
春になると、多くの人を悩ませる「花粉症」。
その主な原因として知られる「スギ」ですが、その祖先がどのような姿をしていたのかは、長い間ほとんど分かっていませんでした。
ところが今回、北海道で見つかった小さな化石が、その歴史を大きく塗り替えることになりました。
北海道大学大学院 理学研究院のグループは、北海道・留萌(るもい)郡に分布する白亜紀中頃(約9000万年前)の地層から、世界最古となるスギ類の化石を発見したと報告しました。
この化石は、新属・新種として「カミキネンスギ(学名:Kamikistrobus primulus)」 と命名されています。
研究の詳細は2026年2月21日に学術誌『Review of Palaeobotany and Palynology』に掲載されました。
目次
- 世界最古のスギ化石は、いかに見つかったか
- 新種のスギは「恵まれた環境」で暮らしていた?
世界最古のスギ化石は、いかに見つかったか
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部現在生きている針葉樹類は、約650種からなる比較的小さなグループで、そのうちヒノキ科には約140種が含まれます。
スギ類はこのヒノキ科に属する一群で、花粉症の原因としてよく知られるスギのほか、スイショウ、ヌマスギなどを含みます。
分子時計による推定では、スギ類は白亜紀中頃の約9000万年前までに出現していたと考えられてきました。

しかし、これまで見つかっていた最古の化石は約7600万年前のもので、最初期のスギ類がどのような姿をしていたのか、どのような環境で暮らしていたのかは分かっていませんでした。
そうした中、研究主任の山田敏弘教授が1999年6月、博士前期課程1年生のときに、北海道・留萌郡にある白亜紀の地層「蝦夷層群」で、球果化石を採集しました。
ところが、山田教授は当時、それが「北海道で初めて採った球果化石」という思い入れが強かったため、内部構造を調べるために切断する決断ができないまま、長年研究室に置かれていました。
しかし2022年、その標本を見つけた大学院生が「容赦なく」化石を切断して内部組織を詳しく調査。
その結果、これがスギ類の新属・新種であることが判明したのです。
さらに、この球果化石は一緒に含まれていたアンモナイト化石から約9000万年前のものと推定され、スギ類の起源を探るうえで極めて重要な発見となりました。
新種のスギは「恵まれた環境」で暮らしていた?
見つかった球果化石は、直径約1センチの球形で、短い軸のまわりに25枚の鱗片が、らせん状に並んでいました。
針葉樹の球果をつくる鱗片は、もともと2枚の葉が癒合してできたもので、その癒合のしかたは分類の重要な手がかりになります。
この化石では、2枚の葉が根元では完全にくっつき、先端では分かれていたことから、スギ類に属することが分かりました。
ただし、現在生きているスギ類にも、これまで知られていた化石にもぴったり一致するものはなく、新属・新種の「カミキネンスギ(学名:Kamikistrobus primulus)」と命名されました。

この化石の鱗片は、盾のような形をした長方形の部分と細い柄を持ち、互いにぎっしり詰まらず、少し隙間をあけて並んでいました。
種子そのものは残っていませんでしたが、鱗片の内側には種子が落ちた跡とみられる2つのくぼみがあり、鱗片を残したまま種子を散布していたと考えられます。
この点は、鱗片が密に集まり、散布時に鱗片が脱落するヌマスギとは異なります。
さらに重要なのは、カミキネンスギが乾燥への適応をまだ持っていなかったことです。
一般に、球果の鱗片が密に集まるのは、種子を乾燥や火災から守るためと考えられています。
約7600万年前になると、そのような密な鱗片を持つスギ類が現れます。
これは、被子植物の拡大によって針葉樹が住みにくい環境へ追いやられ、より乾いた場所に適応していった変化を示している可能性があります。
つまりカミキネンスギは、スギ類がまだ比較的恵まれた環境で繁栄していた時代の姿を伝える、非常に貴重な化石だといえます。
参考文献
世界最古のスギ類の化石を北海道で発見~針葉樹の衰退前夜を垣間見る~
https://www.hokudai.ac.jp/news/2026/03/post-2215.html
元論文
Kamikistrobus primulus gen. et sp. nov., a new taxodioid fossil seed cone from the Upper Cretaceous of Hokkaido, Japan
https://doi.org/10.1016/j.revpalbo.2026.105543
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

