「エネルギーについて、本気で考えるようになりました」
村やスキー場が再生可能エネルギーに目を向けたきっかけの一つは、2011年の東日本大震災だった。

「エネルギーについて、本気で考えるようになりました」
上野村長がこう振り返る。
「電気は当たり前にあるものではない。自分たちの地域のエネルギーをどうするのか、生産や使い方、エネルギーの在り方を真剣に考えなければいけないと、村と行政が向き合って検討を始めたんです。
果たしてどこまで自然エネルギーを活用できるか、研究を重ねました。
そして、2011年に策定したのが『野沢温泉新エネルギービジョン』。いまは、その計画に沿って、さまざまな取り組みが進んでいるという状況です」
この「野沢温泉新エネルギービジョン」は、単なる環境保護の計画ではない。エネルギーを自分たちで創り、使うという「自立」へ向けた戦略だ。このビジョンに基づき、村はまず2022年「まくね川小水力発電所」を稼働させた。

この施設は村の直営事業として年間約2000万円前後の売電収益を上げている。その売上は発電施設の維持管理や上下水道インフラ整備に充てられているのだ。
上野村長はこうも語った。
「水力発電所や小・中学校への太陽光パネルの設置などは、ビジョンにあらかじめ盛り込まれていたものです。その他、まだ取り組みまでできていませんが、温泉熱の利用やバイオマス、雪室など、あらゆる可能性が新エネルギービジョンには盛り込まれています。
自然に支えられて暮らしや観光をしてきた村だからこそ、環境に対して責任ある行動をとらなければならないという思いはあります」
一方で、雪の降り方が、昔と同じではないという実感もある。
河野氏が言うには
「気象庁のデータによれば、40年前の野沢温泉と比べて平均降雪量が4m減っているんですね。10年で1m減っていて、数値上でいくと90年後には雪が降らなくなるだろうという計算になってしまう……。
一晩で80cmも降るドカ雪や、厳冬期の雨といった極端な気象が、もはや非日常ではなくなりつつある現状です。

そのような状況下で、そこに対して歯止めをかけるようなアクションを村全体でやっていくというのは、非常に重要なことだと思います」
だからこそ、行動する必要があったのだ。
プロジェクトを阻む、2つの巨大な壁
前述したまくね川小水力発電所が利益を重視したのに対して、本沢小水力発電所は全量自家消費という道を選んだ。その選択の背後には村職員がオーストリアやスロベニアでの視察で感じた危機感があったという。
国外の環境意識の高さと日本の現状の乖離を肌で感じた職員は、インバウンドのお客が増えるなかで、日本として、野沢として、何をアピールできるのかを考えた。
ただ取れるだけ水を取り、それをお金に変えるのではなく、必要な量を、川の生態系を守りながら使わせてもらう。
その姿勢を見せるためには、全量自家消費が必須だった。

「最初から売電は考えていませんでした。自分たちで使う電気を自分たちでつくる。それが一番だと思ったんです。
この取り組みは、野沢温泉スキー場も自然エネルギーを活用して環境に配慮しているというプロモーションや、お客さんの〝クリーンなスキー場を選ぼう“という意識改革、村民の啓発、さらには他のスキー場への働きかけにもつながればいい、そう考えたのです」
上野村長のこの言葉は、この発電所の本質を端的に表しているだろう。
しかし、事はそう簡単には運ばなかった。このプロジェクトを実現するにあたって、前例のない法的や技術的な課題を乗り越える必要があったのだ。
ひとつは電気事業法と自営線。発電所からスキー場の長坂センターハウスまでの距離は約200m。当初は簡単に電線を引けると考えていたが、隣接しない場所に電気を送るには「電気事業者(電力会社)」としての資格が必要になるという極めて高いハードルが待ち構えていた。
これを解決したのは、野沢温泉特有の運営形態だ。
スキー場の運営は民間だが、施設の所有は村という形態をとっている。したがって電気を作るのも、使うのも野沢温泉村であるという解釈が成立。埋設ルートがすべて村有地であったことも重なり、奇跡的に自営線の敷設が可能になったのだ。
もうひとつは、商業施設へのオンタイム給電という難問。ユーザーが利用する商業施設に、水力発電の電力をリアルタイムで供給するケースは、世界的に見てもほとんど例がない。
営業中にエレベーターが停まったら大問題だ。電気の供給を完全に担保するソフトウェアプログラムの構築は極めて難しいという。
プロジェクトを担ったプログラマーたちは、スキー場職員が帰宅した後のセンターハウスで、短い時間でマニアックな試験を何度も繰り返した。納期が迫るなかで奮闘した日々が、この発電所の心臓部を作ったのだ。
