「明日は早朝フライトだ。それにオーストラリアは夜11時を過ぎるとビールが買えない。まったくどんな国なんだ?」
7万人の大観衆が詰めかけたシドニーの決勝会場。宿敵オーストラリアを1-0で下し、2大会ぶり3度目のアジア制覇を達成したなでしこジャパン。その優勝会見でこう言ってのけたのが、デンマーク出身の知将・ニルス・ニールセン監督(54歳)だ。
深夜の記者会見を笑いに包んだこの一言の裏に、この男の底知れない人間的な大きさがある。
だが笑っている場合ではない。列島には2011年以来の「なでしこフィーバー」再燃の予感が漂い、2027年ブラジルW杯制覇への本格的なカウントダウンが始まった。
「7万4000人の沈黙」――21歳の一撃が歴史を変えた
決勝の舞台、シドニーのスタジアム・オーストラリア。史上最多となる約7万4000人の地元サポーターが作り出す、地鳴りのような「マチルダス(豪州代表)」コール。しかし前半17分、その熱狂を冷徹な沈黙に変えたのは、21歳の浜野まいかだった。
ボックス外で後ろ向きにボールを受けると、鋭く反転して右足を一閃。約23メートルの距離から放った強烈なミドルシュートがゴール右隅に突き刺さった瞬間、スタンドを支配していた黄色い波は静まり返った。
その後、猛攻を仕掛けるオーストラリアに対し、GK山下杏也加を中心とした守備陣は体を張り続け、1-0の完封勝利。6試合29得点1失点、全勝優勝という完璧な数字でアジアの頂点に立った。
【関連】なでしこジャパンの19歳・谷川萌々子に注目集まる 新監督の“全員サッカー”に収まらない逸材
浜野まいかへの最大級の賛辞――「彼女の名前を覚えておいてほしい」
そもそも「浜野まいかとは何者か」を知らない読者のために、ここで紹介しておこう。
大阪府高石市出身、2004年5月9日生まれの21歳。身長165センチ、シャツをズボンにインするのがトレードマークの、あどけない笑顔が印象的なストライカーだ。しかしそのプレーは笑顔とは真逆の「怪物」である。
小学6年生でナショナルトレセンに選出。セレッソ大阪の育成組織で頭角を現すと、高校2年生の17歳でINAC神戸レオネッサとプロ契約――それもクラブ史上最年少という記録を塗り替えてのことだ。高校を中退してプロの道を選んだ決断が、今日の彼女を作った。
その後、名門チェルシー(イングランド)に移籍するや、WSL(女子スーパーリーグ)5連覇達成に貢献。日本人女性として初めてWSLタイトルを手にした。
さらに2022年U-20女子W杯では準優勝に輝き、大会MVPを獲得。2023年女子W杯、2024年パリ五輪と、10代から世界の大舞台を経験し続けている。現在はチェルシーから期限付きでトッテナムに移籍中だ。
ニールセン監督が試合後に絶賛した言葉が、この選手の本質を語り尽くす。
「彼女の名前を覚えておいてほしい。いずれオーストラリアのスター選手たちに並び、それ以上になるかもしれない才能だ」
今大会の準決勝・韓国戦でもスーパーゴールを決めており、決勝の一撃はまぐれではない。2027年ブラジルW杯で世界を震撼させる次世代エースの名は、浜野まいか――。
