3点リードで迎えた9回、マウンドに上がったのは大勢だった。WBC1次リーグC組オーストラリア戦。意地の反撃に遭って2点を失い、終わってみれば4-3で辛くも逃げ切った試合だ。東京ドームは勝利に沸いたが、一抹の不安が漂っていた。「抑えは大勢で本当に大丈夫なのか」と。
メディアはこぞって「史上最強の侍ジャパン」と報じる。大谷翔平、山本由伸ら侍ジャパン史上最多とな9人ものメジャーリーガーが名を連ね、その布陣は確かに壮観だ。だが、データに明るいファン層の目には、その豪華な顔ぶれの陰にいくつかの「死角」が映っている。
その最も根深い懸念が、クローザー問題だ。もともと今大会の守護神候補として期待されていた松井裕樹が、コンディション不良で直前に辞退した。その状況でオーストラリア戦の9回のマウンドを任された大勢は、2点を失ってセーブこそ記録したものの、不安を払拭するにはほど遠い内容だった。
短期決戦における専任クローザーの価値は、極めて大きい。勝ち試合を確実に締める投手を固定することで、ベンチは中盤以降の継投を逆算して組み立てられる。その「計算できる一人」が盤石でないまま、準々決勝以降に進む懸念。「抑えが固定できていないチームは短期決戦で必ず綻びが出る」という指摘が気がかりだ。
もうひとつ気になるのは、2025年に40本塁打、102打点でセ・リーグ二冠に輝いた佐藤輝明が、この大舞台ではこれまで、スタメンではなく代打に甘んじている点。
内野の序列を見れば、岡本和真、村上宗隆という実績ある顔ぶれが三塁と一塁を押さえており、佐藤は「外せない実績組」の陰で出番を待つ立場になっている。オーストラリア戦では8回にタイムリー二塁打を放って貴重な追加点を演出したが、「スタメンで使い続けてこそ本来の力が出る選手」であろう佐藤を代打に置く采配にはモヤモヤが残るのだ。
この二つの問題に共通するのは「現在の状態よりも過去の実績が起用を左右している」ということではないか。近藤健介が3試合12打数ノーヒットという大不振に陥りながらもスタメンに名を連ね続けるのは、同じ論理によるものだろう。
1次ラウンドは首位通過が決まった。結果だけ見れば、文句のつけようがない。だが短期決戦の怖さは綻びが突然、取り返しのつかない形で顕在化することにある。相手が強くなる「アウェー」の準々決勝以降、クローザーの不安定さと起用法の歪みが表面化しなければいいのだが…。
(ケン高田)

