F1中国GPのレースウィークエンドに、中東情勢の悪化を受け、バーレーンGPとサウジアラビアGPの開催中止が発表された。これは以前から予想されていたことだ。
この決定は、各チームにとって財政面と物流面の両方で大きな影響を及ぼす。特にプレシーズンテストの開催地がバーレーンだったため、その時に使った各チームの輸送物資やパドック用機材の一部が、まだ現地に残っている状況だ。そのため影響は深刻。しかし物流の面だけでなく、競技面にも様々な影響が出ている。
■アップデート計画への影響
開催スケジュールの変更は、複数のチームのアップデート計画に影響を与えることになるだろう。カレンダーに変更が及ぶ際には、常に影響は避けられない。しかし今年は例年以上にその影響が大きいと言える。
今季のF1は新レギュレーションの導入1年目。そのためシーズンを通して各チームが積極的にアップデートパーツを投入するはずであり、そのための計画を慎重に立てる必要がある。
この状況を特に複雑にしている要因はふたつある。
一部のチームは、シーズン序盤のヨーロッパ圏外でのレースに向けて、既に新しいパーツを用意していた。一方で他のチームの中には、最初の数レースは静観して状況を把握することに務めると決めていた。今季はパワーユニット(PU)のレギュレーションも変更されたので、その理解を深め、エネルギーマネジメントの最適化を探ることが、特に重要であるのだ。
「PUの性能を最大限に引き出すことに集中していて、マシン自体についてはまだあまり話し合えていないかもしれない」
マクラーレンのオスカー・ピアストリは、中国GPの際にそんなことを語っていた。
PUへの注力に加え、予算上限があることはアップデート計画における足枷となっている。無駄に予算を費やすことを避けるべく、各チームはアップデート計画を綿密に立てる必要があるのだ。
アルピーヌのマネージングディレクターであるスティーブ・ニールセンは、新パーツ導入に伴う輸送コストも、重要な要素になっていると説明した。
「輸送コストも、全てが予算上限に含まれる。5年前はそんなことは気にしていなかったが、パドックに入って置いてある段ボール箱も、ここに運んでくるのに費用がかかっているんだ。それも全て支出の一部なんだ。こういう費用を軽視すると、あっという間に予算を使い果たしてしまう」
つまりチームは、パフォーマンス向上のためにアップデートパーツをできる限り早く実戦投入し、しかもそのためのコストをできるだけ抑えるということのバランスを取らねばならない。
「バランスが重要なんだ。ダウンフォースが20ポイント向上するなら、もちろん試すだろう。でも僅かな向上なら試さないかもしれない」
そうニールセンは付け加えた。
バーレーンGPの中止は、その点で特に大きな意味を持つ。中東に位置するバーレーンは、アップデートを投入する上で絶好のグランプリであった。各チームともプレシーズンテストで十分な周回を重ねたため、既に豊富なデータを手にしている。そのデータと比較することで、新パーツを適切に評価することができる。シミュレーターだけに頼る必要がなくなるわけだ。
しかし、今やその選択肢は消え去ってしまった。
中東のレースで投入することが予定されていたアップデートは、マイアミGPもしくはカナダGPのいずれかのイベントに延期しなければいけない。しかしその一方で、ファクトリーで開発を行なう時間が増えるという福音もある。複数のチーム代表の話を総合すると、全てのチームがこの時間を享受できるようだ。
■ADUOシステム:ホンダがアップデートの機会を得られるのはいつか?
ふたつ目の要素は、今年のテクニカルレギュレーション、特に内燃エンジンに関する規定に盛り込まれたセーフティネットだ。追加の開発・アップグレード機会(ADUO)制度は、他よりも後れを取っているメーカーに、内燃機関(ICE)の開発を他よりも優先的に進める機会を与えるモノだ。
当初の構想では、ICEの純粋なパワーは6レースごとに測定されることになっていた。最も強力なメーカーと比較して2%から4%遅れているメーカーには1回の追加アップグレード機会が与えられる。さらに4%以上遅れている場合には、2回の追加アップグレードが認められる。
そしてホンダは後者のカテゴリーに該当していると見られていて、実際にアストンマーティンのエイドリアン・ニューウェイ代表はパワー面で大きな進歩を必要としていると示唆していた。しかし、中東2戦が中止となったことで、その機会が何時になるのか、という問題が生じている。
理論上、FIAにはいくつかの選択肢があり、水面下で議論が続いている。もし6レースのサイクルを厳格に維持する場合、最初のアップグレード機会は(当初第6戦だった)マイアミGPから、モナコGP後へと移ることになる。ただ、今シーズン最初のアメリカ大陸戦のタイミングを最初の機会として維持する案も検討されているようだ。
Motorsport.comの取材に対し、FIAは現在さまざまな解決策を検討中であると回答している。そしてひとつの案は、全22戦となった新カレンダーを可能な限り均等に4つの区間に分割することであり、特定のレースではなくカレンダー日付に基づいて実施する可能性がある。もうひとつの案は、6レースサイクルを維持しつつ、最初の区間のみ短縮するというものだ。
この点について、FIAはすべての関係者と提案について協議する意向であり、中国GPと日本GPの間が、この問題の最終決定を下すための適切な時期と捉えている。
■エンジン圧縮比の問題はどうなる? メルセデスへの影響
さらに考えられる影響は、2026年シーズンの開幕前から議論の的となってきたエンジンの圧縮比に関するものだ。この問題は、メルセデスが常温での静的テストではレギュレーションの16:1の圧縮比上限を満たしつつ、実際の走行でより高温となった時にはそれ以上の比率を実現し、アドバンテージを得ていると疑われたことを発端とするものだ。
圧縮比問題自体は既に妥協案が結ばれている。6月1日以降、エンジン温度130度で追加の圧縮比テストを導入することで決着を図ったのだ。ライバル勢にとっては、本来8月1日導入予定だったものが前倒しされた点で一定の成果があった。一方で、この提案が全会一致で承認されたことは、メルセデス側も受け入れ可能であったことを示している。これは、低温テストが高温テストと並行して維持されたことが、同チームにとって極めて重要だったためだ。
中東でのレース中止により、圧縮比の測定方法変更までのグランプリは当初の7回から5回へと減少した。つまり、メルセデスが高い圧縮比の恩恵を受ける機会が想定より少なくなったことを意味するわけだ。
ただ実情は一般に語られているよりも複雑だ。メルセデスの圧縮比は実戦で18:1に達しているという推測も一部にあるが、実際にはそこまで高い数値ではなく、ラップタイム向上も一部報道で示されたほど大きくはない。
序盤のレースから判断すると、メルセデスの強さは圧縮比だけで説明できるものではなく、エネルギー使用の効率、シャシー、そしてエアロダイナミクスの総合的な性能が大きく寄与していると考えるべきだ。
パドック内では、メルセデスがエンジンを再ホモロゲーションする必要がない可能性すら指摘されており、今後数ヵ月で状況が変わらなければ、大きなハードウェア変更は不要だろう。そうなればメルセデスのトト・ウルフ代表が「大した問題ではない」と語っていた通りの展開となる。
したがって、レースの構図が劇的に変化する可能性は高くない。ただしメルセデスも他の全メーカーと同様に、新たな圧縮比テストに適合するまでのレースウィークが当初想定より実質的に2戦分少なくなっている点は重要だろう。

