
水族館やダイビング中、魚と目が合った気がしたことはないでしょうか。
あれは単なる気のせいなのでしょうか。
それとも本当に、魚は「こちらの視線」に気づいているのでしょうか。
そんな素朴な疑問に対し、京都大学の研究者らが驚くべき答えを示しました。
アフリカのタンガニーカ湖に生息する魚・シクリッドが、人間の「視線の向き」を見分けて行動を変えていたのです。
研究の詳細は2026年3月18日付で科学雑誌『Royal Society Open Science』に掲載されています。
目次
- 魚は「人がどこを見ているか」わかっていた
- 魚にも「人の注意を読む力」がある
魚は「人がどこを見ているか」わかっていた
今回の研究で対象となったのは、アフリカのタンガニーカ湖に生息する大型の魚、シクリッドの一種(Boulengerochromis microlepis)です。
この種は子育て中、卵や稚魚を守るために強い防御行動を示すことで知られています。
研究チームはタンガニーカ湖で、繁殖中のペアを対象に水中実験を行いました。
スキューバダイバーが魚に対してさまざまな「見方」をする状況を作り、その反応を比較したのです。
具体的には、ダイバーが
(1)卵や稚魚を直接見つめる
(2)近くにいるが魚からは視線をそらす
(3)体を背ける
(4)親魚だけを見つめる
という4つの条件を設定しました。
【実験の図解イメージがこちら】
そして魚の攻撃行動や接近の様子を水中カメラで記録しました。
その結果は明確でした。
ダイバーが卵や稚魚を見つめたとき、親魚は明らかに攻撃回数を増やしたのです。
一方で、視線をそらしたり体を背けたりすると、攻撃は減少しました。
つまり魚は単に「人が近くにいる」ことではなく、「その人がどこを見ているか」に応じて行動を変えていたのです。
魚にも「人の注意を読む力」がある
さらに興味深いのは、ダイバーが「子ども」を見ている場合と「親魚」を見ている場合で、攻撃の強さがほぼ同じだった点です。
これは、魚が単に危険な対象に反応しているのではなく、「相手の注意の向く先」そのものを捉えている可能性を示しています。
論文では、この能力を「注意帰属(attention attribution)」と呼び、他者がどこに注意を向けているかを推測する認知過程の一種と説明しています。
これはこれまで主に霊長類や鳥類で議論されてきた能力であり、魚で示唆された例は極めて限られています。
もしこの解釈が正しければ、魚は「誰かが何に関心を向けているか」を読み取り、それに応じて防御行動を調整していることになります。
これは、従来考えられていたよりもはるかに柔軟で高度な認知能力です。
またこの研究は、人間の活動にも示唆を与えます。
スキューバダイビングなどのエコツーリズムでは、単に触れないだけでなく、「見つめる」という行為そのものが魚にストレスを与える可能性があるのです。
今回の研究は、魚が「見られていること」に気づくだけでなく、「どこを見られているか」まで区別している可能性を示しました。
これは、魚の認知能力に対する従来のイメージを大きく塗り替える結果です。
水の中で静かにこちらを見返してくる魚たち。
その視線の裏には、私たちが思っている以上に鋭い観察力が隠されているのかもしれません。
今後、魚の心の世界はさらに広がって見えてくることになりそうです。
参考文献
The fish species that knows when you are watching them
https://phys.org/news/2026-03-fish-species.html
元論文
Watching the watchers: emperor cichlids can perceive attention towards their offspring by divers
https://doi.org/10.1098/rsos.251919
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

