
冬の朝に外へ出たときのひんやり感や、ミント味のガムや歯みがき粉を口に入れたときのスースーしたあの冷たさ。
私たちは日常的に、どちらも同じような「冷たい感覚」として受け取っています。
でも、よくよく考えてみれば、ミント自体が冷たいわけではありません。
口の中の温度が氷のように下がったわけでもないのに、脳はミントを「冷たい」と受け取ります。
アメリカのデューク大学医学部などで行われた研究によって、体の冷たさセンサーが本物の寒さとミントの成分にどう反応するのかを、分子レベルで細かく解き明かしました。
研究では、ミントは体の中の「冷たさセンサー」にどのように働きかけるかが詳細に調べられており、本物の寒さとミントの冷たさが、一見同じようでいて完全には同じではない仕組みを使っていることがわかりました。
身近な場面に引き寄せれば、ミントを口に入れた状態で冷たい水を飲むと「冷たさ」が強く感じられることに関係する仕組みにも切り込んでいます。
研究内容の詳細は2026年2月21日から25日までサンフランシスコで開催された第70回生物物理学会年次総会で発表されました。
目次
- ミントは体をだます でも冷たさのスイッチは本当に入る
- 冷たさとミントは、同じ扉を別ルートで開けていた
ミントは体をだます でも冷たさのスイッチは本当に入る

私たちが冷たさを感じるのは、皮膚や口、目につながる神経の先に「冷たさセンサー」が存在するからです。
寒い空気や冷たいものにふれると、この「冷たさセンサー」が開いて、脳へ「冷たい」という合図を送ります。
逆に、このセンサーが壊れたり鈍感になると、冷たいものを触っても冷たさを感じにくくなります。
ミントの成分であるメントールは、本当に温度を下げているわけではないのに、このしくみを利用して、冷たいときによく似た信号を起こします。
つまり、ミントのスースー感は気分の問題ではなく、体が本気で冷たさの回路を動かした結果だったのです。
しかし寒さとメントールは完全に同じ仕組みで「冷たさセンサー」を動かしているのでしょうか?
というのも過去に行われた研究では、冬眠動物やマンモスの仲間では、本物の寒さへの感受性が弱くなっても、メントールへの反応は保たれていることが知られていたからです。
もし寒さもメントールも全く同じ仕組みで動物の「冷たさセンサー」を動かすならば、寒さに強い動物はメントールにも強いはずです。
冷たさとミントは、同じ扉を別ルートで開けていた

そこで今回研究者たちは「冷たいセンサー」が反応する様子を、まるで連続写真のように記録し、少しずつ形が変わっていく流れを追いました。
先に述べたように、この「冷たいセンサー」が閉じた状態から開いた状態へ向かうことで私たちは冷たさを感じます。
このセンサーは、開いている時間が千分の一秒より短く、寒さだけでもメントールだけでも決定的な瞬間をつかみにくい相手でしたが、今回の研究ではそれをコマ送りのようにして確かめました。
これまで見えなかった「冷たいが始まる瞬間」に、ようやく輪郭が与えられたとも言えるでしょう。
寒さでもメントールでも、最終的なゴールは同じで、どちらもその“通り道の扉”を開けます。
ところが今回わかったのは、同じ扉を開けるのに、そこへたどり着くまでの道のりは一つではなかった、という点でした。
寒さの場合は、冷たさセンサーの中心にある大事なタンパク質のパーツを主に最後の段階でぐっと押し広げるように動かし、いわば扉のノブを強く回してセンサーを開いていました。
一方のメントールは、中心部分には直接は触れずに、少し離れたところにくっついて、まずタンパク質全体の形をじわじわと変えて間接的にノブが回るよう助けていたのです。
ざっくり言えば、寒さは正面突破、メントールは横から回り込んで時間をかけて手助けする役でした。

そのためこの2種類の刺激はケンカするどころか、むしろ協力し合いやすいのです。
身近な例に引き寄せれば、メントールの飴やタブレットを舐めながらキンキンに冷えた水やコーラを飲むと、冷たい感じがブーストするという体験をした人も多いでしょう。
研究でも低温では、メントールの効きやすさが見かけ上およそ十倍ほど高まったと報告されています。
寒さとメントールが重なりつつ異なる経路で同じ扉に力を伝えるため、相乗効果を与え、冷たさが強まりやすくなったわけです。
今回の研究で用いられた「冷たさセンサー」はマウス由来のものではありますが、論文はこれを哺乳類の冷たさの理解を深める成果として位置づけています。
また今回の成果は「ミントがなぜ冷たいか」という答えだけではなく、どこを押せば冷たさの回路が強まり、どこを触ればその反応を調整できそうかという地図でもあります。
冷たさとメントールが同じ部品を使いながら違う経路を通るなら、その違いを利用して信号を強めたり、逆に偏らせたりする新しい薬の設計につながる可能性もあります。
この「冷たさセンサー」はドライアイや寒さで悪化する痛みや片頭痛、咳などの治療標的としても注目されており、今回の研究成果がそれら新薬開発のヒントにもなりえます。
もしかしたら未来の世界では、目薬や痛みの治療で「どの冷たさを、どれだけ感じさせるか」まで細かく設計できるようになるのかもしれません。
参考文献
Scientists finally reveal why mint feels cold
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/03/260306224220.htm
Scientists Show How Your Body Senses Cold—And Why Menthol Feels Cool
https://www.biophysics.org/news-room/scientists-show-how-your-body-senses-coldand-why-menthol-feels-cool
元論文
70th Biophysical Society Annual Meeting in San Francisco from February 21–25, 2026.
https://www.biophysics.org/2026meeting#/
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

