
ディズニー&ピクサー最新作「私がビーバーになる時」が、3月13日より日本でも劇場公開されている。もふもふで愛らしいビーバーたちが森を守るために奮闘する物語は、大胆な展開が次々と押し寄せるジェットコースター級の面白さ。それでいて深い余韻と温かさを残すなど、大人も子どもも動物たちの視点になって森へと足を踏み入れ、大冒険できる1作として完成している。(以下、ネタバレを含みます)
■まん丸でむっちり、もふもふを堪能!
本作の主人公となるのは、動物が大好きなメイベル。幼い頃おばあちゃんと森で過ごし、自然や動物たちと深いつながりを感じている。おばあちゃんから、「森で目を凝らし、耳を澄ますこと」の大切さを教えてもらうメイベル――。そんな映画冒頭のシーンから、この作品が特別な魅力を秘めていることが伝わってくる。
風に揺れる木々、静かな森に響く鳥の羽音や鹿の足音。蜘蛛は足を伸ばしながら巣を紡ぎ、鴨は水面を優雅に滑っていく。その一つ一つがハッとするほど美しく、見る者を一瞬で森の世界へと引き込んでいく。
大学生になったメイベルは、人間たちによる高速道路の建設によって、自身の思い出の場所であり、動物たちのすみかである森が破壊される脅威に直面する。そこで彼女が取った行動は、大学で生物学を教えているサム博士が研究を進めている“特殊な装置”を使い、本物そっくりの動物ロボットに意識を転送してビーバーに変身する、という奇想天外なもの。川にダムを作ることができるビーバーを森に連れ戻すことができたら、生態系が回復し、いなくなった動物たちが帰ってくるはずだと考えたのだ。
ビーバーになったメイベルが出会うのは、“優し過ぎる”哺乳類の王様であるビーバーのキング・ジョージ、のんびり屋の癒やし系ビーバー・ローフといった仲間たち。もふもふの毛並みや、まん丸のフォルムも愛らしく、短い手足を一生懸命に動かしたり、トコトコと歩く様子など、彼らを見ていると「ビーバーって、なんてかわいいんだ」と口角が上がりっぱなしになる。
触れてみたくなるような毛の細部まで表現する一方、つぶらな瞳やとぼけた表情などアニメだからこそ描ける描写もふんだんに込められている。メイベルの躍動感、ジョージの包容力、ローフの眠たそうな目元、すべてがキュート。リアリティーとデフォルメのバランスが秀逸で、チームになっていく彼らの一挙手一投足から目が離せない。
■ハチャメチャ&規格外のアクションがさく裂
メイベルが本物そっくりのビーバーに変身してからは、観客もビーバーの視点で動物や自然を見つめていくことになる。これまでもあらゆる“もしも”の世界を描いてきたピクサーだが、観客を魅了してきた“もしも”の物語に、新たな傑作が加わったというわけだ。
ビーバーになったメイベルは、動物たちの言葉も理解できるようになり、彼らのあらゆる会話や行動を目の当たりにしていく。森の危機に際し、“動物大評議会”が開かれる場面では、魚、鳥、爬虫類、蝶や虫など、インパクト&クセだらけの動物たちが一斉に集合。やんややんやと議論を繰り広げ、「もしかしたら、夜の森で本当にこんなことが行われているのかも」と考えるだけでワクワクが止まらない。
そして未知なる動物の世界が舞台とあって、最高のハチャメチャ度に太鼓判を押したくなるほど、次々と予想外の展開で観客を驚かせてくれるのが本作の大きな見どころだ。鳥の背に乗って高く舞い上がったり、大蛇と出会ったり、激流に飲み込まれたりと、メイベルを待ち受けているのは息つく暇もないピンチの連続。ついには巨大なサメやクマまでもが入り乱れたカーチェイスがさく裂するなど、「おおー!」と目を丸くしながらドキドキハラハラするアクションを楽しむことができる。
監督を務めたのは、ピクサーで長年映画作りに携わってきたダニエル・チョン。彼があちこちに仕掛けたギャグと規格外のアクションはジェットコースター級の緩急で物語を駆け抜け、観客の心を軽やかに揺さぶっていく。104分の上映時間があっという間に感じるほど夢中になれる本作だが、ローフの日本語吹替版を務めたKis-My-Ft2の宮田俊哉は、完成した映像を見ながら笑い声を上げたことを告白。「ピクサー史上No.1のハチャメチャ映画と言っても過言ではない」とプッシュしていたのも、印象的だ。

■今の時代にこそ響く大切なメッセージ
メイベルの敵となるのが、高速道路建設計画を進めながら再選を目指しているジェリー市長だ。顔を突き合わせると言い合いをしているメイベルとジェリー市長だが、ハチャメチャ展開の中ではジェリー市長も思いがけない出来事に見舞われ、次第に彼らの関係性にも変化が生まれていく。
またメイベルは同じ目線で動物たちと触れ合っていくうちに、彼らの意見や立場を理解していく。そこから浮かび上がるのは、人間も動物もみんな一緒に生きているという壮大なメッセージだ。笑いやスリルをたくさん与えてくれながらも、深いメッセージが映画全体に染み渡っているのが本作のまたすごいところ。
相手の立場になり、違う視点で世界を見つめてみる。そうやって共に生きる道を探そうとしていく本作の登場人物たちの姿は、今の時代にこそ響いてくるはず。ピクサーでは、長い時間をかけ、濃厚な話し合いを重ねながらストーリー作りに励んでいくという。そんなピクサー作品の力強さを、本作でもあらためて実感することができるだろう。
みんなが一緒に生きていることをかみ締めると、冒頭で感じた森の美しさはより尊いものとして立ち上がってくる。メイベル役の芳根京子、キング・ジョージ役の小手伸也、ローフ役の宮田、ジェリー市長役の渡部篤郎ら日本語吹替版を担当したメンバーのキャラクターへのハマり具合もバッチリ。ストーリーに没入して、思い切り森へと飛び込むことができる。
「私がビーバーになる時」は全国公開中。ディズニー&ピクサー過去作はディズニープラスで配信中。
◆文=成田おり枝

