サメたちは恐竜時代の「新参者」だったかもしれない

この話は、名前の問題だけで終わりません。
家系図が変わると、体のつくりの歴史も変わります。
今回の研究で特に重く見られているのが、古いタイプのサメ(六鰓目)たちが持つ、独特なあごのつくりです。
多くの現生サメでは、上あごは比較的“ぶら下がる”感じが強く、口を前に突き出したり、獲物にかみつくときに動きやすい方向へ改造されています。
エイやガンギエイでは、それがさらに進んで、あごはかなり自由に動けるようになっています。
論文でも、エイやガンギエイのあごは、とても動きやすい型だとされています。
それに対して六鰓目は、もっと「頭にがっちり支えられている感じ」が残っています。
もし六鰓目が、ほかのサメやエイの外側に立つ本当に古い枝だとすると、その「いわゆるサメ」から見て変に思えるアゴのほうが、より先祖に近い形態であると言えます。
そうなると、サメやエイのあごがどうやって今のように動きやすくなり、どんな食べ方を広げていったのかという大きな物語まで変わってきます。
さらに面白いのが、巨大なろ過食者の話です。
ジンベエザメやマンタのように、小さな生き物を海水ごと取りこんでこし取る巨大な動物たちは、いかにも昔から海の主役だったように見えます。
けれど論文は、今生きているそうした巨大な仲間の多くが、思ったほど古くないかもしれないと示しています。
白亜紀の終わりに大絶滅が起きたあと、海に空いた大きな役割の席へ、比較的新しい時代に広がっていった可能性があります。
巨大な体で海をゆっくり進むあの姿も、永遠の原始の名残というより、変化する海の中でつかみ取られた新しい成功の形だったのかもしれません。
もう一つ地味ですが大きな話があります。
それは、体の設計図全体の大きさです。
今回の研究では、サメやエイの共通祖先のあたりで、この設計図が一度どっと増えたかもしれないことが示されました。
たとえるなら、もともとは薄い説明書で動いていた機械が、ある時代から急に分厚い説明書を持つようになった、という感じです。
その中で六鰓目は、その大きな変化が起きたグループの中でも早い段階で分かれた位置にいるように見えます。
つまり六鰓目は、あとから説明書が分厚くなっていった仲間たちと比べると、変化が進む前の古い状態を多めに残している可能性があるのです。
ぱっと見で目立つ話ではありませんが、これはとても大事です。
なぜなら、サメやエイの体の土台が、まずどこで大きく変わり、そこからどんな枝が広がっていったのかを考える手がかりになるからです。
もっとも、今回の研究で全ての決着がついたわけではありません。
研究者たちは同じゲノムを使っても、見る場所によって答えが割れるという点について慎重であり、事実の確定には続く研究が必要であることを認めています。
ただ新たな研究では「サメは何億年も前から姿を変えていない生き物だ」という画一的な考えを揺るがすものでもあります。
海の王者は、何度も分かれ、何度も姿を変え、ときには古い形を残し、ときには新しい生き方を広げながら、今の海へたどり着いた複雑な歴史が垣間見えてきたからです。
元論文
Phylogenomics and the origins of sharks
https://doi.org/10.64898/2026.02.13.705779
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

