
自然界では、強い動物が弱い動物を食べる場面は珍しくありません。
ですが、「捕食する側」と「される側」の組み合わせが意外なこともあります。
今回、伊サッサリ大学(University of Sassari)の研究チームは、アカギツネがオオカミの子どもを襲う瞬間をカメラで記録しました。
しかも、この行動が映像として確認されたのは史上初です。
普段はむしろオオカミの“おこぼれ”にあずかることもあるキツネが、なぜオオカミの子どもを襲ったのでしょうか。
その驚きの映像は、イタリアの自然保護区に設置されたカメラトラップによって偶然捉えられました。
研究の詳細は2026年2月13日付で科学雑誌『Current Zoology』に掲載されています。
目次
- オオカミの巣穴に忍び込んだキツネ
- オオカミの子どもの死亡率の新たな要因か
オオカミの巣穴に忍び込んだキツネ
チームはローマ近郊にある自然保護区「カステルポルツィアーノ大統領領地」で、オオカミの個体群動態を調べる長期プロジェクトを進めていました。
この調査では、GPS首輪とカメラトラップを組み合わせて、オオカミの繁殖や子育ての様子を観察していました。
そんな中、研究者たちは、あるメスのオオカミが腹部の膨らみを見せていることに気づきます。
GPSの記録を見ると、その個体は特定の巣穴を繰り返し訪れていました。
これはすでに出産している可能性を示唆します。
そこでチームは巣穴周辺にカメラを設置しました。
すると数日後、2頭のオスの子オオカミが巣穴の外で探索する様子が撮影されます。
生後およそ1カ月ほどの子どもたちです。
【アカギツネが子オオカミを捕食しようとする実際の画像がこちら】
しかし2025年5月16日の夜、思いがけない出来事が起こりました。
カメラには、アカギツネ(Vulpes vulpes)が巣穴に近づく姿が映っていたのです。
キツネは周囲をうろついた後、巣穴の中へと入り込みます。
最初の試みでは子オオカミは逃げ出しました。
ですがキツネはすぐに再び巣穴へ入り、数秒後、子オオカミを口にくわえた状態で姿を現したのです。
オオカミの子どもの死亡率の新たな要因か
残念ながらカメラには録画時間の制限があり、キツネがその後どうしたのかは完全には映っていません。
しかし研究者たちは、この子オオカミが捕食された可能性が高いと判断しています。
理由は、その後の映像記録です。
事件前には2頭の子オオカミが何度もカメラに映っていましたが、この出来事の後、1頭しか確認されなくなったのです。
一方、残った1頭はその後も母親の群れと共に生きていることが確認されました。
オオカミの子どもはもともと死亡率が高く、研究によると毎年40〜60%が生後間もなく死亡します。
原因の多くは「飢え」「病気」「極端な気象条件」「体調不良」などです。
しかし今回の観察は、他の捕食者による攻撃も死亡要因の一つになり得ることを示しています。
チームによれば、キツネは「日和見的捕食者」と呼ばれるタイプの動物です。
これは特定の獲物に依存せず、利用できる食物を柔軟に食べる生態を意味します。
つまり、機会があればオオカミの子どもでさえ餌になる可能性があるというわけです。
ただし、キツネがオオカミの子を捕食する行動がどれほど一般的なのかはまだ分かっていません。
今回の研究は単一の映像記録に基づくものであり、研究者たちは今後、複数の巣穴や地域で同様の事例を調べる必要があるとしています。
小さな捕食者が生態系を動かす
一般に、オオカミとキツネの関係は「強者と弱者」として語られることが多い動物です。
大型のイヌ科動物であるオオカミは、キツネよりも体格も力も上回っています。
実際、多くのケースではキツネはオオカミが捕らえた獲物の残りを食べる「スカベンジャー」として利益を得ています。
しかし今回の映像は、その関係が必ずしも一方向ではないことを示しました。
状況によっては、小さな捕食者が大きな捕食者の子どもを襲うこともあるのです。
自然界では、こうした予想外の相互作用が積み重なって、生態系全体のバランスが形作られています。
わずか数秒の映像が、オオカミとキツネの関係を見直す手がかりになるかもしれません。
そしてこの出来事は、野生動物の世界がいかに複雑で予測不能であるかを改めて教えてくれます。
参考文献
‘Striking’ footage captures the moment a red fox preys on a wolf pup — a behavior never seen on film before
https://www.livescience.com/animals/land-mammals/striking-footage-captures-the-moment-a-red-fox-preys-on-a-wolf-pup-a-behavior-never-seen-on-film-before
元論文
First video-documented observation of red fox preying upon a wolf pup at a den site
https://doi.org/10.1093/cz/zoag009
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

