
「自分の恋人は、あまり怒らないし、干渉もしてこない。自由にさせてくれるし、居心地がいい」
そんな関係を、理想的だと感じている人は少なくないでしょう。
ケンカも少なく、衝突もない。穏やかで安定した関係に見えます。
しかし、その“穏やかさ”は本当に安心できるものなのでしょうか。
もし相手が、あなたに対して強い好意も不満も抱いていないとしたら、それは単なる優しさではなく、「無関心」という別の状態かもしれません。
オランダの自由大学アムステルダム校(VU)の研究チームは、恋人に対してポジティブな感情もネガティブな感情もほとんど抱かない「無関心」が、関係の質や本人の心の状態とどう結びつくのかを調べました。
研究では、複数の調査と3年間の追跡データを使って、この状態が関係満足度の低下や抑うつ傾向などと関連することが示されています。
詳細は、2026年1月8日付の学『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されました。
目次
- 恋愛における「何も感じない」の影響は?
- 無関心は「退屈」「親密さの低下」「浮気心」に繋がる
恋愛における「何も感じない」の影響は?
恋愛関係では、愛情や喜びだけでなく、ときには不満や怒りも含め、相手に対して何らかの強い感情が動くのが普通です。
だからこそ、「好きでも嫌いでもない」という状態は、かえって見過ごされやすいのかもしれません。
この研究が注目したのは、まさにその点でした。
心理学では、相手への評価は大きく4つのパターンに整理できると考えられています。
好意が強い状態、嫌悪が強い状態、好意と嫌悪が同時にある状態、そして今回のテーマである「どちらも弱い状態」です。
研究チームは、この最後の状態を「無関心」として、恋愛関係の中で詳しく調べようとしました。
研究は複数の調査から成り立っています。
Study 1では591人、Study 2では980人の恋愛関係にある参加者をオンラインで調査しました。
さらにStudy 3では、オランダ在住のカップルを対象に、最終的に360人のデータを3年間にわたって追跡しました。
半年ごとに質問票へ回答してもらうことで、無関心と関係の変化の結びつきを時間の流れの中でも確かめています。
この調査のために、研究チームはまず、恋人に対する無関心を測るための新しい尺度を作りました。
「Subjective Interpersonal Indifference Scale」という名前で、これは、「相手に強い感情を感じない」「喜びも失望もあまり感じない」といった項目に答えてもらい、恋人への無関心の程度を数値化するものです。
そのうえで、関係満足度、コミットメント(関係を続けようとする気持ち)、信頼、別れを考える頻度に加え、人生満足度、ストレス、抑うつなども測定。
さらに、なぜ無関心が悪影響をもたらすのかを探るため、関係の退屈さ、親密さ、そして恋人以外の魅力的な相手への関心も調べています。
その結果、恋人に対して無関心な人ほど、関係満足度や信頼、コミットメントが低く、別れを考えやすい傾向が繰り返し示されました。
個人面でも、人生満足度の低下や抑うつ傾向との関連が報告されています。
しかもこれは、単に「相手を嫌っているから」では説明しきれないものでした。
研究では、相手全体を低く評価している影響を統計的に差し引いても、無関心そのものが独自に悪い結果と結びついていたのです。
では、なぜ「嫌いでもない状態」がここまで関係を弱らせるのでしょうか。
無関心は「退屈」「親密さの低下」「浮気心」に繋がる
この研究の大きなポイントは、「無関心が悪いらしい」で終わらず、その背景まで調べていることです。
そこで浮かび上がったのが、「退屈」「親密さの低下」「魅力的な代替相手への関心」という3つの要素でした。
まず1つ目は、関係の退屈さです。
無関心な相手は、喜びや刺激の大きな源にもなりにくく、かといって強い葛藤の相手でもありません。
そのため関係が刺激に乏しいものとして感じられやすくなり、単調さが増していくと考えられます。
実際、研究では無関心が強い人ほど、関係を退屈だと感じやすく、その退屈さが関係満足度や人生満足度の低下と結びついていました。
2つ目は、親密さの低下です。
相手に強い感情を抱かなくなると、自然と深く関わろうとする気持ちも弱まりやすくなります。
すると、気持ちを打ち明けたり、一緒に何かを共有したりする機会が減り、心理的な距離が広がります。
研究でも、無関心が高いほど親密さは低く、そのことが関係満足度や信頼の低下、別れを考える頻度の上昇と結びついていました。
3つ目は、恋人以外の魅力的な相手への関心です。
今の相手に強く心が動かなくなると、人の注意は外に向きやすくなります。
研究では、無関心が高い人ほど「ほかの魅力的な相手」に気持ちが向きやすく、それが関係満足度やコミットメントの低下、別れを考えることと関係していました。
いわば、関係が冷えることで「よそ見」が起こりやすくなるわけです。
一方で、ここは重要ですが、仕事や趣味、友人や家族への関心が高いこと自体は、無関心と関係悪化をつなぐ主要な要因にはなりませんでした。
つまり問題は、単に忙しいことではなく、恋愛関係そのものへの感情的な関わりが薄れていく点にあると考えられます。
さらに3年間の追跡研究では、早い時点での無関心が、その後の関係満足度の低下などと結びつくことも示されました。
無関心がその場限りの気分ではなく、その後の関係の質の低下と結びつく可能性を示した点は重要です。
もちろん、この研究にも限界はあります。
データはすべて自己報告なので、本人の感じ方の偏りが入り込む余地があります。
また、観察研究である以上、「無関心が原因で関係が悪くなった」とまでは断定できません。
むしろ、関係がすでに悪化しつつあるから無関心が生まれている可能性も残ります。
今後は、会話の内容や行動の記録など、より客観的なデータを使った研究が進めば、無関心がどのように生まれ、どの段階で関係の危険信号になるのかが、もっとはっきり見えてくるはずです。
この研究は、恋愛関係を弱らせるのが、強い怒りや不満だけではなく、「何も感じなくなること」でもありうると示しています。
静かな関係が、いつも安全とは限らないのかもしれません。
参考文献
Romantic indifference breeds boredom, lower intimacy, and a wandering eye
https://www.psypost.org/romantic-indifference-breeds-boredom-lower-intimacy-and-a-wandering-eye/
元論文
Just Not That Into You: Experiences of Indifference Toward a Romantic Partner
https://doi.org/10.1177/01461672251410278
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

