
私たちには、生きていく中で不安や恐怖を感じてしまうものがあります。
今回、チェコのプラハ・カレル大学(Charles University)の研究で、私たち人類には共通して冷や汗をかいてしまう2つの対象があることが示されました。
それは「ヘビ」と「高い所」です。
研究の詳細は2026年3月18日付で学術誌『PLOS One』に掲載されています。
目次
- 現代の危険よりも強く反応する「古い恐怖」
- 「同じ祖先の恐怖」でも中身は違っていた
現代の危険よりも強く反応する「古い恐怖」
研究チームは119人の参加者に対し、さまざまな「恐怖を引き起こす画像」を見せ、そのときの身体反応を測定しました。
提示されたのは、毒ヘビや高所といった「祖先的な脅威」と、銃や感染症といった「現代的な脅威」です。
さらに比較のため、葉の写真のような無害な画像も用意されました。
ここで注目されたのが「皮膚抵抗」です。
これは皮膚の電気の流れにくさを示す指標で、発汗が増えると低下します。
つまり、数値が変化するほど「冷や汗」をかいていることを意味します。
結果は明確でした。
すべての脅威画像は無害な画像よりも強い発汗反応を引き起こしましたが、特に強い反応が見られたのは「高所」と「毒ヘビ」でした。
一方で、銃や感染症といった現代的な脅威も確かに反応を引き起こしましたが、その強さはやや劣っていました。
この結果は、人間の恐怖が単に「今の危険」によって決まるのではなく、進化の過程で長く向き合ってきた脅威に強く根ざしている可能性を示しています。
「同じ祖先の恐怖」でも中身は違っていた
しかし、この研究の面白さはここで終わりません。
一見すると同じ「祖先的な脹威」である高所と毒ヘビですが、実際にはその反応の仕方が大きく異なっていたのです。
まず主観的な評価では、毒ヘビが最も「怖い」と感じられていました。
しかし、その恐怖の強さと身体の反応(発汗)は必ずしも一致しませんでした。
つまり、「すごく怖い」と感じている人が、必ずしも最も強い冷や汗をかいているわけではなかったのです。
特にヘビの場合、このズレが顕著でした。
研究者はこれについて、ヘビに対する恐怖は、無意識的な処理に強く依存している可能性があると指摘しています。
一方で高所の恐怖は、主観的な恐怖感と身体反応が比較的一致していました。
つまり、高所は「怖いと感じる」と同時に「体も反応する」タイプの脅威といえます。
この違いは重要です。
なぜなら、人間の恐怖は単一の仕組みではなく、対象ごとに異なる処理系が働いていることを示唆しているからです。
あなたの「冷や汗」は、遠い祖先からのメッセージかも
今回の研究は、「人間は祖先の脅威に強く反応する」という単純な説明では不十分であることを示しました。
現代の脅威にも私たちはしっかり反応しますが、それでもなお、高所や毒ヘビといった存在は、特別な位置を占めているのです。
そして興味深いことに、その恐怖は一枚岩ではありません。
高所のように意識と身体が連動する恐怖もあれば、ヘビのように無意識の奥深くで反応する恐怖も存在します。
もしあなたが高い場所で足がすくんだり、ヘビを見て理由もなくゾワッとしたりするなら、それは単なる気のせいではありません。
それは、人類が長い進化の歴史の中で刻み込んできた、「生き延びるための反応」そのものなのです。
参考文献
Why heights and snakes still hit harder: Study tracks fear sweat in 119 people
https://phys.org/news/2026-03-heights-snakes-harder-tracks-people.html
元論文
Subjective and psychophysiological response to pictures of ancestral and modern threats: Not all evolutionary threats are alike
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0343680
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

