北朝鮮は5年に1度の朝鮮労働党大会を2月19~25日まで開催した。メインイベントである23日の中央委員会総会では、党最高指導部の政治局常務委員会の委員や政治局員などの幹部を選出、大規模な人事刷新を行った。
「顔触れを見ると、世代交代を印象づけますが、内実は再任された金正恩総書記の後継候補として注目される実娘・金ジュエ氏とそれを補佐する実妹・金与正氏を中心とした布陣への露骨な切り替えです。与正氏は政治局候補委員に復帰し、担当部署は党総務部長(長官級)へと昇格しました。
一方、ジュエ氏は最終日の夜には、金正恩政権が2012年に発足して以来、16回目となる軍事パレードに臨み、閲兵式に参列しています。まず今回の人事刷新で驚いたのは、正恩氏を含め5人いる党政治局常務委員に、うるさ型の軍出身者が1人も選出されなかったことです。これは党大会史上、異例のことです。
ちなみに、常務委員に選出された他の4人は、朴泰成首相、趙甬元党書記、李日煥党書記ら、金ファミリーに決して異を唱えないイエスマンで固めています」(国際ジャーナリスト)
さらに、北朝鮮ウオッチャーが目を剥いた人事が、抗日パルチザン第2世代の象徴的存在とされ、政権ナンバー2の崔竜海・最高人民会議(国会に相当)常任委員長が中央委員から退くなど、革命元老世代の退場が鮮明となったことだ。軍だけでなく、経済分野の重鎮も相次いで姿を消しており、大幅に若返った。
「崔氏だけでなく李炳哲・軍需政策担当総顧問、南北問題を担ってきた金英哲・元統一戦線部長ら高齢の幹部が中央委員から外され、恐らくそのまま引退でしょう。
代わって、台頭したのが女性幹部です。崔善姫外相は政治局候補委員から正式委員へ昇格し、正恩氏の『1号秘書』として公式行事を取り仕切る歌手出身の玄松月氏も党中央委員に再選され、序列を上げています。
党・政府・外交の要所に女性が配置される幹部人事は、北朝鮮史上極めて異例なことです。これをジュエ氏が近い将来の女性指導者として登場した場合の布石、そして抵抗勢力の排除、牽制とみるのが妥当でしょう」(北朝鮮ウオッチャー)
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すでに娘は「ミサイル総局長」の任務を遂行
北朝鮮の初代最高指導者・金日成国家主席に連なる直系の白頭山血統を象徴する「娘」と統治の実務を担う「妹」。この2本柱による権力構図は、金正恩体制の現在と未来を同時に安定させようとする戦略の表れである。
2月12日、韓国国家情報院(韓国の情報機関)が、韓国国会で驚くべき情報を公開している。ジュエ氏が「後継内定段階と判断される」と報告する中で、中国・北京の駐中国北朝鮮大使館が、「正恩氏と娘のジュエ氏が一緒にいる写真を張り出した」と報告したのだ。もっとも、キム・ジュエとの氏名の明記はない。
このようにジュエ氏は、軍事パレードや重要施設の視察、国葬級行事への同伴など、国家的イベントへ頻繫に帯同している。これらは、北朝鮮において「後継候補」であることを内外に誇示する最も分かりやすいシグナルだ。
「ですが、ジュエ氏は平和な国の特権階級というような穏やかな指導者になる存在ではありません。正恩氏は1月19日、咸鏡南道の工場改修に問題があったとして、担当の楊勝虎・副首相を現場で即クビにしました。
こうした経済分野の問題は、ほとんどの社会主義国が抱える矛盾から発生しているもので、幹部にはどうしようもない。責任をすべて部下に押しつけ、正恩氏の神格化のための犠牲になるのはいつものことです。強圧的な権力を目の当たりにして成長した人物が独裁指導者となれば、父以上に強硬な統治スタイルを示す女帝として君臨するかもしれません。
一部情報によると、ジュエ氏はすでに『ミサイル総局長』の役割を果たしているともいわれます。実際のミサイル総局長は、張昌河・元国防科学院長ですが、とんでもない神格化が進んでいることを匂わせる話です」(前出・北朝鮮ウオッチャー)
昨年から党幹部の間では、ジュエ氏は「27歳になれば組織秘書になるだろう」と、ある種の皮肉めいた臆測が流れている。27歳は正恩氏が最高指導者となった年齢であり、それまであと十数年。後継者として着々と地位、環境を整えていくという見立てだ。
与正氏は対韓・対米の急先鋒に
さて、実妹・与正氏の役割は何か。
「与正氏は対韓・対米政策の攻撃的言動の発信役として強硬姿勢を前面に出し、しばしば過激な談話で国際社会を挑発してきました。正恩氏は党大会で『韓国との絶縁』を改めて強調していますから、今回の昇格によって、その対南攻撃への役割はより一層明確になったと言えます。
これまで公式には、金ファミリーを偶像化する党宣伝煽動部所属として知られてきた与正氏ですが、今回の人事刷新で実務上の重要ポストである党総務部長に昇格した。今後は、正恩氏の指示や方針を党組織全体に浸透させ、4代世襲への基盤を盤石なものにしていくでしょう」(外交関係者)
正恩氏は先の朝鮮労働党大会で、核保有国としての地位認定が米国との対話再開の条件になることを改めて強調した。
正恩氏の父・金正日総書記が築いた「先軍政治」からの脱皮、女性幹部登用の足元で、金正恩後継体制は底辺から崩れ始めているのかもしれない。
『週刊実話』3月19日号より
