
ゴミ箱のフタを器用に開けたり、留め具を外したり。
都市で暮らす「アライグマ」は、知恵のある動物としてよく知られています。
しかし彼らは、ただ食べ物を手に入れるためだけに問題を解いているのでしょうか。
もしご褒美がなくてもパズルを解き続けるとしたら、それはもう「食欲」ではなく「好奇心」です。
カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の研究チームは、アライグマが問題を解く理由を調べるため、特殊なパズル装置を使った実験を行いました。
その結果、アライグマは食べ物を手に入れた後でも、新しい仕組みを次々と試し続けることが明らかになったのです。
どうやら彼らは、ご褒美のためだけでなく「パズルそのもの」を楽しんでいる可能性があるようです。
研究の詳細は2026年2月27日付で科学雑誌『Animal Behaviour』に掲載されています。
目次
- アライグマは食べ物がなくてもパズルを解き続けた
- 簡単な問題では冒険し、難しい問題では慎重になる
アライグマは食べ物がなくてもパズルを解き続けた
研究チームは今回「マルチアクセス・パズルボックス」と呼ばれる装置を使いました。
この箱には複数の開け方があり、ドアやラッチ、回転ノブなど、合計9種類の仕組みが取り付けられています。
難易度は3段階に分かれており、アライグマはどの仕組みでも箱を開けて中の食べ物を取り出せます。
ここで研究者たちは、ある重要な条件を設けました。
箱の中のご褒美は1回につき1個だけという設定です。
つまり、アライグマがマシュマロを取り出して食べた時点で、もう箱の中には何も残っていません。それでも20分間は箱を触り続けることができます。
普通に考えれば、食べ物を取った時点で興味を失ってもおかしくありません。

ところが実際には、アライグマたちは違いました。
彼らはマシュマロを食べ終えた後でも、別のラッチや扉を開け続けたのです。つまり、もうご褒美がないことを確かめられる状況でも、新しい仕組みを試す行動を続けていました。
研究者たちはこの行動を 「情報採餌(information foraging)」 と呼んでいます。
これは、食べ物ではなく「情報」を得るために探索を続ける行動です。
言い換えれば、アライグマはパズルを「食料のため」ではなく「知的好奇心のため」に解いていた可能性があるのです。
簡単な問題では冒険し、難しい問題では慎重になる
さらに興味深いのは、アライグマが問題の難易度に応じて行動を変えていたことです。
研究では、パズルの仕組みを
・簡単
・中程度
・難しい
の3段階に設定しました。
その結果、簡単な問題ではアライグマは多くの解き方を試しました。
扉を開けたあと、別のラッチにも手を伸ばすといった具合に、複数の方法を次々と試したのです。
しかし問題が難しくなると、行動が変わります。
彼らは成功した方法を繰り返し使うようになり、新しい方法への挑戦は減りました。
これは行動科学で知られる 「探索と利用のトレードオフ」 という現象です。
新しい方法を試す「探索」は将来の利益につながる可能性がありますが、時間やエネルギーのコストもかかります。
一方、すでに成功している方法を使う「利用」は確実ですが、新しい発見はありません。
今回の実験では、アライグマが状況に応じてこのバランスを調整していることが示されました。
簡単な問題では積極的に探索し、難しい問題では安全な方法を選ぶ。
まるで私たちがレストランで「新しい料理を試すか、いつもの料理を頼むか」を考えるときのような判断です。
好奇心が都市での成功を支えているのかもしれない
アライグマは北米の都市で非常に成功している動物です。
ゴミ箱を開けたり、人工物を操作したりする能力は、しばしばニュースでも話題になります。
今回の研究は、その背景にある認知能力を示しています。
アライグマは単に食べ物を探しているだけでなく、新しい仕組みを理解すること自体に価値を見いだしている可能性があります。
この好奇心があるからこそ、人間が作った複雑な環境でも柔軟に適応できるのかもしれません。
参考文献
Raccoons solve puzzles for the fun of it, new study finds
https://phys.org/news/2026-03-raccoons-puzzles-fun.html
元論文
Raccoons optimally forage for information: exploration–exploitation trade-offs in innovation
https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2026.123491
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

