
2024年9月にシンガーソングライターの美咲とボカロPのさすけにより結成されたバンド・ミーマイナー。結成1年でイナズマロックフェスに出演を果たすなど“次に来るバンド”として注目され、先日ソニー・ミュージックレーベルズから2026年5月13日にEP「部屋とガラクタと私」でメジャーデビューすることが発表された。
日常に宿る愛のカタチを音楽として届けるミーマイナーの音楽ができる裏側や、歌詞製作の過程を覗き見られる連載「ミーマイナーの 歌詞にしなかったこと」第4回は、リーダーのさすけが2ndワンマンライブで披露した“幻の楽曲”「ヒビ」について綴ってくれた。
■まえがき

初めまして、ミーマイナーのリーダーさすけです。
先日行われた2ndワンマン、最高だったね!たくさんの人に観てもらえて嬉しかった。ミーマイナーチームは次の3rdワンマンに向けてまた新曲制作や準備を頑張ってます!9月17日(木)のSpotify O-EASTも是非遊びにきてください!
さて、今回は美咲がお休みということで、2ndワンマンライブで披露した新曲「ヒビ」(その場限りで、もう2度と披露する予定がないもの)について、なぜその曲を書くに至ったのかという想いを短編小説の形式で綴ろうと思います!それでは、お楽しみください。
■僕の家には、ヒビが入っていた。
2020年。田舎の友達と組んだバンドがバズって、メンバー4人で上京することになった。古い一軒家を借りて始まった男4人の共同生活。バンドドリームの、一番よくある典型例だった。

少しだけ雑誌に載って、ラジオに出て、テレビに出て、芸能人の知り合いもできた。昨日まで田舎で趣味のバンドをやっていただけの僕らには、足が地面についていないまま水中を歩いているような浮遊感があった。今思えば、豪邸の玄関に足を踏み入れただけで満足してしまったような、そんな情けない旅だった。
赤というより黒ずんだ、朱色に近い屋根。雨に焼け、時間に擦られた白い外壁。その外壁に細い線を見つけたとき、僕は反射的に息を呑んだ。
ヒビだ、と思った。
慌てて近づいてみると、それはヒビではなく、庭から這い上がってきたツタだった。深緑の細い指が壁にしがみつき、どこまでも上へ上へと伸びていく。僕にはそれが、どうしようもなく不吉に見えた。
だから僕は庭の手入れを始めた。毎週、剪定ばさみでツタを切り、土をいじり、ゴミ袋に詰めた。誰もやらない庭の手入れを1人でやった。やらなければ、ヒビが広がってしまう気がしたからだ。(正確には、家にではなく4人の関係性に)
「お前ほんと、掃除好きだよな」
彼らは気にしない。気にしないでいられることに、疑問すら持たない。男のずぼらさとか、能天気さとか、空気の読めなさとか、そういうものの集合体が、僕の目の前で息をしている。それは、世界中の女性全般に、勝手に頭を下げたくなるほどだった。(自分も同じ側の性別なのだけれど)
そして悲しきかな、その集合体×3が、僕の全てだった。どこかで呆れながらも、ほとんど盲目的に、それでもなお愛していた(愛しているという事実に、自分でも少し戸惑っていたほどに)。この悪友と死ぬまで一緒にいるのだと、この先もずっと同じ電車に揺られて、同じ景色を見て、同じくだらない話で笑って、同じように歳をとっていくのだと、疑いもなく信じていた。
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共同生活は、呆気なく終わった。
1人はプライバシーがないと言って、隣町にワンルームを借りた。1人はソロ活動を始めて、部屋から出てこなくなった。1人は友人の家に居候し、そのまま帰ってこなくなった。
なにかを始めるのは大抵腰が重く、何億もの自問自答の反復横跳びを必要とするが、なにかを崩壊させるには誰かのくしゃみひとつで充分だったりする。
「あんなに息巻いていた癖に」と周りを責めても、現実は変わらない。むしろこちらが変人のような扱いを受ける。下降線を辿る集団において、最後まで熱を持ち続けた人間のターミナルは、往々にして無人島のような場所になる。
そして、バンドは解散した。
全部、俺のせいだと思った。実力が足りなかったから。まとめられなかったから。4人をひとつにしておくことすらできない人間が、何者かになれるはずがない。
何か起こったときに全てを自分のせいにする悪癖は、現在進行形で自分を責め続けている。
ぱんぱんのキャリーケースに詰め込んだはずの4人の夢は、今日も別の誰かが叶えている。
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退去の日。どうせ出ていくのだからと、庭の手入れをやめたツタは好き勝手に伸びきっていた。軒を越え、屋根裏に届きそうなほどに壁を覆い尽くしていた。
あの黒ずんだ赤い屋根にまで、もうすぐ触れてしまいそうだった。白かった外壁は、いよいよ本当にヒビだらけに見えた。今にも崩れ落ちそうだった。
不動産屋との手続きを終え、鍵を返し、僕はその家を後にした。不思議なほどに冷静に。一度も振り返ることはなかった。

西武新宿線の線路沿いに建つ家だった。
引っ越し先へ向かう電車の窓から、4人で暮らしたその家を見た。遠ざかる景色の中で、壁を這うツタは、やはりヒビのように見えた。
あるいは、あれはツタではなく、本当にヒビだったのかもしれないと、時々思う。
-完-
■あとがき
あの頃の4人はもういない。(4人は今でも1人1人個別の存在としてこの地球上に存在しているのだが、「あの頃の4人」に戻ることはもうない。)
時には永遠の別れよりも、少しずつすれ違うことの方が悲しいこともある。それでも、あのとき感じた感情を心の中に真空パックして、いつでも取り出せるように持ち歩いている。だから僕が死なない限り、「あの頃の4人」が死ぬことはない。
移りゆく時代の中で移りゆく人間関係。そのときどきに感じた感覚を、毒か薬かわからないひとりごとを、僕は音楽にして吐き出している。

ミーマイナー さすけ

