「ノートラック5本を滑っていただく 」

キューピットバレイに新しいリフトが架かったことで、もうそこでキャットを走らせる必要がなくなった。
「キャットを舞子スノーリゾートに持ってこようっていうのは、実はずっと考えていたんですね。僕は必ず朝一番にゲレンデに出るようにしてるんですよ。お客さまは滑ることを一番の楽しみにスキー場に来てくれているので、その期待に対して圧雪がきちんと仕上がっているかを見ておきたくて。
パトロールと一緒に、平日は7時、休日は6時半、お客様より1時間半くらい前に山に上がるんです。すると、誰もいないゲレンデっていうのは、静寂で厳かで本当に素晴らしくて。12月、1月だと、まだ暗くて、ちょうど朝陽が上り始めるんです。こんな絶景ってなかなか見れるもんじゃないなと……」
そこで舞子スノーリゾートで始まったのが、国内でも希少なファーストトラックキャットツアーだ。その名も「Haglöfs First track Cat tour(ホグロフス・ファーストトラック キャットツアー)」。
何が珍しいかって?
「普通のキャットを使ったファーストトラックはキャットで上がっても、きれいなバーンを1本滑って終わりなんですけど、僕は5本滑っていただこうと思ったんです。キャットで山頂部に上がってまず1本、そのあとゴンドラで2本、さらにリフトで2本。もちろん、まだ一般にはコースは開いていません。だから最大5本のノートラックを滑ることができるんです。
これって、いわゆる1日貸切のキャットツアーでも、5本か6本が目一杯だと思うので、ウチのはそれと同じくらいたっぷり滑れて、コストパフォーマンスを考えたら、それを大きく超える価値があると思うんです」

八木さんの語りに熱がこもる。6時なんて早朝から暗闇のなかキャットを走らせ、1本のキャットで5本も滑ることができる、などというゲストにとって幸せな設計は、まさに滑り手の視点から生まれたものだ。
「とにかくまず滑るってことがみんなのこの冬の楽しみなわけだから、そこを最大化して提供したいって思いで考えました。5本も滑っていただこうって多分普通の会社さんは思わないですよね(笑)。
でも、最初にキャットのファーストトラックをやろうと思ったときは、雪が降らない日はお客さまは来ないよね…降った朝しか成立しないんじゃないかった思っていたんですが、実際に始めてみたら、そうじゃなかったんです。
僕はこれまでずっとパウダーばっかり滑っていたんですが、’24シーズン終わりに怪我をして、しばらくパウダーが滑れなくて。それがキッカケに圧雪が好きになったんです。きれいに整備されたバーンでカービングをする気持ち良さが初めてわかったんです。
誰もいないゲレンデで、朝イチのバシッと締まった圧雪バーンを思いのままに滑る、これはとても贅沢な体験なんですね。これはすごくお客さまに響いたなと思って」

八木さんは嬉しそうだ。それは施策が当たったことよりも、ゲストに楽しんでもらえる新しい機会を提供できたことへの喜びだ。限りなくゲスト・ファーストのもてなし。とことん現場主義から生まれる八木さんの「思いつき」、いや、アイデアはいつも固定概念を超えていく。
今度は何だ?
世界初・ 圧雪車キッチンカーとドーナツ


’25-26の今シーズンのさらなるトピックは、舞子スノーリゾートに新たに登場した「圧雪車キッチンカー」だ。どうして圧雪車なのか。
「これ絶対に世界初ですよね(笑)。誰も圧雪車でキッチンカーやろうと思わないでしょうから(笑)。でも、自分の滑っている山・斜面を同じ目の高さで対面に眺めながら、一息つける場所がほしかったんです。山の上まで普通の車じゃ登れないですから」

温かいコーヒーを手に、自分の滑ったラインを思い出しながら、ちょっとした満足感や達成感にも浸りながらひと休み。するとワンハンドで食べられるもの、という前提からドーナツにいきついたわけです。
それに、僕、舞子スノーリゾートはイオンモールみたいな役割の場所にしないといけないと思ってるんです。どんな人が来ても自分に当てはまるものがあって楽しめる。 家族連れでも若者でもシニアでも。だから、あらゆる層に対応する食の選択肢を揃えたい。舞子スノーリゾートにはハンバーガーもカレーもラーメンもあるけど、ドーナツないなって。それにドーナツ嫌いな人、いないでしょう?(笑)」
