
インドのムンバイ大学(University of Mumbai)を中心とする研究グループは、宇宙に存在するこれまでで最も強力かつ巨大な「奇妙な電波円(ORC)」を発見しました。この電波円は遠い宇宙にある銀河を囲むようにして現れ、全体の広がりはおよそ260万光年、個々のリングの直径は約300キロパーセク(約100万光年)という途方もないスケールを持ちます。
さらに驚くべきことに、このリングから放たれる電波の明るさ(電波光度)は従来の同種天体より約100倍も強力であり、二重のリング構造という非常に珍しい特徴も備えていました。
いったいどのような宇宙の営みが、このような巨大で謎めいたリングを生み出したのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年10月2日に『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』にて発表されました。
目次
- 宇宙に現れた巨大「電波円」は何が作ったのか?
- 巨大電波円は260万光年にかけて広がっている
- 宇宙の巨大リングを作る驚きの仕組みとは?
宇宙に現れた巨大「電波円」は何が作ったのか?

宇宙には私たちがまだ十分に理解していない、不思議な天体が存在しています。
その一つが「奇妙な電波円(ORC:Odd Radio Circle)」という現象です。
このORCとは、銀河のまわりに突然現れる、巨大なリング状の構造をした電波の放射源のことを指します。
「電波」と聞くと私たちの日常生活ではラジオ放送をイメージしがちですが、実は宇宙に存在する星や銀河、ブラックホールなども強い電波を放っています。
そしてその電波の放射が円形に広がり、まるで宇宙空間に浮かぶ「電波の輪っか」のように見えるものがORCです。
このORCの多くは非常に巨大で、サイズは100〜500キロパーセクにも達します。
キロパーセク(kpc)という単位は天文学で銀河のサイズを測る時に使われ、1キロパーセクは約3,260光年(光が1年で進む距離)に相当します。
つまりORCは、数十万~数百万光年という途方もない大きさの輪を作っているのです。
私たちの天の川銀河の直径が10万光年であることを考えると、その巨大さがわかります。
しかし、この輪は普通の望遠鏡で見える光(可視光)やX線ではほとんど目立ちません。
電波望遠鏡と呼ばれる特別な観測機器でだけはっきりと見ることができるため、長らくその存在に気づかれずにいました。
実際、この奇妙な電波円が本格的に注目され始めたのはここ数年のことです。
2019年頃から報告が増え始めましたが、なぜ銀河のまわりにこのような巨大なリングが形成されるのか、その詳しい仕組みはまだ謎に包まれています。
しかし、多くの天文学者はそこに非常に重要な宇宙の新しい現象が隠れていると考えており、研究は急激に活発化しています。
では、奇妙な電波円(ORC)の原因はいったい何なのでしょうか?
これについてはいくつかの興味深い仮説が提案されています。
例えば、一つの説は「銀河同士やブラックホール同士が衝突する時に生じる『衝撃波』」というものです。
銀河やブラックホール同士がぶつかると、その巨大なエネルギーが宇宙規模の爆発を引き起こし、その衝撃波が周囲に広がって輪のような電波の残骸を作るのではないか、というシナリオです。
別の説として注目されているのは「スーパーワインド(超銀河風)」説です。
スーパーワインドとは、銀河の中心で大量の星が一斉に誕生したり、中心の巨大ブラックホールが活発化したりした時に、その強力なエネルギーが銀河全体のガスを外側に向かって吹き飛ばす現象を言います。
火山が噴火すると熱風や灰が勢いよく噴き出すのと似ています。
銀河で起きるスーパーワインドは、この火山の噴火口から吹き出す熱風のようなもので、巨大なエネルギーでガスやプラズマを銀河の外へと押し出します。
この強い銀河風が、銀河の外側で活動を終えて漂っていたガス(過去の星やブラックホール活動の名残)にぶつかると、その衝撃でガスが再び加速されて電波として光り出し、結果としてリング状の構造が浮かび上がる、というわけです。
これら二つの説はそれぞれ特徴が異なります。
衝撃波説は「宇宙規模の一度きりの大爆発でリングが作られる」というものです。
一方でスーパーワインド説は「銀河の中心から長期間にわたって吹き続ける巨大な風が、過去に放出されたガスの名残をなぞるようにしてリング状に光らせる」というイメージです。
しかし、どちらの説にもまだ十分な証拠が揃っておらず、研究が進められている真っ最中です。
いずれにせよ、ORCはその数が非常に少なく、また電波が非常に弱いため、従来の天文学ではあまり研究が進まず、長い間見過ごされてきた現象でした。
現在では人工知能(AI)を用いて宇宙に隠された様々な構造を探す研究が盛んに行われていますが、ORCのようにそもそも発見例が少なく、複雑で微かな電波の構造はAIが見つけることが難しいという課題があります。
そのため研究者たちは、あえて昔ながらの方法をもう一度使ってみようと考えたのです。
巨大電波円は260万光年にかけて広がっている

電波円を探し出す「昔ながらの方法」――それは人の目の力を借りることでした。
すると、この方法が大成功を収めます。
新たに発見された電波円「RAD J131346.9+500320」は、それまでの予想をはるかに超えた規模を持つ、驚くべきものでした。
その形は単純な輪ではなく、二つのリングが重なり合っている「二重リング」構造であることが判明しました。
さらに、リングの周囲には電波の霧のような淡いもや(デフューズ成分)が広がっていて、これらすべてを含めると、その直径は約800キロパーセク(およそ260万光年)にもなりました。
中心にはこのリングの母体となっている銀河がありますが、この銀河の中心部から放たれる電波には特別な特徴がありました。
一般に宇宙の電波源は周波数(波の周期)によって明るさが変化することが多いのですが、この銀河の中心部は、どの周波数でも明るさがほぼ一定という「フラット」な性質を持っていました。
これは天文学では珍しいことで、「活動銀河核(AGN)」という、中心部に非常に活動的な巨大ブラックホールを持つ銀河に典型的な特徴として知られています。
このORCがなぜ「史上最強」と呼ばれているかというと、それは放射する電波の明るさ(電波光度)が桁外れに強いからです。
実際に測定された電波光度は約2.27×10^26 W/Hzに達しました。
この数字は、これまで見つかっていたORCの典型的な明るさ(およそ10^23〜10^24 W/Hz)と比べると、およそ100倍という驚異的な明るさでした。
つまり今回のORCは、大きさだけでなく明るさという点でも、これまでの常識を一気に塗り替えるような特別な存在だったのです。
さらに人間の目は、この記録的なORCだけでなく、他にもとても興味深い巨大リング構造を二つ発見しています。
一つは「RAD J122622.6+640622」という銀河で、全長は約865キロパーセク(約280万光年)という驚くべき大きさです。
この銀河の南側に伸びているジェット(銀河中心から高速で吹き出す電波を放つ粒子の流れ)は、途中で不思議なほど鋭く折れ曲がり、直径約100キロパーセク(約30万光年)のリング状構造を作り出していました。
一方で、その銀河の反対側の北側に伸びるジェットの先端はリング状ではなく、一点に集中した明るいスポット(ホットスポット)だけが確認されました。
まるでこの銀河は、左右の「エンジン」の形が非対称な、宇宙に浮かぶ奇妙なジェット機のようです。
もう一つの銀河は「RAD J142004.0+621715」という名前で、全長は約440キロパーセク(約140万光年)とこちらもかなり巨大です。
この銀河では、北側に伸びた細長いジェットの先端に、楕円形をしたリング状の電波構造ができていました。
そのサイズは約64×47キロパーセク(約21万×15万光年)です。
反対側の南側には、細く弱いジェットが一本だけまっすぐ伸びているという不思議な姿で、こちらもまた左右で大きく形が異なっています。
これらの電波リングには重要な共通点がありました。
それは、すべてが「銀河団」と呼ばれる巨大な構造の中に属していることです。
銀河団とは、数百〜数千個もの銀河が集まってできる宇宙最大級の構造体で、太陽の約100兆倍(10^14太陽質量)というとてつもない質量を持っています。
今回発見された3つのリングはいずれも、銀河団か、それに似た環境にありました。
この銀河団のような高密度の環境では、周囲に高温のガスが満ちています。
研究者たちは、このガスの存在など環境の要因がリングの形成に深く関わっている可能性があると考えています。
つまり、銀河団の高温な環境と銀河が生み出すジェットや銀河風が、宇宙の巨大なリングを作り出す舞台装置になっているのかもしれない、ということです。

