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綱島のYTCは日本企業とアップルの絆。ティム・クックCEOが国内サプライヤー4社のプレゼンを受ける

横浜の綱島にあるApple YTC(横浜テクニカルセンター)で、アップルのティム・クックCEOが、国内サプライヤー4社のプレゼンテーションを受けた。今回プレゼンテーションされたパーツは、いずれも最新型iPhone 17 Proのカメラ周りで使われているパーツで、どのひとつが欠けても、iPhone 17 Proのカメラ性能を実現できない大切なパーツであることがよく分かった。

アップルCEOティム・クック、日本の拠点であるApple YTC(横浜テクニカルセンター)を訪問

アップルCEOティム・クック、日本の拠点であるApple YTC(横浜テクニカルセンター)を訪問

2025年09月26日

綱島にあるアップルの施設が何をやっているのかようやく分かった

iPhoneの製造といえば中国やインドのFoxconnなどで組み立てられていることが有名。また、心臓部であるA19 ProなどApple Siliconは台湾のTSMCで作られている。通常、アップルは部品供給メーカーを開示しないことが多いが、2022年に発表されたレポートによると、1000社近い日本のサプライヤーから部品を購入しているようだ。

Apple、日本のサプライヤーへの投資を加速:2018年以降1,000億ドル以上を支出
https://www.apple.com/jp/newsroom/2022/12/apple-accelerates-investment-with-suppliers-in-japan/

部品というと、我々は比較的大きな目に見えるサイズのものをイメージするが、iPhoneをはじめ、iPad、Mac、そしてApple WatchやAirPodsは、ほとんど目に見えるか見えないかぐらいの細かい部品が何千、何万と集まって構成されている。そして、その中には、日本メーカーでないと作れない部品も数多い。

その部品を、米国カリフォルニアに本拠を置くアップルに対して、提案、テスト、協業して開発するための窓口として機能しているのが、このApple YTCだということだ。

2017年に稼働を開始したこの施設には約6000平方メートルのラボスペースがある。今回、我々が取材した部屋の下には、ホコリを完全に排除したクリーンルームがあり、サプライヤー各社から提供されたパーツのテストなどを行っているという。

この施設が主に取り扱っているのはカメラ、レンズの技術を主とした光学技術。カメラのみならず、光学全般の研究を行っているというから、Face IDや、AirPods Pro 3に装備された赤外線心拍センサーのような部品も扱っているのかもしれない。

この施設で働くスタッフは『数百人』とのことだが、従来であればカリフォルニアの本社に行って、テストや打ち合わせをしなければならなかったところが、Apple YTCで、しかも日本語で行えるのだから、日本の工学系サプライヤーにとっても利便性の向上は計り知れない。

ちなみに、この施設の誘致に関しては、故安倍晋三元首相が尽力したと言われており、この施設のおかげでアップル製品への日本製部品の供給比率は大きく上がってるというから、故安倍元首相の日本経済への貢献は非常に大きいと言えるだろう(たとえ、100円の部品でも、年間約2億台生産されるというiPhoneに採用されれば200億円の売上になる!)。

通常の開発の流れは、米国の本社からの要望に従って開発するわけだけれども、逆に日本で面白い技術があったら、Apple YTCで研究開発をして、うまくいったら米国のチームに提案して商品として開発するということも行われているらしい。単なる出先機関ではなく、自発的に開発を行っているとのこと。製造開発に使う機材の会社や、素材の会社などとも日本語で深く話し合った上で米国本社に提案できるので、このApple YTCがなかったらアップルとは接点がなかったような会社の技術も取り上げていけているという。アップルに採用されると、当然他のすべての企業が注目するので、日本の技術を海外に広げていく場所としても機能している。

磁性体ひと筋90年のTDKが、iPhone 17 Proの素早いAFを実現している

今回、ここでクックCEOにプレゼンした企業は4社。いずれも、iPhone 17シリーズのカメラモジュールに深く関わる企業だ。

最初にプレゼンしたTDKからは、代表取締役社長執行役員CEOの齋藤昇氏と、取締役執行役員CTO 橋山秀一氏ほかの方々がクックCEOに向けてプレゼンテーションした。

TDKはこの12月でなんと創業90年を迎える歴史ある会社。創業社長の齋藤憲三氏(同姓だが現社長との血縁関係はない)が、東京工業大学(現東京科学大学)の博士が発明したソフトフェライトの製品化を目的として立ち上げた会社だ。ちなみに、創業時の社名は東京電気化学工業。

創業期には通信に使われたフェライトコア磁石や、いわゆる黒電話に使われていた受話器のスピーカーや、呼び出しベル用の電磁石のコア材もTDKの磁石だった。それに、もちろん、我々の青春を支えたカセットテープなど磁気記憶媒体の多くがTDK製だった。創業時からTDKは一貫して磁性体を活かした製品を作り続けているのだ。

初代のiPodにもTDKの部品は使われており、アップルとの付き合いはその時代にまで遡る。写真はその話を自社に保存されていたiPodを示しながら、クックCEOに話す齋藤社長。

このiPodは本当に新品同様にピカピカで、クックCEOもちょっと欲しそうだった(笑)

プレゼンテーションは4社ともすべて英語で行われたが、特に齋藤社長の英語はノリノリで、最初のTDKのことを説明するプロモーションムービーでは踊り出すほどだった。プレゼンテーションも非常に上手で説得力があり、クックCEOも笑顔でうなずいていた。日本の社長がこんなにノリノリでプレゼンしているのは、筆者も初めて見たかもしれない(笑)。このパッションがTDKを支えてきたんだなぁと感動した。おそらく、その場にいた人、全員がそう感じたと思う。

iPhone 17シリーズのカメラに使われているのは、TMRセンサー(トンネル磁気抵抗センサー)という磁石を利用したセンサー。

実物を見せていただいたのだが、サイズはゴマ粒の数分の一というようなもの。小さなワイングラスの中に「5000個入っています」というサイズ感だ。

このセンサーがiPhoneのカメラのズームの位置検出を支えているのだそうだ。薄さ数ミリというiPhoneの中でのカメラのズームであるから、そこで正確な合焦をするには数μmの位置合わせが必要。その精度を支えているのがTDKのTMRセンサーなのだ。

筆者はじめ、多くのレビュアーがiPhone 17シリーズのカメラのオートフォーカスの速さに驚いているが、その速さを支えている部品のひとつが、TDKの作るゴマの数分の一のサイズのTMRセンサーだというわけだ。

TDKの部品が他社製品で代替されないのは、同社が創業以来90年に渡って磁性体にこだわっているからで、材料工学のノウハウ、垂直統合の生産体制、知財、長年の経験値があり、他社では実現不可能な小型、高性能で、高周波でも極めて損失が少ないパーツが作れるからなのだそうだ。

配信元: Dig-it

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