
ネコは高い場所から落ちても、難なく体勢を整えて、足から着地します。
ソファの背もたれから落ちても、木から落ちても、空中でくるりと体を回して見事に4本足で着地する姿を見たことがある人も多いでしょう。
この不思議な能力は古くから知られ、「落ちるネコの謎」として物理学者や生物学者の興味を引いてきました。
空中では何かを押して向きを変えることができないはずなのに、ネコはどうやって体勢を整えるのでしょうか。
山口大学の研究チームは、この長年の疑問に新しい答えを示しました。
研究によると、ネコが空中で体を回せる秘密は「背骨の部位ごとの柔軟性の違い」にあることがわかったのです。
研究の詳細は2026年2月24日付で科学雑誌『The Anatomical Record』に報告されています。
目次
- 背骨の「柔らかい部分」と「硬い部分」
- ネコは体を「順番に」回している
背骨の「柔らかい部分」と「硬い部分」
ネコが落下中に姿勢を整える能力は「空中姿勢反射」と呼ばれています。
しかし、背骨がどのように働いてこの動作を実現しているのかは十分に理解されていませんでした。
そこでチームは、ネコの背骨の構造と動きを詳しく調べることに。
まず5体のネコの遺体を用い、背骨を「胸椎(背中の上〜中部)」と「腰椎(背中の下部)」に分けて、ねじりに対する柔軟性や強度を測定しました。
その結果、ネコの背骨は全体が均一に柔らかいわけではないことが判明しました。
胸椎は非常に柔軟で、ほとんど力をかけなくても大きくねじれる「ニュートラルゾーン」という可動域を持っています。
この範囲ではおよそ50度近くまで自由に回転できることがわかりました。
一方、腰椎はそれほど柔らかくなく、ねじれに対して強い抵抗を示しました。
つまり腰椎は回転しにくく、体を安定させる役割を担っているのです。
この結果は、ネコの背骨が「柔らかい部分」と「硬い部分」に機能分化していることを示しています。
ネコは体を「順番に」回している
チームはさらに、高速度カメラを使ってネコの落下動作を撮影。
健康なネコ2匹を柔らかいクッションの上に落下させ、肩や腰に取り付けたマーカーを追跡することで、体の動きを詳細に分析しました。
その結果、ネコは体を一度にひねっているわけではないことが明らかになりました。
【こちらはネコが空中で姿勢を整える順序を示した画像】
まず落下すると、ネコは頭と前脚を先に地面の方向へ回転させます。これは胸椎が柔らかく、体の前半が比較的軽いためです。
次に、体の後ろ半分がそれに続いて回転します。このとき腰椎は硬い支点のように働き、体全体が制御不能に回転してしまうのを防いでいます。
つまりネコの空中回転は
「前半の体 → 後半の体」
という順序で行われる段階的な動きなのです。
この仕組みにより、ネコは空中でバランスを保ちながら体の向きを変えることができ、最終的に足から着地する姿勢を作り出していると考えられます。
ネコの秘密はロボットにも応用されるかも
今回の研究は、ネコの身体能力の仕組みを解明しただけではありません。
研究者たちは、この知見が動物の運動を再現する数理モデルの改良や、脊椎損傷を治療する獣医学研究に役立つ可能性があると考えています。
さらに、生き物の動きを模倣した機敏なロボットの設計にも応用できるかもしれません。
私たちにとっては何気ないネコのジャンプや落下も、その裏には精巧な身体構造と巧みな運動制御が隠されています。
ソファから軽やかに飛び降りるネコを見たとき、その動きの背後には、進化が作り上げた見事な“空中アクロバット”が働いているのかもしれません。
参考文献
Japanese scientists discover how falling cats almost always make perfect landings
https://phys.org/news/2026-03-japanese-scientists-falling-cats.html#goog_rewarded
元論文
Torsional flexibility of the thoracic spine is superior to that of the lumbar spine in cats: Implications for the falling cat problem
https://doi.org/10.1002/ar.70165
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

