薬物の怖さについてはあらためて述べるまでもないが、例え「医薬品」として売られているものであっても海外のモノは注意が必要なようだ…。
「もう10年近く前の話になりますが…」
そう前置きをして、自身のつらい体験を語ってくれたのは、和歌山県在住IT系会社員・村井智彦さん(仮名・52歳)。
彼は30代半ばから薄毛に悩んでおり、国内で販売されている育毛や増毛剤の類は片っ端から試していたが、残念ながら効果は感じられなかった。
「これはもう医療の力を借りるしかないと思って専門のクリニックにも行ってみたんですが、ざっくり言うと人並みの毛量にするのに何百万とかかるんですよ。僕は普通のサラリーマンですし、子どもも小さかったので現実的ではないと諦めました」
とはいえ、髪の悩みがなくなったわけではない。そんな村井さんに中国へ出張していた同僚が「現地では知る人ぞ知る」という「増毛・育毛剤」をお土産に買って来てくれた。
「木箱に入っていて、いかにも希少な品物という感じでした。漢方由来のものだそうで、中国語の説明書には実際に髪の毛がふさふさになった人の写真や体験談のようなものが載っていました(文章は読めていません)。1カ月分が日本円にして5000円と、僕にも手の届く値段でした」
「騙されたと思って試してみなよ」
そう同僚に言われて村井さんは早速使い始める。
「少々薬草臭さはありましたが、頭皮がすっきりして使用感は悪くなかったです。並行して頭皮マッサージもしていたら、ガチガチだった頭皮の表面がやわらかくなり、毛穴が盛り上がって来たので『これは生えるぞ!』と期待していました」
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不整脈から性機能が減退
ところが、1カ月ほどたった頃から村井さんの身体に異変が生じ始めた。
「動悸や息切れが頻繁に起こるようになりました。ちょうど仕事が繁忙期だったので疲れかな? くらいに思っていたんですが、性欲はあるのに性機能が減退してしまったんです。そんなことが3カ月ほど続き、妻に勧められて内科を受診しました」
診察を受けた結果、村井さんは「不整脈」と診断される。
「健康には自信があったし、不整脈なんて初めて言われたので驚きました。そこで薬剤師さんに増毛剤の話をしたら『それが怪しいです』と言われました。日本ではあまり知られてなかったようですが、中国では増毛剤に使われている薬草の一部が引き起こす健康被害が問題になっていたそうです。
念のため、と思って薬剤師さんに原材料などが明記された説明書を見せ、当該薬草が使われていないことを確認してもらったんですが、『ここに書いてあることはアテになりません』と言われてしまいました」
村井さんの場合は使用期間が1カ月程度と短かったこともあって不整脈程度で済んでいたが、長期にわたって使用を続けると心筋梗塞などを引き起こす可能性もあったという。
「命に関わることにならなかったのは良かったと思いましたが、後遺症は今でも残っています」
その「後遺症」とはEDだそう。
「投薬などの治療法はあるみたいですが、薬の類は怖くて手を出す気にならないです」
2年前「うじうじと髪のことで悩むのはやめよう!」と思い切って丸坊主にしたという村井さん。
「頭の形が良かったみたいで周りからはカッコいい! と言われるようになりました。こんなことなら、最初から坊主にしちゃえば良かったです。見栄を張って変な薬に手を出したために大切なものを失くしてしまいました」
まさに、後悔先立たず…。
取材・文/清水芽々
清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。
