
日々の人付き合いの中で、誰かにイラッとしたり、恨みを抱いたりすることはあるでしょう。
しかし米ハーバード大学(Harvard University)の最近研究によると、そうした感情を長く抱え続けるよりも、「人を許す習慣」を持つ人のほうが、日々の幸福度が高くなる可能性があることがわかりました。
研究チームは、世界23カ国・20万人以上という大規模データを分析し、「他人を許す傾向」と「その後の幸福度」の関係を調査。
その結果、人を許す習慣を持つ人は、1年後の心理的・社会的な幸福度がわずかに高くなる傾向があることが確認されたのです。
研究の詳細は2026年1月21日付で学術誌『npj Mental Health Research』に掲載されています。
目次
- 怒り・恨みを抱え続けると、人はどうなる?
- 世界20万人以上のデータから見えた「許しの効果」
怒り・恨みを抱え続けると、人はどうなる?
人間関係で傷つく経験は、誰にでもあります。
こうした出来事が起きると、人は「不公平だ」「納得できない」と感じ、怒りや恨みを抱きやすくなります。
そしてこれらの感情を長く抱え続けることは、精神的な健康にとって良くないと考えられています。
一方で心理学者たちは、「許し」を適応的な対処戦略(adaptive coping strategy)と呼びます。
これは、ストレスや傷ついた経験を処理する健康的な方法の1つと考えられているからです。
たとえば、誰かを一度許しただけでも、気持ちが軽くなったり、気分が良くなったりすることがあります。
しかし研究者たちが注目したのは、単発の行動ではなく、「人を許す傾向」そのものでした。
心理学ではこれを「気質的な許し(dispositional forgivingness)」と呼びます。
つまり、人生のさまざまな場面で、人を比較的許しやすい性格や習慣のことです。
研究者たちは、この性格的な傾向が長期的な幸福と関係しているのかを調べました。
世界20万人以上のデータから見えた「許しの効果」
研究チームは国際調査データを使用し、23カ国・20万7919人という非常に大規模なサンプルを対象としました。
参加者は各国の人口構成を反映するように選ばれており、国ごとの代表的なデータになっています。
調査は約1年の間隔をあけて2回行われました。
最初の調査では、参加者に「自分を傷つけた人をどのくらい許しますか?」という質問がされました。
これにより、各人の「人を許す傾向」が測定されました。
そして約1年後、研究者たちは参加者の幸福度を再び測定しました。
評価された項目は、次のような8つの分野・56の指標です。
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心理的幸福
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心理的苦痛
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社会的幸福
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社会的苦痛
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社会参加
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人格と向社会的行動
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身体的健康
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社会経済的状態
その結果、人を許す傾向が高い人ほど、1年後の幸福度がわずかに高くなる傾向が確認されました。
特に関連が強かったのは、心理的・社会的な側面でした。
具体的には、許しやすい人ほど
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人生の目的を感じやすい
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楽観的である
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人間関係の満足度が高い
といった傾向が見られたのです。
さらに興味深いことに、許す傾向は「感謝」や「善いことをしようとする姿勢」など、向社会的な性格特性とも関係していました。
また、国によって結果は少し異なっていました。
アメリカ、日本、イギリスなどでは、許す傾向と幸福度の関連が多くの指標で確認されました。
一方で、ナイジェリアや南アフリカ、エジプトなどでは関連がほとんど見られませんでした。
研究者たちは、政治的不安定や経済格差などの強い社会的ストレスがある場合、許しの効果が目立ちにくくなる可能性があると考えています。
「許し」は小さな要素だが無視できない
今回の研究で確認された効果は、決して大きなものではありません。
研究者自身も、「幸福は多くの要因によって決まる」と説明しています。
それでも、この結果には重要な意味があります。
なぜなら、人間関係のトラブルは非常に一般的であり、多くの人が「許せない感情」を抱えているからです。
もし、人を許す習慣が少しでも幸福度を高めるのであれば、その効果は社会全体で見ると無視できないものになる可能性があります。
チームは今後、文化によって許しの意味や効果がどう変わるのか、また「許すこと」がどのような心理メカニズムで幸福につながるのかをさらに調べる予定です。
参考文献
Massive global study links the habit of forgiving others to better overall well-being
https://www.psypost.org/massive-global-study-links-the-habit-of-forgiving-others-to-better-overall-well-being/
元論文
Longitudinal associations of dispositional forgivingness with multidimensional well-being: a two-wave outcome-wide analysis in the Global Flourishing Study
https://doi.org/10.1038/s44184-026-00187-5
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

