
いつも緊張と不安を与え、迷惑な行為を行ってくる「厄介な人」は、身近にいるでしょうか。
親族家族や同僚、友人の中に、会うたびに気持ちを消耗させる人物がいるという人も少なくないかもしれません。
実はそうした関係が、気分だけでなく体の老化指標とも関連している可能性があることが、最新研究で示されました。
アメリカ・ニューヨーク大学(NYU)の研究チームは、生活を困難にする人間関係を持つ人ほど、DNAメチル化に基づく生物学的老化の指標が高くなる傾向を発見したのです。
この研究成果は、2026年2月18日に学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。
目次
- 厄介な人が身近にいると生物学的年齢が9カ月高い
- 厄介な親や子供がいると、特に老化しやすい
厄介な人が身近にいると生物学的年齢が9カ月高い
人間関係が健康に良いという話は、これまで多くの研究で示されてきました。
友人や家族とのつながりはストレスを和らげ、孤独を減らし、さらには寿命にも好影響を与えることが知られています。
しかし研究者たちは、ここに見落とされてきた側面があるのではないかと考えました。
人間関係は必ずしも支えになるものばかりではなく、むしろ強いストレスを生み出す関係も存在するからです。
現実には、社会関係の中には会うたびに問題を起こしたり、人を批判したり、関わると疲れてしまう人物もいます。
研究者たちはこうした人物を「hasslers」と呼び、人生を困難にする関係として調べました。
そこで研究チームは、こうした困った人間関係が生物学的な老化に関係しているのかを調べることにしました。
研究には、アメリカ・インディアナ州の成人2345人が参加。
調査ではまず、参加者に自分の社会ネットワークを詳しく挙げてもらい、普段関わっている人々について回答してもらいました。
平均すると、参加者の社会ネットワークには約5人の人物が含まれていました。
そのうえで研究者たちは、それぞれの人物について「この人はどれくらいの頻度で、あなたを困らせたり、問題を起こしたり、人生をややこしくしたりしますか」とたずねました。
その中で「よくある」とされた人物が、厄介な存在であるhasslersとして分類されています。
さらに研究者たちは、参加者から唾液サンプルを採取。
ここからDNAメチル化と呼ばれる化学的な変化を分析し、体の老化状態を測定したのです。
DNAメチル化とは、遺伝子の働きを調整する仕組みの1つであり、年齢や健康状態と深く関係していることが知られています。
近年では、この変化のパターンを調べることで「生物学的年齢」を推定できるようになっています。
研究では、GrimAge2という生物学的年齢の進み具合を示す指標と、DunedinPACEという老化の進む速さを示す指標の2つが使われました。
そして分析の結果、興味深い傾向が明らかになりました。
まず、約30%の人が少なくとも1人の”厄介な人”を抱えており、こうした厄介な人間関係は決して珍しくないことが分かりました。
さらに重要なのは、身近な厄介な人の数が増えるほど老化の速度が速くなる傾向が見られたことでした。
具体的には、厄介な人が1人増えるごとに、生物学的老化は約1.5%速く進むことが示されました。
また、同じ年齢の人同士を比べると、生物学的年齢は平均で約9カ月高い傾向も見られました。
言い換えると、身近な厄介な人物が多い人ほど、体は少しだけ「年上」になっている可能性があるのです。
では、どのような人間関係が特に強く関係していたのでしょうか。
厄介な親や子供がいると、特に老化しやすい
研究から、厄介な人の影響は関係の種類によって異なることが分かります。
特に強い関連が見られたのは、家族関係におけるhasslersでした。
例えば、親や子ども、兄弟といった親族です。
こうした関係は友人とは異なり、簡単に距離を置くことができません。
家族という関係には義務や責任が伴うため、問題があっても接触が長期間続きやすいからです。
研究者たちは、このような関係の「逃げにくさ」が慢性的なストレスを生みやすいと考えています。
実際、親族の”厄介な人”は老化の速さとも、生物学的年齢の高さとも関連していました。
一方で、配偶者が”厄介な人”だった場合には、老化指標との統計的に有意な関連は確認されませんでした。
研究者たちはその理由として、結婚関係には衝突や摩擦だけでなく、支えになるやりとりも混ざっている可能性があると考えています。
さらに研究では、hasslersの多い人ほど健康状態にもいくつかの特徴が見られることが分かりました。
厄介な人が身近に多い人ほど、うつや不安の症状が強く、体内の炎症を示す指標やBMIも高い傾向が見られたのです。
つまり、厄介な人間関係はメンタルだけでなく身体の健康とも幅広く関係していると分かります。
では、なぜこのような影響が起きるのでしょうか。
研究者たちは主な仕組みとして、慢性的な対人ストレスを挙げています。
人間関係の緊張が続くと、体ではストレス反応が繰り返し発生。
その結果、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌され、炎症反応や免疫の変化が引き起こされます。
研究者たちは、こうした反応が長く続くことでDNAメチル化のパターンが変わり、生物学的老化の加速につながる可能性があると考えています。
ただし、この研究には重要な注意点もあります。
今回の研究は観察研究であり、厄介な人間関係が老化を直接引き起こすと断定することはできません。
例えば、もともと健康状態が悪い人や、ストレスを感じやすい人ほど、人間関係をよりネガティブに受け取りやすい可能性もあります。
研究者たちはこうした点を踏まえ、今後は同じ人を長く追いかける研究や、より因果関係に近づける研究が必要だと述べています。
また、慢性的な対人ストレスがどのようなDNA変化を引き起こすのかを詳しく調べる研究も重要になりそうです。
それでも今回の研究は、人間関係の「支え」の側面だけでなく、「ストレス」の側面にも注目した点で重要です。
健康的な老化には食事や運動だけでなく、社会環境や人間関係の質も関係している可能性があるからです。
私たちの体は、食べ物や生活習慣だけでなく、誰と過ごすかという社会的な環境によっても少しずつ変化しているのかもしれません。
参考文献
The difficult people in your life might be making you biologically older
https://www.psypost.org/the-difficult-people-in-your-life-might-be-making-you-biologically-older/
Spending Time With Difficult People Could Be Aging You Faster And Harming Your Health
https://www.iflscience.com/spending-time-with-difficult-people-could-be-aging-you-faster-and-harming-your-health-82799
元論文
Negative social ties as emerging risk factors for accelerated aging, inflammation, and multimorbidity
https://doi.org/10.1073/pnas.2515331123
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

