最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
脳トレ四択クイズ | Merkystyle
「富士そば」に人生フルベット! “珍そば”600食を追う男の執念

「富士そば」に人生フルベット! “珍そば”600食を追う男の執念

なかやま(C)週刊実話Web

村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前にやっておくべきこと」。富士そばハンターのなかやまをインタビュー(前編)。“珍そぼ”に対する熱い思いをたっぷり語っていただいた。

期間限定という“珍そば”の正体

名代富士そば。1972年に創業。戦略的な駅前角地の出店計画と当時は斬新な24時間営業で、東京を中心に埼玉・千葉・神奈川で現在105店舗をチェーン展開する関東のそば好きには最も親しみのある〝立ち食いそばの雄〟である。

日本一の代名詞である“富士”の名を冠したそば屋は、海外向けのガイドブックにも掲載され、今では外国人観光客たちもこの国の至宝を拝みに訪れる。

そんな富士そばに、人生をフルベットしてしまった男がいた。

富士そばハンターなかやま。マニアの間では“富士登山”とも喩えられし全店制覇を達成したのも遠い昔。1500杯までは数えていた総杯数も、いつからか数えることをやめた。「天玉そば」「わかめそば」「かつ丼セット」。それら多くの人が通る舗装された登山道などには興味がない。彼の魂を焦がす、ただ一つのオブセッション。それは富士そばという日常の中に隠された偏執的なバグ“珍そば”というお宝を見つけるためだけに、ひたすら富士を登るのだ。

「珍そば。僕はそう定義させていただきましたが、富士そばが出している期間限定のそばのことです。富士そばはチェーン展開でありながら、複数の子会社が運営しており、各店舗は店長の裁量に任されています。そのため、店舗ごとに個性というものが生まれ、店長の人間味でありクリエイティビティーが大きく影響します。それを最も顕著に表しているのが、店舗のオリジナルメニューである“珍そば”。『フライドポテトそば』『オリーブオイルざるそば』『まるごとトマトそば』…どうです、におい立ちませんか? しかもこれら珍そばは、期間限定ですから、1カ月もすれば消えてしまう幻の逸品。『その時期に、その店で』を逃してしまえば、二度とはお目にかかれない秘宝中の秘宝。僕はこれを探す、ゴールのない旅を続けているのです」

なかやまは、眉一つ動かさずに、この人類未踏のトレジャーハンティングという酔狂な話を続ける。収集の道は厳しいものだ。行く手を阻むものは数限りないが、やはり登山を困難にしているものは情報の少なさだろう。それは地図も羅針盤もなく山道に分け入るようなもので、なかやまは何度も遭難している。

「情報が出ないんですよ。一部のメニューはSNSなどで告知してくれることもあります。『あそこでこんな珍そばを食べた』というポストもたまにあるので、そういう情報を毎日くまなく探してはいるのですが、やはり限界がある。最も確実な方法は、現地へ行って券売機を直接視認する方法ですね。幸いなことに富士そばは関東近郊にまとめて店舗があるので、今は週3日ぐらいは新作の珍そばが出ていないか、今日は山手線、明日は中央線と沿線ごとのパトロールをしています。1日5軒行って、1軒当たりがあれば上出来。ボウズの日も当然あります。どんどんおなかも空いてきて、“泣きのざるそば”を入れる日も…。でもまぁ、なんでもそうだと思いますが、長年やっていると勘所が分かってくるというんですかね。よく珍そばが出てくる場所と、一番重要なタイミング。これが分かってくる。時期的には1日と15日にメニューが新しくなることが多いので、両方のメニューが拝める15日以降に集中的に網を張る。開拓した未開の登山道は次へつながる道となります。珍そばを捕獲した店で、仲良くなった店長から独自に情報をもらえるような幸運もありますしね」

【死ぬ前にやっておくべきこと】アーカイブ

富士そばの奇丼「クーリッシュホイップかつ丼」(C)週刊実話Web

珍そば600食の狂気レビュー

これまでに集めた店舗限定メニューは600食以上(2月25日現在)。それらは、ブログ『富士そば原理主義』(fujisobamania.com/)にて国立富士そば博物館の展示品のように閲覧できるというので少し覗いてみる。

なるほど、見た感じはそばやかつ丼の普通の写真が並んでいるが、詳細をよく見てみると「クーリッシュホイップかつ丼」「インフィニティコロッケそば」など、目を疑うようなクリエイティブの残滓がそこら中に転がっている。さらにそのレビューが素晴らしい。

〈予備知識なしの目隠し状態であれば、そのまま食べ進められる味ではある。けれども、両者が調和しているとは言い難く、アイスとかつ丼が完全に別居している〉(クーリッシュホイップかつ丼より)。表現力、創造性、そして忖度しないお宝としての価値を求めた美しいレビューは、彼の本業が研鑽を積んだライターであることを物語る。

しかし、彼の主戦場は企業パンフレットや公的機関の出版物であり、富士そばを仕事にはしていない。なぜならこの富士そば登山にまつわるすべての行動は、富士そば非公認。いわば未報酬の完全趣味なのである。

「いや…意図して仕事にしていないわけじゃないんですけど…仕事にならないんですよ。富士そばの、しかも珍そばですからね。狭すぎました。ならばこれで食うためにと富士そばに取り入って公式寄りになればとも言われるのですが、僕は珍そばに正直でありたい。仲良くしていただける店の方はいますが、一線は越えないように気を付けています。『ダメなものはダメ』としっかりレビューできなければ、僕の存在価値はありません。ただ10年以上やっていると、どんなことでも認められてくるんですね。最近ではテレビや雑誌などから『話を聞かせてほしい』と仕事が少しですけど入ってくるようになった。1回特集すれば十分なので、それ以上は広がらないのですけど」_(中編へ続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」3月19日号より

配信元: 週刊実話WEB

あなたにおすすめ