC)で行われた研究によると、自分の人生を英雄物語に組み込んで再解釈することで、人生に意味を感じるようになり、より深い幸福度につながるのだといいます。
さらに実験では、このプロトコル(手順)によって人生の再解釈が脳機能にも大きな影響を引き起こし、一見してランダムに見えるように細工された文字列から、隠された単語や文章を探し出す能力が有意に高くなるなど、認知機能の強化と思える現象がみられました。
英雄の物語にはいったいどんな秘密が隠されているのでしょうか?
この記事では英雄の物語の構造が特定のテンプレートに従っていることを解説し、次ページではテンプレートが好まれる理由について説明します。
そして最後のページでは英雄の物語が持つテンプレートを私たちの人生に当てはめる効果について紹介したいと思います。
この研究は2023年10月に『Journal of Personality and Social Psychology』にて「自分の人生の物語を英雄の旅として見ると、人生の意味が高まる(Seeing your life story as a Hero’s Journey increases meaning in life)」とのタイトルで掲載されました。
目次
- 物語は数千年間も同じテンプレを使いまわしている
- 数千年もテンプレが使いまわされている理由
- 自分の人生を英雄の旅に置き換える
物語は数千年間も同じテンプレを使いまわしている
古代神話から現在のヒット作まで英雄の物語は変らない

人類の物語は、古代の神話から現代の大ヒット映画に至るまで、一つの普遍的なパターンを辿っています。
このパターンは「英雄の旅」と呼ばれ、1949年に神話学者ジョセフ・キャンベルの著書『千の顔を持つ英雄』によって初めて広く紹介されました。
この「英雄の旅」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

簡単に言うと、これは英雄が冒険に出て、試練を乗り越え、変化して帰ってくるという、物語の基本的な流れです。
このパターンは、世界中の多くの物語で見られ、それぞれの文化や時代によって異なる形で表現されてきましたが、根本的な構造は驚くほど似ています。
また2007年になるとヴォグラーによって、現在の物語にも広く適応できるように修正が行われたものが発表されました。
キャンベルの理論は、古代の『オデュッセイア』や『ギルガメシュ叙事詩』から、近年の『ハリー・ポッター』、『スター・ウォーズ』、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに至るまで、幅広い物語に共通する基本的な構造を解き明かしています。
特にスターウォーズの監督として知られるジョージルーカスは、キャンベルの著書を読んで、スターウォーズの初稿がキャンベルの指摘したパターンと不気味なほど一致していることに驚いたと述べています。
しかし、なぜ数千年に渡り、人々は手垢にまみれた同じテンプレートを使い続けたのでしょうか?
理由は3つあると考えられます。
数千年もテンプレが使いまわされている理由
テンプレートは視聴者の共感を呼ぶ「最善手」

1つ目の理由は、キャンベルやヴォグラーが発見したテンプレートが、人類の心を揺さぶる「最善手」であった可能性です。
たとえば、出だしは「日常の世界」から始まることで、視聴者を主人公自身に投影しやすくなり、以降の感情的な共感を得る土台となります。
「日常の世界」以外の世界から語り始める場合、その世界について視聴者はイメージしにくくなり、主人公の境遇や暮らしぶりについての理解度、さらに心理的葛藤への共感が減少してしまいます。
もちろん「日常の世界」から描き始めることは必須ではありませんが「最善手」と言って良いでしょう。
以降の段階も主人公の変容と成長のプロセスを描き視聴者を物語に引き込むための最善手となっています。
認知的な負担を減らしてストーリーの理解を助ける

2つ目の理由は、テンプレを使った理解の加速です。
人間の脳は、新しい情報を処理する際にエネルギーを消費します。
予測可能なテンプレートを使いまわすことは、視聴者の認知的負担を軽減することに繋がります。
そのため視聴者たちは残りのエネルギーを物語の流れや登場人物の心情についての理解することに使えるようになり、結果的に視聴者に深い満足感をもたらすのに役立ちます。
またテンプレートに従うことは、作者の認知的負担をも減らし、オリジナル部分に労力を集中させることを可能にします。
人間は新しいものが嫌いでテンプレートが好き

3つ目の理由が、人類が新しいものよりもテンプレートを好む性質にあります。
人間の本能は、未知よりも既知を好み、安全で快適な環境を求めます。
予測可能な物語はこの本能に訴えかけ、視聴者に安心感で快適な時間を提供します。
一方新しい予測不可能な状況は不安やストレスを引き起こす可能性があり、斬新すぎる要素が多くなると、ストレスも増加し、やがては物語を捨ててしまいます。
SFやパニックホラー、日常系アニメなど好きな人は、同じジャンルの作品を見続けます。
このジャンル選好における偏りも、新しいものよりも慣れ親しんだものを選ぶ人間の性質の1つと言えるでしょう。
「なろう系」として知られるライトノベルやウェブ小説のジャンルは、しばしばテンプレート的な物語展開について批判されます。
しかし共感を呼ぶ最善手と認知的負担の軽減による読みやすさ、安心感のある展開を備えたテンプレートを周到することは、視聴者の需要と合致しています。

