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人生を賭けた一発逆転ーー負け犬の逆襲が観客を巻き込む『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

人生を賭けた一発逆転ーー負け犬の逆襲が観客を巻き込む『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

1950年代のNYを舞台に、卓球の世界チャンピオンになって人生一発逆転を狙う野心家の男マーティ。映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、実在の卓球選手、マーティ・リーズマンの人生に着想を得ながらも、嘘つきで女たらしで自己中な“最低男”、マーティ・マウザーの最高のロマンを描く。主役のマーティを演じるのは、人気・実力ともにナンバーワンといっても過言ではないティモシー・シャラメ。

卓球の腕前はピカイチのマーティは、親戚の靴屋で働きながら、平凡で“クソみたいな”生活から脱却すべく、卓球の世界選手権へ挑戦する。ロンドンで日本選手に敗れたマーティは、次回日本で行われる世界選手権へ参加し、雪辱を果たすため、ありとあらゆる方法で資金を稼ごうとする‥‥。

第98回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞ほか9部門でのノミネートを果たし、昨今勢いを増しているA24で最も売れた映画となった『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の魅力をご紹介。

2012年に設立された映画会社A24。その歴史を、一本の映画が塗り替えた。3月13日に日本公開を迎える『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』だ。ジョシュ・サフディ監督×ティモシー・シャラメ主演の本作はこれまでダニエルズ監督作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が保持していた同スタジオの最高興行収入 (約1億4,700万ドル) を上回る約1億6,100万ドルを叩き出し (3月5日現在)、「A24で最も売れた映画」に躍り出た。なお製作費も、2024年当時最高額だった『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の約5,000万ドルを抜く7,000万ドル超と報じられており、『悪魔のいけにえ』のフランチャイズ権を獲得したり、人気ゲーム『DEATH STRANDING』の映画化に乗り出した昨今のA24の勢いを感じさせる。

日本時間3月16日に迫った第98回アカデミー賞授賞式でも、歴代最多となる16部門にノミネートされたライアン・クーグラー監督作『罪人たち』、12部門13ノミネートのポール・トーマス・アンダーソン監督作『ワン・バトル・アフター・アナザー』に続く9ノミネートにつけている本作 (『センチメンタル・バリュー』『フランケンシュタイン』と同数)。HIKARI監督×ブレンダン・フレイザー主演『レンタル・ファミリー』(公開中)、ジョシュの弟ベニー・サフディ監督×ドウェイン・ジョンソン主演『スマッシング・マシーン』(5月15日公開) と共に、時代こそ違えど日本を舞台にした作品でもあるため、注目している方も多いだろう。

この『マーティ・シュプリーム』だが、「1950年代を舞台に、米国に実在した卓球選手マーティ・リーズマンをモデルにした物語」という概要だけ聞くと、賞レース好みの骨太で深遠な実話映画をイメージするかもしれない。だがその中身は真逆。社会派でも単なるエンタメやアートでもなく、筆致こそライトでアグレッシブだが見ごたえは十二分。149分にわたって映画作家の筆が走りまくった、A24らしい野心的で若々しい一作に仕上がっている。筆者の個人的な感覚でいえば本作はスポーツ映画よりも「犯罪劇」的であり、「アンダードッグ (負け犬) もの」や「ジャイアントキリング (下剋上) もの」の要素はあれど、代表格である『ロッキー』などとは一味違った (ある種カウンター的な) 展開を見せていく。本稿ではその辺りを中心に、核心的なネタバレを避けつつ『マーティ・シュプリーム』の独自性に迫ってゆきたい。

本作のストーリーを一言で表すなら「ライバルをぶっ倒すために東京への遠征費を稼ぐ話」だ。主人公は世界チャンピオンを目指す卓球選手マーティ (ティモシー・シャラメ)。軽薄だが確固たる実力を持つ彼は、ロンドンで開催された世界選手権で日本から来たエンドウ選手 (川口功人) に敗れ、日本大会でのリベンジに燃える。だが、現地に行くための資金がない。当時の米国での卓球人気の低さや彼の素行の悪さから手を差し伸べる者も現れず、仕方なくマーティは自力で金を工面しようとするがアクシデントが相次ぎ、とんでもない事態に発展していく。

スポーツ映画の華である白熱した試合シーンも用意されてはいるものの、映画の大部分が割かれているのは「どうやって金を稼ぐか」。マーティが取る行動はいずれも正攻法には程遠く、なんとも滅茶苦茶なものばかり。最初こそ親戚の靴屋で働くがサイズの合わない靴を客に無理やり売りつけたり、不倫関係にある恋人レイチェル (オデッサ・アザイオン) をバックヤードに連れ込んでイチャついたりと問題行動連発で、その後も引退した有名女優ケイ (グウィネス・パルトロウ) に言葉巧みに取り入ったり (シャワーを浴びながら愛し合うシーンでこっそりアクセサリーをかすめ取ろうとするシーンの狡いこと!)、素性を隠して遊技場に繰り出しては賭け試合で一般人から金を巻き上げたり (結局バレて大変な目に)、ヤクザ者の飼い犬を保護して謝礼金をせしめようとしたり (こちらも散々な目に)、ちっとも真面目に堅実に金を作ろうとしない。このマーティという男、どこまでも夢見がちな野郎なのだ。そんななかレイチェルの妊娠が発覚し、卓球協会からも忌み嫌われ、マーティは自分の蒔いた種でどんどん苦境に陥っていく。

ここで思い出すのが、サフディ監督がベニーと共に手掛けてきた映画の数々だ。愛する人以外はどうでもいいジャンキー少女の暴走を描いた『神様なんかくそくらえ』、底辺生活から抜け出そうとする兄弟が銀行強盗を計画するが雪だるま式に事態が悪化する『グッドタイム』、借金まみれの宝石商が怪しい取引に巻き込まれる『アンカット・ダイヤモンド』と、いずれも「金がない」×「犯罪に手を出す」=「ヤバい事態に陥る」という負の方程式で構成されている。だが実に興味深いのは、シリアスな状況になるほど反比例して登場人物の生命力が上がり、画面が生き生きしてくること。カオスな熱量が満ち始め、作品の引力が強まっていくのだ。本作はサフディ兄弟ではなくジョシュの単独監督作だが、“お家芸”とでもいうべき特性が一層洗練された印象を受ける。特に大きいのは、痛々しさの薄さ――すなわち主人公のタフさであろう。『君の名前で僕を呼んで』『DUNE』シリーズを筆頭にナイーブな青年を演じることが多かったシャラメが何とも楽しげに悪童を演じ切っており、災難の数々を観客にとっての娯楽に変えてしまう。『レディ・バード』や『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』での勘違いイケメン像を究極進化させたようにも見えるが、観る者が決して「自業自得でしょ」と嫌悪を抱かずにあまつさえ応援したくなってしまう「憎めない男」ぶりが秀逸だ。

マーティは過激なジョークも飛ばすし、傲岸不遜で青臭い。スポーツマンシップからは程遠い人物なのだが、どれだけ旗色が悪くなろうとも己がこれと信じた「卓球」という道を絶対にあきらめず、猛然と突き進んでいく。その姿勢は、果てしない自己肯定ともいえるだろう。決して裕福ではない自身の生まれを憎んだり、練習に集中できず金策に走り回らねばならない状況にイラついたり他者をうらやむことはあろうとも、常に自分の可能性を信じるハングリー精神。観客の多くがその部分に共感し、羨望するからこそマーティが道化のような前座をさせられたり、既得権益に尊厳を踏みにじられるシーンにはふつふつと怒りが込み上げてくるし、完全アウェーの状況で観戦者たちを味方にしていくクライマックスの試合シーンには自然とカタルシスが生まれてくる。本作は、マーティを面白がっていた我々が、いつしか自分たちの代表として認めていく映画なのだ。

ひとつ、象徴的なシーンがある。ケイの舞台稽古にもぐりこんだマーティは、若手俳優に「ナイフの持ち方がなっていない。本物はこうだ」と指南する。彼の生育環境がうかがえる場面であり、自分では選べないガチャ的な《現実》を、芝居という《架空》でのリアリティという武器へと変換した瞬間でもある。『マーティ・シュプリーム』はオープニングからしてふざけた演出で遊びまくるし (これはちゃんとした伏線なのだが、初見時のインパクトは絶大だろう)、お行儀がいいとは言えない映画ではあれど、現実の非情さや残酷さ自体に誇張はない。マーティは常に、必死で、自分の手で逆境を打ち返し、奇跡を起こそうとしている。そんな彼が最後に選んだ答えとその表情には、作品の主題が凝縮されている。これは見下され続けた“持たざる者”が己の信念を貫き、誰にも文句は言わせない自分だけの人生を手に入れる旅路だったのだ。

文 / SYO

作品情報 映画『マーティ・シュプリーム』

NYの靴屋で働きながら卓球で世界一の選手を夢見るマーティ・マウザー。世界選手権で敗れた日本人選手エンドウに勝ち、世界一になるため日本を目指す。不倫相手のレイチェルが妊娠、卓球協会からは選手資格はく奪、資金は底をつき、あの手この手で遠征費用を集めようとするが‥‥。マーティが見つけた”夢より大事なもの“とは。

監督・脚本:ジョシュ・サフディ

出演:ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウ、オデッサ・アザイオン、ケビン・オレアリ―、タイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター・ラッパー)

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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2026年3月13日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

公式サイト martysupreme

配信元: otocoto

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