石垣島の中心地、730(ナナサンマル)交差点から市役所通りを歩いていると、クラフトビールや地ビールが並ぶ自販機が目に入ってくる。離島ならではの品揃えに「おっ?」と思いつつ眺めていると、その中に1台だけ明らかに様子がおかしい自販機があった。
紙幣の投入口には赤いテープが貼られ、そこには手書きで「I am broken」の文字。ただの壊れた自販機か……と思っていたのだが、夜にもう一度この場所を通りかかった私(耕平)は、とんでもない光景を目にすることになる。その正体とは……
・壊れた自販機の正体
昼間に見たその自販機は、何台か並ぶ中で異彩な空気を放っていた。そう、まったく「稼働」という生気が感じられないその1台だけが明らかに浮いていた。
その自販機を見てみると、オリオンビールや石垣島のお酒が中心のラインナップだが、なぜかサンプルではなく空き缶と空き瓶が並んでいる。
そして紙幣の投入口には赤いテープが貼られ、そこには手書きで「I am broken」と書かれている。「Cash only」のステッカーも貼ってあるし、「1000円札」の表記もある。なのに、壊れているらしい。
ダメ元で新札の1000円を入れてみたが、やはり受け付けない。吸い込まれもしない。
「まあ、壊れてるんだからしょうがないか」と、その場は素通りした。離島あるあるで、修理が追いつかないのかもしれない……と勝手に納得していた。しかし、この自販機には想像を遥かに超える “正体” が隠されていたのだ。
・自販機が「開いた」
その日の夜21:00過ぎ、再び同じ通りを歩いていると、その場所にネオンサインが光っている。「IT’S A BEAUTIFUL DAY TO START」と書かれたピンク色の光。そしてその真下には、あの “壊れた自販機” が開いていた。
そう、この自販機は「扉」だったのだ。
中をのぞくと、そこにはオシャレな隠れ家BARが広がっていた。お店の名前は『甘党男子』。看板もなければ店名の表記もほぼない。知らなければおそらく辿り着けないであろう、まさに隠れ家である。
店内はわずか7席。レンガ調の壁にはビールやバイクレースのプレートが飾られている。ドラクエのスライムのぬいぐるみが棚の上からこちらを見つめている。狭いのだが、その狭さが逆に「秘密基地感」を演出していて、なんとも居心地がいい。
カウンターの向こうでは、笑顔が眩しいマスターが迎えてくれた。
聞けば、このお店はアルコールとスイーツを融合させた「甘党のためのBAR」だという。ドリンクは1100円、スイーツは900円から。テーブルチャージは500円で、支払いは現金のみという料金設定だ。
なぜこんな変わった入り口にしたのか? マスターに聞くと、面白いエピソードを教えてくれた。もともと東京のフランス料理店で働いていた際、2階にあった「隠れ家バー」の秘密めいた雰囲気に魅了されたことが原点だという。
さらに子供の頃、木の上に秘密基地を作っていたというマスターにとって、このワクワク感をお店で再現するのは自然な流れだった。入り口の自販機は、前オーナーが自販機設置の仕事をしていた縁で譲り受けたもの。それを「隠れ家」演出のダミー扉に活用したとのこと。
そしてこの狭さこそが、実はお店最大の武器というマスターは「うちの売りは、狭い空間で色んなコミュニケーションや出会いが起きること。インバウンドのお客さんも来るんで、外国の方や地元の人、観光客と、普段はできないような話ができるのが一番の売りですかね」と語ってくれた。
わずか7席だからこそ、地元客・観光客・外国人が自然と入り混じり、言葉や文化の壁を越えた交流が生まれる。狭いことを逆手に取った「出会いが生まれるBAR」なのだ。
