
私たちは知らず知らずのうちに、ナノプラスチックを摂取し、体内に取り込んでいる可能性があります。
水や食品、さらには身の回りの環境を通じて入り込む極小のプラスチックは、あまりに小さいため目で確認することもできません。
こうした見えない汚染に対し、韓国の世界キムチ研究所(World Institute of Kimchi)の研究チームは、キムチ由来の乳酸菌がナノプラスチックの排出を助ける可能性を示しました。
研究では、キムチ由来の乳酸菌Leuconostoc mesenteroides CBA3656が、ナノプラスチックを腸内でつかまえ、体外へ出しやすくする働きを持つことが報告されています。
この研究は2026年2月21日付で学術誌『Bioresource Technology』に掲載されました。
目次
- キムチ由来の乳酸菌が腸内からナノプラスチックを排出するのに役立つ可能性
- キムチ由来の乳酸菌は、マウスのプラスチック排出量を2倍以上に
キムチ由来の乳酸菌が腸内からナノプラスチックを排出するのに役立つ可能性
ナノプラスチックとは、直径1マイクロメートル未満の非常に小さなプラスチック片のことです。
プラスチックごみが光や熱、水などで細かく壊れていく中で生まれ、海産物、飲み水、塩などを通じて体内に入る可能性があると考えられています。
私たちは1年間で10万個かそれ以上のプラスチック片を取り込んでいるとさえ考えられています。
研究者たちは、こうした粒子が腸内環境の乱れや炎症などに関わるおそれがあるため、環境中だけでなく体内でも減らすことが重要だと説明しています。
そこで彼らが注目したのが、発酵食品に含まれる乳酸菌でした。
乳酸菌は食品由来で安全性が高く、これまでもさまざまな有害物質を吸着できる可能性が研究されています。
今回の研究では、キムチ由来の菌の中から、ナノプラスチックをよく吸着できる菌を探し、Leuconostoc mesenteroides CBA3656を有望株として詳しく調べています。
比較対象としては、別のキムチ由来乳酸菌や同系統の菌株も用いられました。
実験は段階的に行われました。
まず試験管内で、ナノプラスチックの濃度、酸性・アルカリ性の強さを表すpH、温度、接触時間などを変えながら、この菌がどれほど粒子を吸着できるかを調べました。
次に、人の腸内に近い状態をまねた模擬腸液の中でも性能を確認。
さらに、腸内細菌を持たない無菌マウスにナノプラスチックを与え、この菌を投与したときに排出量がどう変わるかを確かめました。
その結果、CBA3656は幅広い条件の下で高い吸着性能を示しました。
模擬腸液の中でも、比較した他の菌株より高い性能を保ち、無菌マウスでは糞便中に排出されるナノプラスチック量が有意に増えました。
つまりこの菌は、ナノプラスチックを腸内でとらえ、体の外へ出しやすくする可能性を示したのです。
では、この菌はなぜそんな働きができるのでしょうか。詳細を見てみましょう。
キムチ由来の乳酸菌は、マウスのプラスチック排出量を2倍以上に
この研究で特に重要なのは、CBA3656がナノプラスチックを分解するのではなく、表面にくっつけることで回収していると考えられた点です。
論文では、この吸着のふるまいが主に物理吸着で説明できるとされています。
要するに、菌がプラスチックを化学的に壊しているのではなく、細胞表面に粒子を付着させ、そのまま体外へ運び出しやすくしているわけです。
その仕組みに関わっていると考えられたのが、菌の細胞の表面にある「くっつきやすい性質」です。
研究では、P=O、C=O、C-O-Cといった構造がナノプラスチックとの相互作用に関わる可能性が示されています。
しかも、この働きはさまざまな条件でも安定して続きました。
CBA3656は、ナノプラスチック濃度が10〜200ppm、pHが3〜9、温度が4〜55℃という広い条件でも高い吸着効率を維持しました。
さらに、模擬腸液の中でも他のLeuconostoc mesenteroides株より優れており、吸着率は57%だったと報告されています。
試験管の中だけでなく、腸内に近い条件でも性能が落ちにくかったことは、この研究の大きなポイントです。
マウス実験でも結果ははっきりしていました。
無菌マウスにポリスチレン製のナノプラスチックを与えたところ、CBA3656を投与した群では、投与しなかった群よりも糞便への排出が有意に増えました。
排出されたプラスチック量は約2倍以上も多かったのです。
これは、この菌が腸内でナノプラスチックをつかまえ、体内に長くとどまるのを減らす可能性を示しています。
環境中のプラスチック対策というと、これまではフィルターや分解技術が中心でした。
しかし、この研究は「食べられる微生物で体内排出を助ける」という別の方向性を示した点で興味深いものです。
もちろん、現段階では、そのまま人に当てはめることはできません。
今回使われたのは無菌マウスであり、人の腸のように多種多様な細菌がひしめく環境ではありません。
ほかの微生物との競争の中でこの菌が同じように働けるかは、まだ分かっていないのです。
また、どの程度の量を摂れば効果が出るのか、長期間摂取して問題はないのかなど、今後確かめるべき点も残されています。
それでもこの研究は、発酵食品に含まれる身近な微生物が、現代の新しい汚染問題に対して役立つかもしれないことを示しました。
見えないナノプラスチックに対抗する手段は、案外、昔から食卓にあったのかもしれません。
参考文献
This Probiotic From Kimchi Can Vacuum Nanoplastics Right out of Your Gut
https://www.zmescience.com/science/news-science/kimchi-bacteria-removes-nanoplastics-human-body/
元論文
Efficient biosorption of nanoplastics by food-derived lactic acid bacterium
https://doi.org/10.1016/j.biortech.2026.134234
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

