
100作品を超える著作で、さまざまな物語をつむぐ国民的小説家・東野圭吾。その作品の多くが映像化されて人気を博し、2026年1月には初のアニメ化作品となる映画「クスノキの番人」が劇場公開となった。そんな中、3月15日(日)夜9:30からJテレでは、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」が放送される。「東野圭吾史上、最も泣ける感動作」ともいわれた物語を、主演の山田涼介(Hey! Say! JUMP)や亡き名優・西田敏行が体現。東野の得意とするミステリーの特有の緊張感が苦手な人にも入りやすい、その優しい世界の魅力に迫る。
■過去と今が“手紙”でつながる感動のファンタジー
1985年に「第31回江戸川乱歩賞」を受賞した「放課後」で小説家デビューした東野。加賀恭一郎シリーズやガリレオシリーズなどに代表されるように、ミステリー・サスペンス小説において第一人者として知られる。その中で少し異彩を放つのがファンタジーの世界観で描かれた「ナミヤ雑貨店の奇蹟」だ。
2012年の刊行後、泣ける感動作として大ヒットし、2017年に映画化。名匠・廣木隆一監督がメガホンをとり、山田が主演、西田、尾野真千子、村上虹郎、寛 一 郎、林遣都、成海璃子、門脇麦らが出演した。
幼なじみの翔太(村上)、幸平(寛 一 郎)と一緒に悪事を働いた主人公・敦也(山田)が、車の故障により忍び込んだ古い家。そこはかつて浪矢雄治(西田)が営んでいたナミヤ雑貨店だった。廃業し、住まなくなってからしばらく年月がたっていると思われる室内で夜が明けるのを待とうとした敦也たちだったが、突然、店のシャッターの郵便口に手紙が投げ込まれる。驚いて敦也が外に確認に出るが、人の姿はなく、街は静まり返っていた。
残されていた雑誌に浪矢が店を営むかたわら、悩み相談の手紙を受け付けている記事があり、届いた手紙もそうだった。届いた手紙に書かれていた出来事から探ると、相談者が生きている時代は32年前。敦也たちは時を超えた手紙のやりとりを始める。

■映画ならではのファンタジー描写
主人公たちが生きているのは2012年。携帯電話で分からないことは調べられ、最初の差出人である“魚屋ミュージシャン”こと松岡克郎(林)の「昨日ジョン・レノンが死にました」もすぐに検索する。ただ、もちろん現実的に信じられず、誰かに見つかる警戒心から敦也が先導して逃げ出す。
真っ暗だった商店街の街灯や各店の灯りがともっていく中、走っても走っても同じ道をぐるぐるするばかり。それに気付いて立ち止まったとき、目の前に路面電車が迫るがそのまま体をすり抜けていった。原作にはない、映画ならではの路面電車の描写が、見る者をファンタジーの世界へと一気に誘う。

■伏線回収の見事さが胸に沁みる
手紙のやりとりをすることになるのは、「相談にのってみたい」という幸平の好奇心から。携帯電話が手放せない世代が初めて自筆で書く手紙。その返事を入れるのは、浪矢がそうしていたように店横にある、配達された牛乳を受け取るための牛乳箱だ。ノスタルジックなアイテムが時代をさかのぼらせる。
タイムスリップものでは、人が時代を行き来することが多い。だが、本作では手紙だけが時空を超え、敦也たちが浪矢や相談者と直接顔を合わせることはない。敦也たちが相談に返信するパート、相談者たちのパート、そして浪矢のパートが重なり合って物語が進む。そうするうちに、ある共通点が浮かび上がってくる。
加賀恭一郎シリーズなど探偵や刑事が探索、捜査して犯人のトリックを暴き、ガリレオシリーズでは科学的トリックを駆使する面白さがある。そして、殺人などの事件と社会問題が見事に絡み合って描かれるのが東野作品の特徴ともいえる。
本作でも死にまつわるエピソードはあるが、事件ではない。けれども、そこに“奇蹟というトリック”がある。手紙を介して奇蹟でつながった人々。東野作品ではちりばめられた伏線の回収の鮮やかさも人気の理由だが、本作もしかり。
時空を超えた手紙を受け取るのは、敦也たちだけでなく、浪矢にもそのときが訪れる。小学生のたわいない相談に回答したことから始まった悩み相談。その先には、相談者の人生がある。浪矢は、ある相談への回答が本当によいものだったのかと胸につかえていることがあった。それも奇蹟によって知ることができる。そして、敦也たちも自分たちの回答がどうなったかを知る。仕掛けられていた“優しい伏線回収”により、胸にじんわりと温かいものが広がる。

■山田の繊細な演技と、西田の心震わせる名演
豪華な俳優陣が集結し、各エピソードを盛り立てているのも見どころ。その中でも、やはり主人公を演じた山田は出色だ。幼なじみたちのリーダー格で、悪事をしでかすのはある深い事情があったから。罪悪感、そして奇妙な出来事を信じられなかったのだが、次第に向き合っていくという、心の動きを丁寧に見せる。
そして、もう一人、2024年に亡くなった西田。温かな人柄そのままに、街で子どもたちに愛される雑貨店店主。いつしか真剣に悩み相談に応じていく真面目さ。その悩み相談への強い思いから、病に倒れて入院することになるも、店に戻りたいと長男に懇願するときの表情がたまらなく胸に迫る。
またクライマックスのポイントとなるのが、ある人物が出した白紙の手紙への回答。人生の第一歩に優しく背中を押す浪矢の思いを、西田の声の演技がより深く心に刺さるものとする。
2人がけん引した物語。すべてのことが何気なく書き込まれ、一瞬で拡散されてしまうSNS全盛の今、白紙の手紙がもたらす“余韻”に浸ってみてはいかがだろうか。
◆文=ザテレビジョンシネマ部


