自然エネルギー利用を受け継ぎ、伝える
本沢の小水力発電の様子は、ゴンドラ乗り場にサイネージ(電光掲示)が設置されていて、小学生でもわかりやすく、しかも自動でリアルタイムで、どのくらい発電して循環しているかが見えるようになっている。

「見てもらうことが大事だと思いました。自分の滑っている場所が、どうやって支えられているのかを」
そう語る高澤氏。
このサイネージ、実は当初はもっとちいさなものだった。しかし、できるだけ大きいほうが見やすくアピール効果も高い。やれることの限界まで挑戦しよう、と村の職員とスキー場の関係者の思いがひとつになり、スキー場も資金をバックアップすることで、このような大型サイズになった。
そしてもうひとつ、必見なのが新長坂ゴンドラに乗ると右手に見えてくる水車の発電所。

「発電所が建てられたこの場所は、実はその昔、ここに住んでいた方が建屋をこしらえ、川で魚を突いたり、水力で水車を回して水力発電を行っていたという古き歴史のある場所なんです。
時が流れて、いま同じ場所で、同じように水力を使って、これだけ大きな施設を動かすだけの発電ができてるというのは、すごく意味があって、感慨深いなって……。そんなことも知ってもらえたら嬉しいですね。
あと、発電施設にあえて英語で「HYDROELECTRIC POWER」と書いたんです。よく目立っていて、わかりやすくていいでしょう?
この村も国際化が進むなか、海外のゲストたちにも野沢温泉のサステナブルな取り組みを知ってもらえるきっかけになればいいなと思います」
と上野村長は語る。
人気を博するTVドキュメント番組「プロジェクトX」さながらの、妥協なき情熱の結晶が生んだ、本沢小水力発電所。時代を超えたロマンが、開拓者たちの物語が、ここにはある。
未来は、自分たちの手のなかに
2025年5月23日に開催された本沢小水力発電所の竣工式には、野沢温泉中学校生たちも参列した。その姿に高澤氏はとても感銘を受けたという。

「村の未来を支える世代に、自分たちの村は自分たちで守るんだという想い、あるいは自分たちのものは自分たちで賄うという将来を考えるきっかけになったのでは、と思ったからです。
スキー場はもう103年目になるんですけど、やっぱり先輩たちが作ってくれたスキー場をこの先も守っていかなくちゃいけない。
もちろん100%再生可能エネルギーのスキー場というのは理想として目指していきたいですが、一方でスキー場というのは圧雪車であったり、雪を作るために水を多く使ったり、どうしても矛盾を抱えています。そういった点をすこしでも解消していって、スキー場のこれからをみんなで守っていきたい。そう思っています」

「野沢温泉は先人たちが繋いできた長い歴史があり、スキー場も100年以上。温泉と雪というところで、自然の資源にほぼ100%支えてもらって暮らしや観光をしている地域ですから、水はなくてはならない大切なもの。今度は水が電気を作るということで、ひとつまた自然資源の恩恵を受ける新たな価値が加わった。
すこし時間はかかるとは思うのですが、村民の自然環境に対しての意識はもっともっと高まっていくと思います。その高い意識は、野沢温泉に来てくれるお客さまにも徐々に浸透していくのではないかと期待しています」
と河野氏。
野沢温泉が官民一体となって進める取り組みは、村全体の価値観をも変えつつある。
村役場へは小さな民宿のオーナーから『うちでも太陽光をつけられないか』『断熱の補助はないか』という相談が圧倒的に増えたという。
来てもらうユーザーに環境に取り組む姿勢を見せたいという信念が生まれつつある。
上野村長はこう締めくくった。

「新しい取り組みは大変なことばかりだと思うのですが、これは他の自治体でもきっとできることだと思います。我々は先陣を切って挑戦してきて、いろんなハードルを乗り越えて経験が積み上がってきているので、こういうノウハウは自分たちだけで抱えるのではなくて、外にどんどん情報発信して、ぜひ有効に使っていただきたい。
我々だけが取り組んでも地球が簡単に変わるわけではないので、この輪をどんどん広げていきたいんです。スキー場の皆さんが足並みを揃えて取り組みをさらに推進していけたらと思うので、皆さん、ぜひよろしくお願いします!」
雪の村は、水で未来をつくり始めている。
それは足元を流れる沢の水に託した、村の覚悟。115年前から続く開拓者精神のアップデートであり、次世代に向けた責任ある選択だ。
その選択は、確かな循環となって未来へと続いていく。
野沢温泉の未来への挑戦は、まだ始まったばかりだ。

左:高澤公治 1974年生。1995年にスキーノルディックスキー複合の選手としてW杯にデビュー。1999年には第77回全日本スキー選手権大会ノルディック複合で優勝を果たす。現在は株式会社野沢温泉スキー場取締役員を務める。
中:上野雄大 1981年生。現役時代はスキークロス、ハーフパイプの選手として活躍。一戦を退いた後は、野沢温泉にフリースタイルスキーと自転車の専門店「COMPASS HOUSE」を開き、アクティビティの普及を進める。2025年からは野沢温泉村村長に就任した。
右:河野健児 1983年生。スキークロスのワールドカップ選手として12年間に渡り世界を転戦。XーGamesにも二度出場経験あり。現在はスキーブランドvectorglideをハンドリングしながら、野沢温泉内にて、宿泊施設や飲食店を運営しながら季節を問わず魅力を発信し続けている。
Information
野沢温泉スキー場
長野県下高井郡野沢温泉村大字豊郷7653番地
公式サイト:https://nozawaski.com/
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POW Japan
公式サイト:https://protectourwinters.jp/
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Edit by Chise Nakagawa
Special Thanks by POW Japan
