「苦手」「やりたくない」が、ぼくと社会をつなぎとめている
──そう思うと、今の野田さんは好きなことや興味のあることが仕事になって、はたらくのが楽しそうですよね。
いや……。はたらくに関するメディアでこんなことを言うのも申し訳ないんですけど、ぼく、本当は全然はたらきたくないんです。
──はたらきたくない!?
そうなんですよ。これがぼくの一番の矛盾で、こんなにはたらいているのに、根底でははたらきたくないんです。究極の理想は、ただただ好きなことだけしていたいんです。そこには「はたらく」も「労働」もなく。
でも、もし一切はたらかず、本当に自分の好きなことだけをしていたら、ぼくはもっとわがままで偏った人間になっていたと思うんですよね。それこそ、こんなインタビューの受け答えもできなかったかもしれない。
結局のところ、嫌なことや苦手なことが「学び」になって、ぼくをまともな人間にしてくれているのも事実なんです。やっぱり仕事をする過程では好きなことばかりじゃなくて、嫌なことにも出会って、それをなんとかすることの連続。はたらくことで、やりたくないことを克服し、学びを得て、それがまた自分をつくる大事な要素にもなっているんですよね。
苦手や嫌なことがセーフティーネットになって、社会とぼくをつなぎ止めてくれている。嫌なことをなんとか克服してきた経験値とその意味を実感しているせいで、「はたらかずに好きなことだけをやる」には振り切れないんです(笑)。

「死ぬぞ」と思う極地までいったら、「死なないためには」の逆算が始まる
──苦手は捨てきれないものとはいえ、向き合うのはつらいと思います。苦手なことに直面したとき、野田さんなりの対処法はありますか?
M-1で優勝してから、ロケの仕事が一気に増えたときがあって。最初は何も分からないから、とにかくがむしゃらにやっていたんですけど、だんだんしんどくなって「ロケきっつ」と思う日が続きました。嫌も度を越すと恐怖に変わってきて、それなのに行かなきゃならない。そうなったときに、逆側から考えはじめました。
──逆側から?
「これは死ぬぞ」と思ったら、人は死なない方法を考えますよね。それと同じで、このままいくとやばいと思ったから、しんどくて嫌なロケをちょっとでも楽しくするにはどうしたらいいのか逆算したんです。
そこで思いついたのが、「ちょっとだけ友達をつくる」でした。近くにいるADさんでも誰でもいいから名前を覚えて果敢に話しかける。そこで知り合いになると、ほかの現場でもそのスタッフさんがいるだけで少し楽しくなって、自分が前よりちょっとだけ笑えるようになる。
そうすると、ロケに行くのが憂鬱じゃなくなって、そこまで嫌じゃなくなって。ぼく自身は気付いていなかったんですが、周囲の人によると、現場全体の雰囲気もちょっとだけ柔らかくなっていたらしいんです。結果的にロケ全体が良くなるという、サイクルが回りはじめたんですね。
はたらいていると、嫌なことって全員あると思います。そこで今すぐの解決策がなくても、逆算して自分にできる最小単位の行動をするのが、好転のきっかけになるかもしれないなと。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?
ぼくはやりたいことがない状態って、別に悪くはないと思っています。それは引っ越して、どういう家にするかまだ決め切れていない状態に近い。どんな家にするのか、家具をあれこれ探して、イメージを膨らませられるのと一緒で、いろいろなものを見て、気になることがあったら試せる、めちゃくちゃ楽しい時間なんだと思います。ぼくも二度目の人生があるなら、やりたいことがない状態に一度戻ってみたい気持ちすらあります。
もし今「好きなこと」「やりたいこと」が見つからないのなら、視野を広げていくその時間を楽しんでほしいですね。まだスタートを切っていない、その貴重な時間を、ぜひ愛しんでください。何かが見つかったら、そこから「やり続ける」という別の競技がスタートしますから。

「スタジオパーソル」編集部/文:田邉なつほ 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:菊村夏水

