「セラピー的な意味もあったのではないか」
━━映画では出演した方の顔にモザイクをかけるのではなく、AIを使って映像を加工し、驚くほどリアルに表情を見せている場面もありますが、なぜAIを使ったのでしょうか?
ハートマン 最初、この作品は日本で上映はしないという約束を出演者の人たちと交わしていました。ですが今回、日本で上映するのに、あらためて承諾を得るためにAIでディープフェイク加工するなどにしたのです。
森 ホンモノと思われるほどの出来になっていることから注目を集めることにはなっていますが、AIは最初から使おうと考えていたわけではなくて、日本で上映するためのものです。
語り手の心理描写に重心を置いている映画であり、表情を伝えるためのものですが、逆にAIゆえの不自然さから顔や声はフェイクだと気づいてもらうようにもしています。
━━夜逃げ屋を含め、出演する彼らにリスクはあってもメリットはないだろうに、どうして出演されたとお考えですか?
森 もちろんリスクがゼロではない。でも、承諾してくれたのは、自分自身のバックグラウンドについて近しい人には言いにくい反面、海外のカメラということで話しやすいので、誰にも話せなかった自身の物語を話すことに、セラピー的な意味もあったのではないか。
実際、何人かの人たちから出てよかったと言ってもらっています。
━━取材や出演交渉の過程で断られたことは?
ハートマン もちろんあります。なかには撮り終わってから使わないでくれと言われたこともあり、そうしたものは使っていません。
━━「夜逃げ屋」の女性経営者ヒロタさん(仮名)がなぜこの仕事を選んだんだろうかなど、蒸発者以外の登場人物にもとても興味を惹かれました。
ハートマン この映画の主題はやはり蒸発した人を追うもので、映画の世界に没入してもらうためそれ以外の人の説明は可能なかぎり省きました。
結果的に、それがサスペンス的なものとして受け止められる要素になっているかもしれないですし、知りたいと思っていただけたのならよかった。
森 日本では「蒸発」という言葉自体は知られていても、身近な問題として意識されることは多くなかったと思います。
この映画の主題はそうした蒸発した人のその後を追うものであり、観た人が自身の内面を見つめ直すきっかけになればと願っています。
取材・文/朝山実

