
辺りは静かな環境なのに「キーン」という音がたびたび聞こえる。
これは「耳鳴り」の代表的な症状です。
英オックスフォード大学(University of Oxford)による2022年の研究で、耳鳴りの発生には「睡眠の乱れ」が深く関わっている可能性が示されました。
耳鳴りに悩んでいる方は、睡眠不足や睡眠の質の低下が背後にあるのかもしれません。
目次
- 耳鳴りは「脳が作る音」だった
- 睡眠が耳鳴りを抑え、同時に悪化もさせる?
耳鳴りは「脳が作る音」だった
耳鳴りは、外から音が入っていないにもかかわらず、音が聞こえる現象です。
このような知覚は「幻覚的知覚」と呼ばれ、脳が自ら生み出した感覚だと考えられています。
その背景には、聴覚の入力が低下したときに、脳が補おうとして活動を高めるという仕組みがあります。
つまり、耳鳴りは耳の異常というよりも、脳の過剰な自発活動によって生じる現象です。
一方、睡眠もまた外界からの入力が減少し、脳の内部活動が主導する状態です。
特に深い睡眠(ノンレム睡眠)では、脳全体でゆっくりとした大きな波のような活動が広がります。
興味深いことに、耳鳴りで異常が見られる脳の領域は、前頭葉や頭頂葉、聴覚野、さらには感情を司る辺縁系など、睡眠の制御にも関わる領域と重なっていることが指摘されています。
つまり、耳鳴りと睡眠は別々の現象ではなく、同じ神経ネットワークの中で起きている可能性があるのです。
睡眠が耳鳴りを抑え、同時に悪化もさせる?
では、この2つはどのように影響し合っているのでしょうか。
研究では、耳鳴りと睡眠の間に、一種の「せめぎ合い」がある可能性が示されています。
耳鳴りがあると、脳の一部が過剰に活動し続け、いわば「局所的に覚醒した状態」になります。
これにより、本来は脳全体が同期していくはずの睡眠が乱れ、結果として睡眠の質が低下します。
実際に、耳鳴りを持つ人の多くが不眠や睡眠の質の低下を訴えています。
一方で、深い睡眠に入ると状況は逆転します。
ノンレム睡眠で見られる大規模で同期した脳活動は、こうした局所的な過活動を押さえ込む働きを持つと考えられています。
つまり、深い睡眠は耳鳴りを一時的に弱める可能性があるのです。
しかし、話はそれだけでは終わりません。
睡眠には、記憶や神経回路を固定する働きがあります。
そのため、耳鳴りに関わる異常な神経活動が、睡眠中に強化されてしまう可能性も指摘されています。
このように、
・耳鳴りが睡眠を乱す
・睡眠不足が脳の調整機能を弱める
・結果として耳鳴りが悪化する
という悪循環が生じる可能性があります。
さらにストレスも重要な要因です。
睡眠不足はストレス耐性を低下させ、ストレスは耳鳴りを悪化させることが知られています。
こうして耳鳴りと睡眠、ストレスは複雑に絡み合っていくのです。
耳鳴り治療のカギは「眠り」にあるかも
これまで耳鳴りは「耳の問題」として扱われることが多くありました。
しかし今回の研究は、耳鳴りがむしろ脳全体の状態、とりわけ睡眠と深く結びついた現象である可能性を示しています。
もしそうであるなら、治療の方向性も変わってくるはずです。
薬や音響療法だけでなく、睡眠の質を改善することが、耳鳴りの軽減につながる可能性があります。
耳鳴りは、脳と睡眠が交差する場所で起きている、静かな「せめぎ合い」のサインなのかもしれません。
参考文献
Tinnitus Is Somehow Connected to a Crucial Bodily Function
https://www.sciencealert.com/tinnitus-is-somehow-connected-to-a-crucial-bodily-function
元論文
Tinnitus: at a crossroad between phantom perception and sleep
https://doi.org/10.1093/braincomms/fcac089
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

