
前橋育英で全国制覇4回。高校サッカー界屈指の名将がザスパ群馬のGMに就任した理由「本格的にプラスになる仕事をしたかった」【山田耕介 特別インタビュー】
2009年・22年の高校総体、17年・24年の高校サッカー選手権で頂点に立ち、21年以降、高円宮杯プレミアリーグU-18で戦い続けている名門・前橋育英高校。その指揮官と言えば、1982年から40年以上にわたってチームを率いてきた山田耕介監督だ。
誰もが認める高校サッカー界屈指の名将が、同じ群馬県のJクラブ・ザスパ群馬のゼネラルマネージャー(GM)に就任するという一報が流れたのが、1月15日のことだった。
2月12日の記者会見で、前橋育英高出身の細貝萌社長が「自分が社長・GMを兼務し始めた当初(昨年頭)からGMに相応しい方を検討してきた。クラブが今後、どんな価値を残していくのかを考えたなかで、山田さんしかいないという決断に至った」と説明した通り、教え子の熱心なオファーを受け、転身を決意したのだという。
現在、山田GMは週3日程度、ザスパの練習場であるGCCザスパークに足を運び、現場のサポートに尽力。完全にGM職に専念するのは、26/27シーズンが開幕する8月頃になる見通しだが、百戦錬磨の経験値をいち早く落とし込もうとしている。その偉大な人物に単独インタビューを実施。自身の役割や今後のビジョンなどを聞いた。
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「自分は、70歳を過ぎても高校サッカー界、自分が育て上げてきた前橋育英にとどまることに以前から疑問を抱いていました。若い指導者が伸びるような環境を与えた方がいいという考えが、ずっと頭の中にあったんです。
そのタイミングで細貝社長からお話をいただいた。私も教頭、副校長、校長と14~15年、管理職をやっていて、60歳を過ぎて学監という管理職をサポートする立場になった。それはそれで居心地が良かったし、サッカーに集中できたのも確かなんですけど、新たな環境を作る機会をうかがっていたのも事実。
もともとザスパとはクラブができた頃から関わりがありましたし、前橋商業で長く指導されていた奈良(知彦)先生(育英大学教授)が社長をされていた10年ほど前から理事にもなっていましたけど、もっと本格的にクラブのプラスになるような仕事をしたいという気持ちもあった。それで今年からこの立場でやっていくことを決めました」
山田GMは自身の偽らざる思いをまず口にした。群馬のサッカーと言うと、高校年代は前橋育英を筆頭に、前橋商、桐生第一、高崎健康福祉大学高崎の4チームからプロサッカー選手が輩出されている状況だが、ザスパは残念ながら目下、J3を戦っている状況だ。
「山口素弘、松田直樹という2人のワールドカップ選手を出した群馬県のレベルは低くない」と言われてきたが、もう一段階、突き抜けていくことができれば理想的だ。
「私から見ると、これまでもトップチームはしっかりやっていたように感じていました。もちろん今はJ3なので、J2にすぐ上がらなければいけないのは確か。そこについては現場の沖田優監督とも共有しています。
一方で、アカデミーの方はやや停滞感があるのも事実。Jクラブの育成組織は、プリンスリーグとか関東リーグの上位に行くのが普通なんでしょうけど、今、ザスパのユースは群馬県2部。そこからカテゴリーを上げて、選手がトップチームに上がってくる形に持っていく必要がある。私の経験も還元できますし、その手助けをできればと考えています」と、山田GMは40年以上の蓄積をザスパに注ぎ込む構えだ。
まず、やらなければいけないのは、ズバリ、環境整備である。それは山田GMが前橋育英で実際に取り組んできたことでもある。
1980年代の前橋育英は地元の選手が集まる高校だったが、現在は首都圏を中心に全国のトップ選手が次々と越境入学してくる強豪になっている。多少、時間はかかるかもしれないが、同じような流れを作ることが肝要なのだ。
「前橋育英の選手には地元出身者もいますが、隣の埼玉を筆頭に、東京、神奈川、千葉あたりからも選手が来ています。彼らは寮に入って、学校とグラウンドを行き来していますが、そういう環境がザスパのアカデミーにも必要だと感じます。たとえば前橋育英高校に通いながら、ザスパでサッカーをやる。今後、寮ができれば、そういう選手も増えていくだろうし、できるだけ早く寮の整備を進めたいですね。
外を見れば、鹿島学園には鹿島アントラーズユースと高校でプレーしている選手が混在していますし、興国もセレッソ大阪ユースと高校の選手が同じクラスで勉強している。お互いに切磋琢磨する関係性が自然とできるんですよね。前橋育英とザスパも同じような関係になればすごく良い。そうなるように、私も努力していきたいと思っています」と、山田GMは他地域の成功例も踏まえながら、群馬県のユース年代のレベルアップが実現する形に持っていきたいと考えている様子だ。
ザスパの場合、自前のグラウンドがあるのは強みのひとつだ。GCCザスパークには天然芝が2面、人工芝が2面あり、アカデミーは人工芝を使って練習している。
ただ、前橋育英のグラウンドは高崎インターの目の前で、アクセスに優位性があるが、ザスパークは前橋市の外れ。移動自体はやや負担が生じる。それでも隣で練習するトップチームを間近に感じながら成長できるのは、大きな強みと言っていい。
「ザスパークはまだ新しいですし、施設的にも恵まれています。前橋育英も高崎インター近くのグラウンドができてから、金子拓郎や渡邊凌磨(ともに浦和)、坂元達裕(コベントリー)のような選手が来るようになりましたけど、やはりグラウンドがあることは大きなアドバンテージなんです」
アカデミーの強化に関しては、本当に長い経験値を活かしたアプローチができるだろうが、トップチームのGMとしては新たに学ばなければならない部分も少なくない。Jクラブの強化トップはチーム編成や選手補強、代理人との交渉や契約など多彩な業務をカバー。予算管理という重要な仕事も担っているからだ。
そういった未知なる領域を把握するため、山田GMは3月下旬の「Jリーグ・スポーティングダイレクター・プログラム」を受講する予定。昨年10月からグローバルフットボールアドバイザーとして欧州で手腕を発揮してきたロジャー・シュミット氏も来日しており、彼から直々に話を聞く場もありそうだ。山田GMにとっては刺激的な経験になるのではないか。
「GMの仕事に関しては、すべて一から勉強しないといけないと感じています。『GMとかSDの仕事って何だろう』と自分自身も疑問を持っていましたけど、内容をしっかり理解したうえで、ザスパに合うようなGMの形を見つけることが重要。そのために講習会に参加し、ネットワーク作りも進めていきたいと思っています」と、山田GMは目を輝かせていた。
新たな仕事を覚えるのと同時並行で、トップチームのサッカーの分析検証も進めていくつもりだ。明治安田J2・J3百年構想リーグのザスパはEAST-Aに入っていて、J2勢と数多く試合ができる環境にある。
そういうなかで沖田監督の超攻撃的なスタイルが、通用する部分とそうでない部分もある。それを客観視し、良い方向へ導いていくことも、今後の山田GMの重要タスクである。
「今はまだ沖田監督のスタイルやポジションの呼び方、選手全員の特徴を覚えたところ(笑)。きちんとビルドアップができるようになれば、相手にとって脅威になるのは間違いないと思います。私も前橋育英でテクニックのある選手を育てて、ボールをつなげるサッカーを目ざしてきましたけど、沖田監督の考え方は相通じるところが多いですね。
そういうなかで、プロは勝たなければいけない。そのために言うべきことはしっかり言っていかないといけない。佐藤正美強化部長のサポートも受けながら、的確な提言ができて、良い方向性を示せるように、ここからの時間を大事にしていきたいです」
山田GMは66歳という年齢を一切感じさせないほどアグレッシブだ。サッカーに対しての向上心は誰よりも強い。その高い意識がザスパに注入されれば、J2昇格はもちろんのこと、J1行きも見えてくるのではないか。強く逞しいチームへと引き上げてほしいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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