
今でも戦争や紛争が世界のあちこちで生じています。
そしてその度に地雷の数が増えています。
戦闘が終わっても地雷は地中や地表に残り、農地に戻る人や通学する子どもにとって、たった一歩が取り返しのつかない事故につながりかねません。
こうした問題に対して、米国のロチェスター工科大学(RIT)の研究チームは、ドローンに複数のセンサーを積み、人工知能(AI)で解析して地雷や不発弾を見つけやすくする研究を進めています。
狙いは、危険な地雷調査を「より速く、より安全に」することです。
目次
- 今も続く地雷の被害、新型の「AIドローン」が道を開く
- 新型AIドローンの試験で「調査速度が人間の10倍」に
今も続く地雷の被害、新型の「AIドローン」が道を開く
地雷の被害は、いまも続いています。
報告では、対人地雷が残る地域は少なくとも57の国や地域に及び、2024年には地雷によって1945人が死亡、4325人が負傷しました。
被害者の約90%は民間人で、子どもも多く含まれます。
一方で、地雷除去は簡単に進みません。
2024年に除去された対人地雷は少なくとも10万5640個と報告されていますが、新たな紛争が起きれば地雷はさらに増え、作業が追い付かない現実があります。
なぜ地雷探知は難しいのでしょうか。
現場では今も、人が地雷原に入り、金属探知機で一歩ずつ調べる方法が採用されています。
しかし、土に含まれる鉱物の影響で誤作動しやすかったり、金属が少ない地雷を捉えにくかったりします。
地中レーダーは金属以外の物体も捉え得ますが、地面が濡れていたり、草木が多かったり、凹凸がある環境では扱いが難しく、誤報も増えがちです。
探知犬や手作業による確認は有効ですが、どうしても時間と危険が伴います。
そこで研究チームが目を付けたのが「上空からの多センサー観測」です。
ドローンに積むセンサーは一種類ではありません。
たとえば通常のカラー画像を撮るカメラは地表に見える形や色を捉え、サーマルカメラは地面と地雷のわずかな温度差を探ります。
マルチスペクトルセンサーやハイパースペクトルセンサーは素材の違いを手掛かりにし、広い範囲の地表の変化を捉えるレーダーも搭載されています。
また、LiDARは地面のごく小さな凹凸や乱れを測り、磁力計は、地下の金属成分が生む反応を捉えます。
地雷にはさまざまな種類があり、埋め方も、周囲の植生も、光の当たり方も場所ごとに違います。
そのため、ひとつのセンサーだけで万能に見つけるのは難しいのです。
そこで必要になるのが、複数のセンサーから得られた情報を組み合わせて、「ここは地雷らしい」と判断する仕組みです。
研究チームは、この「複数の目」をAIでまとめて扱う方法を開発しようとしています。
さらに、そうしたAIをきちんと鍛えたり、別の研究者同士で性能を比べたりできるようにするため、基準となる大規模なデータも整えようとしています。
研究の核心は、単にドローンを飛ばすことではなく、さまざまなセンサーの情報をうまく融合させて、現実の地雷原でも役立つ判断を可能にすることにあります。
ではこの新型AIドローンは、どれほどの性能をもつのでしょうか。
新型AIドローンの試験で「調査速度が人間の10倍」に
この研究の強みは、現実に近い条件で技術を試している点です。
研究チームは、オクラホマ州の試験場で多数の模擬地雷や模擬不発弾を用いた観測を行い、地上とドローンの両方で多センサーのデータを集めています。
ここで注目された成果のひとつが、ドローン搭載の磁気・金属探知です。
従来のように人が危険地帯を歩いて探知機をかざす代わりに、ドローンで上空から金属成分の反応を測る方法を試しました。
その結果、試験場では、地上の手持ち式探知機に近い精度で金属ターゲットを捉えつつ、調査スピードを約10倍に高められる可能性が示されました。
この方法の最大のメリットは、人が最初から危険区域に足を踏み入れなくてよいことです。
まずドローンが上空から危険の可能性が高い場所を探し、その情報をもとに地上チームが重点的に確認する流れにできれば、作業はより安全で効率的になります。
さらに研究チームは、AIの「当たり外れ」だけでなく、「どれくらい自信があるのか」も示せるようにしようとしています。
地雷検出では、一度の誤判定が重大な事故につながるおそれがあります。
そこで、AIが無理に断定するのではなく、「この結果には迷いがある」と分かる仕組みが重要になります。
研究では、入力データが不鮮明だったり、条件が悪かったりすると、その不確実さも一緒に評価できる方法が検討されています。
将来は、現場の作業者がその情報を見て「ここは追加確認が必要だ」と判断しやすくなるはずです。
また研究チームは、こうしたAIを鍛えるための公開データ作りにも力を入れています。
オクラホマで集めた多センサーデータは、今後の公開を見据えて整備が進められており、一部はすでに公開されています。
さらにベルギー王立陸軍士官学校と協力し、PFM-1地雷のレプリカをさまざまな地形や植生に配置して、複数の高度からデータを集める取り組みも行われています。
ドローンとAIは、地雷そのものを消し去る魔法の技術ではありません。
しかし、危険な土地を前にして人間がいきなり踏み込むのではなく、まず空から危険の兆しを読み取る手段として、大きな力を持ち始めています。
最終的にこの研究が目指しているのは、農民が土地を取り戻し、子どもが安心して学校へ通い、地域が復興できる社会を後押しすることです。
地雷除去は、長いあいだ「危険で遅い作業」でした。
しかし今後は、ドローン、多センサー観測、そしてAIの信頼性評価がそろうことで、その常識が少しずつ変わっていくかもしれません。
空から地面を見る新しい技術は、戦争の傷跡を癒やすための確かな一歩になりそうです。
参考文献
Researchers are combining drones and AI to make removing land mines faster and safer
https://theconversation.com/researchers-are-combining-drones-and-ai-to-make-removing-land-mines-faster-and-safer-272248
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

