
そんななか3月8日、新宿バルト9にて舞台挨拶が開催。沖浦監督とキャラクターデザイン・作画監督を務めた西尾鉄也、主人公である伏一貴の声を務めた藤木義勝が登壇。25周年を迎えた現在もカルト的な人気を集めていることへの感謝とともに、当時な貴重な制作秘話を語り合った。
本作の舞台は強引な経済政策によって失業者と凶悪犯罪が急増した首都・東京。政府は反政府勢力の掌握のために“首都警”と呼ばれる治安部隊を設置。地下組織としての道を辿る反政府勢力と市街戦を繰り返していた。そんななか、首都警の一員である伏一貴は、潜伏する地下組織の追跡で衝撃的な事件に遭遇。それをきっかけに、彼自身の“内なる世界”に変化が芽生えはじめていく。
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「VHSやレーザーディスク、DVD、Blu-rayと発売されてきて、それらを持っている方が『同じだったね』となると寂しいし、どう違うかを比べる楽しみが少しほしいと思い、いままでよりも繊細感はあげつつもフィルムグレイン(フィルムで撮影したような粒子状の質感)をやや残しました」と、今回の4Kリマスター化のポイントを語る沖浦監督。より精細な映像になったことで、これまでわからなかった色の間違いなどに気づき修正した箇所もあるのだとか。
一方、「警備部 特殊機甲大隊 第2中隊 第3突入小隊所属 前衛隊員、伏一貴巡査役の藤木です」と挨拶した藤木は、キャスティングされた当時のエピソードを披露。本作で原作と脚本を務めた押井守がメガホンをとった『ケルベロス 地獄の番犬』(91)に出演していたことがきっかけで白羽の矢が立てられた藤木。「テストをやってもらったのですが、開口一番に『滑舌がね…』と言われたので、こりゃダメだと思いました(笑)」と振り返り、会場は大きな笑いに包まれる。

続けて制作時に大変だったことを訊かれた沖浦監督は、「いまみたいにちょっと調べれば情報が出てくる時代ではなかったので、資料をがんばって探さないといけない。作中と同じ昭和30年代のものは見つからなかったのですが、昭和40年ごろに発売された雑誌などを読んで当時の世の中がどうだったのかを確認しました」と回想。それには西尾も「調べ物をしないと何一つ描けなかった。足りない時には古い映画を観たり、そのうえドイツの銃がどうこうと押井さんのミリタリー趣味も入ってきて…」と深く頷く。
藤木はすべてのシーンが大変だったと語りつつ、「歯が折れた」と噂されるラストシーンについて言及。実際に歯ぎしりの音を収録するうえで、歯が欠けてしまったと告白する藤木は「収録時には過呼吸のような状態になってしまいました。そこから絞り出した苦悶の声だったのですが、終わった後にブースからスタッフの方が飛びだしてきて『歯が欠けたでしょう』と心配され、照れくさかったので『大丈夫です』と答えました」と説明。沖浦監督は「突然、藤木さんに神が降りてきたような気がしました」とその迫真の演技を絶賛。

さらに沖浦監督は、“リアル志向”の作風について「当時はアニメで実写みたいな作品をつくる意味があるのかと言われていたし、制作側としても葛藤はあった」と述懐。「でも『人狼』のような作品の場合、実写でやるには全部CGでやるか街並みのセットを組まないと撮影ができなかった。だから本当はアニメでしか作ることができなかったんです」と説明。西尾も「アニメーターのなかにも疑問視する人がいたのですが、自分としては一つの理想に向かってフィルムをつくる楽しさが勝っていた。このリアルさを突き詰めてみようじゃないかと思ってやっていました」と、当時の心境を振り返った。
最後にファンへ向けて、「『人狼』のディスクが出るのもこれで終わりでしょうから、観賞用、保存用、布教用といっぱい買っていただければと思います」と茶目っ気たっぷりに呼びかける西尾。藤木は「今後とも『人狼』をよろしくお願いいたします」と述べ、沖浦監督は「今日初めてご覧になった方は何回か観てもらう機会があればうれしいですし、いままで支えてくださった方にはひときわ感謝したいです」とあらためて感謝を伝えていた。

またこのたび、公開25周年と4K化を祝し、沖浦監督や西尾のほか、押井や演出の神山健治らメインスタッフ陣、ならびに本作のファンだという漫画家の藤本タツキからお祝いコメント/イラストが到着。四半世紀経った現在も熱烈に支持される伝説のアニメ映画を、この機会に目撃してみてはいかがだろうか。
■『人狼 JIN-ROH』公開25周年&4K化お祝いコメント/イラスト
●沖浦啓之(監督)

●押井守(原作・脚本)
「久々に観た『人狼』。さすがにリニューアルされた4K版は映像も音響もすばらしかったのですが、なにより昨今の日本映画では滅多にお目にかかれなくなった『政治と恋愛の葛藤』という古典的なドラマが涙腺に刺さりました。かつてはこういう男が生きて、こういう女と巡り合い時代の荒波に翻弄されていた―そんな時代もあったのです。脱イデオロギーの現在に真っ向から逆らう物語。そんな物語がアニメとして復活したとはなんとも皮肉な話ではあります。アニメファンならずとも、一度はご覧あれ」
●神山健治(演出)
「『アニメ映画の良さはアニメーションがいかにすばらしいかで決まる』という事実をあらためて知らしめてくれるすばらしい出来栄えだ。制作当時、絵を描くことに携わったスタッフの信念が余すことなく収められている。
オリジナル版は映像として物語の時代性を表現すべくフィルター処理が強くかかっていたが、4Kリマスター版は手描きの絵が持つ凄みが明確に伝わるようなカラーグレーディングが施されさている。いまではなかなか実現することができなくなった、劇中のすべての事象を手描きのアニメーションで表現するという試みにただただ圧倒されてしまう」
●西尾鉄也(キャラクターデザイン)

●井上俊之(副作画監督)
「4Kリマスターには不安がありましたが、まったく違和感なくそれでいて見やすくなっていてスタッフとして大変うれしいです。それにしても『よく描いてるなあ!』いや『描かされてるなあ(苦笑)』。ぜひこの機会に劇場でご覧ください」
●小倉宏昌(美術監督)
「4Kリマスター試写で映画『人狼 JIN-ROH』を久々に見ました。この作品で描いている街や古い住宅街の風景は、私が子どもの頃生活していた町の記憶を頼りに描写した部分が多く、懐かしく感じたりしました。夜も商店などあまり多くはなく街灯も少なく、路地の暗さが思い出されるそんな自己体験をぶつけた作品です。ですが、地下下水道に入ったことはありません。昔の街の匂いのようなものを、この作品で感じてもらえたらありがたいです」
●溝口肇(音楽)
「『人狼』の音楽制作に携わったのは、もう四半世紀以上前のことになります。あの頃、アニメーションはまさに手描きの最後の時代。一枚一枚に魂を込めるスタッフの執念が、あの圧倒的な映像の密度を生み出しました。音楽もまた、アナログからデジタルへと移り変わる過渡期のまっただなかにありました。制作には膨大な時間を要しましたが、その一つ一つの思案や試行錯誤こそが作品への情熱となり、音楽の深みとなって刻まれたと感じています。海外オーケストラとのレコーディングで追い求めた響きは、この物語の持つ孤独と哀切を余すところなく描き出せたのではないかと自負しています。手間と時間を惜しまなかった時代の熱がそのまま封じ込められた本作が、(4K UHD)Blu-rayという最良の器で蘇ることを心からうれしく思います。どうかその画と音の隅々まで、味わっていただければ幸いです」
●若林和弘(音響監督)
「公開からはや25年…。このような機会をいただけるとはなんと幸せなことでしょう。それも当時与えられた環境の中で最大限の努力を映像・音響ともに歩んできた結果が、このリマスター作業と再びの公開へと繋がったものと感じております。今回のドルビーアトモス作業ではオリジナルの演出を変える事のない範囲で、当時のシステム上表現しきれなかった部分を描くように務めました。冒頭や後半部で出てくる地下下水坑での反響感、突機隊の打つMGの重厚・音圧感をオリジナルより広げ・強くしております。僅かですがね。その他にも見直していただければ、地道な変化しかしておりませんが損はさせない仕上がりになっていると思います。それでは最後までお楽しみくださいませ!」
●藤本タツキ(漫画家)
「畳に寄りかかる、滑り台を滑る人間の重さ、セル画特有の色合い、人体のリアリティどれをとっても一流の技術が詰まったすばらしい作品です。反政府勢力と警察の戦いという重厚なストーリーのなかに、妙にリアルでポップな恋愛模様が描かれていてそれが大好きです。ひとつの童話を中心に話を進めていく感じ、そのまま『チェンソーマン』の『レゼ篇』でパクりました。申し訳ございませんでした!!」
文/久保田 和馬
