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物忘れが腸内細菌によって加速される:スタンフォード大が見つけた「腸➔脳ルート」

物忘れが腸内細菌によって加速される:スタンフォード大が見つけた「腸➔脳ルート」

物忘れ対策は「脳の外」にもある

物忘れ対策は「脳の外」にもある
物忘れ対策は「脳の外」にもある / 年を取った腸で特定の細菌が増える➔細菌が脂肪酸をばらまく➔その脂肪酸が腸の免疫細胞を刺激して炎症が起きる➔炎症が電話線(迷走神経)を弱らせる➔脳の記憶場所(海馬)に情報が届きにくくなる➔記憶力が落ちる/Credit:Intestinal interoceptive dysfunction drives age-associated cognitive decline

この研究の面白さは、単に原因を突き止めただけではなく、「途中のどこかをいじると流れを止められるかもしれない」と示したところにあります。

実際に研究者は、迷走神経の働きを高める方法や、免疫細胞の炎症を抑える方法を試し、マウスの記憶力を改善させることに成功しています。

例えば、唐辛子に含まれる「カプサイシン」や、腸から分泌される「CCK」「GLP-1」といった分子、またはその分子の働きをマネする薬(リラグルチドなど)を与えると、迷走神経に関わる経路が押し戻され、海馬の反応や記憶力が回復しました。

こうした結果をふまえて研究チームは、「脳の老化は脳の中だけを見ていてもダメで、腸から脳へ届けられる情報も重要だ」と強調しています。

研究チームのクリストフ・タイス氏も、記憶力低下の進み方は固定されたものではなく、体の中で能動的に調節されている可能性があると述べています。

つまり、記憶力を守るためには、脳細胞を直接刺激するだけでなく、「体の内側の情報を脳へ正しく届けること」が有望な手段になるかもしれないというわけです。

ただし、ここで注意しなくてはいけないのは、この研究が「すぐに人の役に立つかどうかはまだ分からない」という点です。

研究者自身も、この結果をそのまま人間に応用するには慎重な態度を取っています。

なぜなら今回の研究はあくまでマウスを使った研究だからです。

人間でも同じように腸内細菌や脂肪酸が記憶に影響を与えるのか、また迷走神経や免疫細胞の仕組みが同じように働くのかは、今後の検証が必要になります。

それでも今回の研究は、「物忘れの原因は脳の中だけとは限らない」という新しい視点を示した点で非常に興味深いものです。

もしこの経路が人でも重要なら、将来は腸内細菌や迷走神経を調整することで、記憶機能の低下を遅らせる新しいアプローチが見えてくるかもしれません。

【専門家向け】「P. goldsteinii」は完全な悪玉菌なのか?

今回の記憶研究で「悪者」として名前が出てきたパラバクテロイデス・ゴールドスタイニーは、腸の中にすむ嫌気性菌(酸素の少ない場所を好む細菌)の一種です。

もともとは2005年にBacteroides goldsteiniiとして報告され、翌2006年にParabacteroides goldsteiniiへ分類し直されました。

今回のNature論文でこの菌が目立ったのは、年を取ったマウスで増えやすく、若いマウスへ移ったあとも記憶課題を悪化させたからです。

ただし、P. goldsteinii は文献全体で見ると、むしろ“役に立つ側”として報告されることがかなり多い菌です。

たとえば2019年のGut論文では、高脂肪食マウスにこの菌を与えると、肥満、炎症、インスリン抵抗性が改善し、腸のバリア機能も良くなりました。

つまり「今回の記憶研究では悪役」でも、「別の病態では助っ人」になっているのです。

ほかにも、ヘリコバクター・ピロリ感染に伴う胃の炎症を和らげたという報告や、母体免疫活性化モデルの自閉スペクトラム症様行動を改善したというマウス研究があります。

さらに2024〜2025年の論文では、大腸炎を軽くした、炎症関連の大腸腫瘍形成を抑えた、乾癬様の皮膚炎症を抑えた、といった結果も出ています。

要するにこの菌は、「記憶だけに効く菌」でも「いつも悪い菌」でもなく、代謝、免疫、腸のバリア、炎症、さらには神経系まで幅広く関わりうる菌として研究されているのです。

では、なぜこんなに評価が割れるのでしょうか。

いちばん自然な見方は、菌種名が同じでも、株(同じ種の中の系統)や宿主の状態が違うと、出してくる分子や体への作用が変わるというものです。

実際、文献には MTS01、AM58-2XD、CCUG 48944、RV-01 など別々の株名が登場しますし、効いている経路も中鎖脂肪酸、胆汁酸、イソ酪酸、外膜小胞などかなり違います。

では、この菌を減少させる手段はあるのでしょうか。

2024年のCell Host & Microbe 論文で、アスピリンが P. goldsteinii の増殖を抑えると報告されています。

ただし、この話も単純ではありません。その研究では、アスピリンで減った P. goldsteinii を補うと、逆に腸の傷みが軽くなったのです。

つまり「減らせばよい」とは限らず、何の病気で、どの場面で、どの代謝産物が問題なのかを見ないと判断できません。

幸い、今回の研究ではP. goldsteiniiよりもP. goldsteiniiが出すゴミ(中鎖脂肪酸)が記憶力低下の原因であることが示されており、もしかしたら新薬開発のヒントもP. goldsteiniiが出すゴミを減らすことにあるのかもしれません。

元論文

Intestinal interoceptive dysfunction drives age-associated cognitive decline
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10191-6

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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