
古代ギリシアの天才数学者、アルキメデス(前287年?〜前212年)。
彼の研究の多くは「写本」として伝えられたため、長い歴史の中で失われた部分も少なくありません。
そんな中、アルキメデスの重要な写本の一部とみられる「失われたページ」が、フランスの美術館で確認されたと報告されました。
それは古代科学史の中でも特に有名な写本「アルキメデス・パリンプセスト」に含まれていたページでした。
フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究者たちは、このページに残された古代の文字を読み解くことで、2000年以上前の数学研究の内容をさらに詳しく知ることができる可能性があると期待しています。
目次
- 中世に「書き消された」アルキメデスの写本
- フランスの美術館で見つかった「123ページ」
中世に「書き消された」アルキメデスの写本
今回見つかったページは、「アルキメデス・パリンプセスト」と呼ばれる写本の一部です。
この写本は10世紀ごろに作られたギリシア語の文書で、古代ギリシアの数学者アルキメデスの複数の著作を写したものです。

しかし中世になると、羊皮紙は非常に高価な材料だったため、古い文字を削り取って別の文章を書くという「再利用」が行われることがありました。
アルキメデス・パリンプセストもその一例で、元の数学書の文字の上に、祈祷文などの宗教文書が書き込まれてしまいました。
その結果、アルキメデスの文章は長いあいだ読めない状態になっていたのです。
この写本はエルサレムやコンスタンティノープルを経て保存され、1906年にはデンマークの文献学者ヨハン・ルードヴィ・ハイベルクによって写真撮影が行われました。
その写真は後の研究の重要な資料となりましたが、その後写本は複数の所有者を転々とすることになります。
その過程で、写真に記録されていたページのうち3枚が行方不明になり、長い間「失われたページ」と考えられていました。
フランスの美術館で見つかった「123ページ」
今回、その失われたページの一つが、フランス中部ブロワのブロワ美術館で特定されました。
発見したのは、フランス国立科学研究センター(CNRS)とソルボンヌ大学の古代思想研究センターに所属する研究者ヴィクトル・ジゼンベルグ氏です。
研究者は、1906年に撮影された古い写真と今回の羊皮紙を比較することで、このページがパリンプセストの123ページ目であることを確認しました。
【発見された写本の画像一覧はこちらから】
このページには、アルキメデスの有名な著作『球と円柱について』の一節が含まれており、第1巻の命題39〜41に対応する内容が書かれています。
羊皮紙の片面では、祈祷文が古代の幾何学図や数学の文章の上に書き込まれているものの、多くの部分は現在でも読み取ることができます。
一方、もう片面には20世紀に描かれた装飾画があり、預言者ダニエルが2頭のライオンに囲まれている場面が描かれています。
この絵の下にも古代の文字が隠れている可能性がありますが、通常の方法ではまだ読むことができません。
そこで研究者たちは、マルチスペクトル撮影やシンクロトロンX線蛍光分析といった最新技術を使い、装飾の下に隠れた文字を読み取ろうと計画しています。
2000年前の数学がさらに姿を現すかもしれない
アルキメデス・パリンプセストは、古代数学の歴史を知る上で最も重要な写本の一つとされています。
2000年代初頭にもマルチスペクトル撮影が行われ、それまで知られていなかったアルキメデスの文章や古代の文学・哲学の断片が読み取れるようになりました。
しかし当時の調査でも、すべてのページを完全に解読できたわけではありません。
今回の発見は、最新技術を使って写本全体を再調査するきっかけになる可能性があります。
もし隠された文字がさらに解読されれば、古代ギリシアの数学者がどのように幾何学を研究していたのか、これまで知られていなかった知識が明らかになるかもしれません。
2000年以上前の科学者が残した思考の痕跡が、現代の技術によって再び読み取られようとしています。
失われたと思われていた一枚の羊皮紙は、古代数学の歴史をもう一度書き直すきっかけになるかもしれません。
参考文献
Lost page of the Archimedes Palimpsest identified in Blois, central France
https://www.cnrs.fr/en/press/lost-page-archimedes-palimpsest-identified-blois-central-france
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

